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韓国ドラマ「病院船」から(連載89)
「病院船」第8話➡微妙な関係⑩
★★★
自分の診療室に母親がいるのを見てジェゴルは驚く。息子の突然の声にハン・ヒスクも驚く。
「何の用?」
「来るのに用がなくちゃいけない? 少しは歓迎しなさい。まったく親子そろって無愛想なんだから」
「別荘に?」
ジェゴルは回転いすを引き寄せ腰をおろす。母親と向き合う。
「そうよ…ホンさんから連絡があったわ」
ジェゴルは頷く。
「別荘をどうするの? どこも傷んでないのになぜ工事を?」
「必要だから」
「どうしてなの。別荘に住む気?」
「そうだよ。爺やとね」
「何ですって?」
ジェゴルは説明した。
「爺やは1人で暮らしてるが中風にかかってる」
ジェゴルは母親の手を取った。
「今まで助けてくれたから恩返ししたいんだ」
「あなた、少しは自分のことを考えて」
ヒスクはため息をつく。
「こんな時に…まったく」
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ウンジェはジェゴルの母親の”消化不良”気にかかってならない。
彼女と握手した時に経験から来る異変を感じていた。
「胃薬を頂戴」
ヒスクは息子に言った。
「何で?」
「胃が痛むのよ。だから早く薬を」
ウンジェは急いで診察室を飛び出していった。
★★★
ウンジェが診療室に飛び込んできた。ジェゴルに向かって言った。
「胃薬はいらないわ」
ヒスクの前に立った。
「患者さんは横になって」
「待って」とヒスク。「患者?」
「説明は後です。急いで診ます」
ためらいつつヒスクは言われた通り、座ってた場所で横になる。
ウンジェは聴診器を手にした。
「深呼吸を」
ヒスクは指示の通りにする。
「体を左向きに」
左向きになる。
「深呼吸を」
深呼吸をすると胃の痛みが彼女を襲う。
「辛いでしょうが、もう一度」
深呼吸した彼女を増した痛みが再び襲う。
ジェゴルが声を荒げた。
「突然、何の真似だよ」
朝、ランニング中に感じた胸の動悸…ポンプに押し出された血流…
聴診器で血液の流れを読み取っていたウンジェは言った。
「海洋警察を呼んで」
「今、何て?」
「心筋梗塞かもしれない。ですから」
「心筋梗塞? 何ともないのに…」とハン・ヒスク。
「先生」とヒョン。
ウンジェは振り返って言う。
「ヘリの手配を早く」
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「聴診だけで心筋梗塞だと?」
ヒョンは訝しむ。
「不可能なことだよ」
ヒョンの話に呆れた顔になるジェゴル。
「まずは心電図を…」とヒョン。
「聞こえたの…確かに音が聞こえた」
ウンジェはイヤホンでつないだ携帯を取り出した。彼女は毎朝、携帯で心臓の音を学習しながら走っていた。
携帯をヒョンに握らせてウンジェは外に飛び出した。
まずゴウンのところに行った。ニトログリセリンを持って来るよう指示を出し、手術具を取りに行く。
手術具を持って駆け戻る。
「本当に音が?」とヒョン。
「ええ」
「ヘリを呼ぼう」とヒョン。「早くしないと危ない」
「どういうことだよ」
ジェゴルは状況を読み込めないでいる。
「早くして。時間ないわ」とウンジェ。
「俺がいく」
ヒョンが飛び出していく。
「楽になるよう服を緩めて」
「本当なの?」
「外に出てて」とウンジェ。
「何してるのよ」とハン・ヘスク。
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ウンジェは説明する。
「へりが到着するまでモニターでチェックします」
事態を聞きつけて事務長やアリムも駆けつける。
ジェゴルは母親の症状がウンジェの見立て通りかまだ疑っている。
「僕が確かめる」
ウンジェを押しのける。
「先生、酸素飽和度が落ちてます」とゴウン。
ウンジェはジェゴルを押しのける。事務長やジュニョンがジェゴルの腕を引っ張った。
「自発呼吸がない」とウンジェ。
ジェゴルは動揺し、興奮する
「母さんしっかりして! 母さん!」
ウンジェはジェゴルを睨みつける。事務長らに指示を出す。
「外に連れてって。早く」
「は、離せ。母さん!」
悲愴な声で叫ぶジェゴルを事務長やアリム、ジュニョンが外へ引っ張り出す。
「気管挿管を」
ウンジェはヒョンを促す。
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海洋警察がやってきて病院に到着するまでの間、母親の手を握り続けているジェゴルを見ながら、ウンジェは母親の死に立ち会えなかった自分を思い起こしていた。自分の前で母はとうとう蘇らなかった。…
海洋警察の船が駆けつけてハン・ヒスクは巨済病院に運びこまれた。
到着を迎えた医師はウンジェの緊急処置を褒めたたえた。
「聴診で心筋梗塞が分かるとはさすがだな」
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朝のランニングで、ウンジェが毎日聞いている心臓の音をヒョンはずっと自分の診察室で聞いていた。
そこへヨンウンが姿を見せた。
「ヒョンさん、帰りましょ。みんな帰ったわよ」
「やめてくれ。頼むから一人にしてくれないか」
ヨンウンは息をつく。
「まだ、機嫌が悪いのね」
さらに話そうとすると、ヒョンは立ち上がった。そのままヨンウンの前から立ち去った。
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ヒョンは海岸を走った。走りながら、ウンジェが毎日聞いている心臓の音を聞き続けた。