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韓国ドラマ「病院船」から(連載123)

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韓国ドラマ「病院船」から(連載123)




「病院船」第11話➡私に構わないで⑩




★★★


 ウンジェはデッキに出た。父の手術について思いを巡らす。
 父の手術は誰がやるかで手詰まり状態にある。デハン病院で上司だった外科長のキム・ドフンに依頼するのがベストなのは分かっていた。しかし、ウンジェは彼を頼れる立場ではなかった。
 友人を頼ったのはそれゆえだった。すると彼もキム・ドフンの名を挙げ、自分には無理だと断ってきた。ウンジェが自分でやろうと決めたのは、頼れる医者は友人で最後だったからだ。
 キム・スグォン院長に自分がやると申し出たのは、残されたカードは自分しかないと本気で思いつめたからである。親の手術を自分がやるというタブーもあえて承知で…。しかし、手術室を貸してくれるキム・スグォン院長に対する配慮は足りなかったかもしれない。
 しかしどうしたら父を…
 いきなり、ウンジェの脳裏を弟の言葉が走る。


―借金を返したいと…借金を姉さんに背負わせて―死ねないと言ってた。
―父さんを嫌ってるのは分かる。でも僕には父さんが気の毒で…


 ウンジェはかぶりを振った。両手で手をこする。夕暮れの風は冷たかった。


★★★


 病院船をおりたウンジェがバス停に向けて歩いて行くと駐車場にヒョンたちの姿がある。
 車に乗ろうとしているところだった。
 ウンジェはヨンウンと目が合った。
 ヨンウンは不安そうな表情を返してくる。
 次にヒョンを見た。彼もウンジェを気にかけるが話は避けたい表情だ。ウンジェは何も見なかったように歩き出す。
 すると駐車場の向こうに赤い車が現れた。
 窓が開いてジェゴルが声をかけてくる。
「乗って」
「バスで行くからいいわ」
 ジェゴルはヒョンの車を見た。
「2人は一緒だな」
 ジェゴルはウンジェの前に車を止めた。
「乗らなかったら秘密を暴露する」
「キム先生」とウンジェ。
「乗って。条件を言う。”お父さんの入院中は俺の車で通うこと”」
 ウンジェは呆れる。困惑する。しかし応じない。
「遠慮するわ」
 さっさとバス停に向かおうとする。ジェゴルは舌打ちする。
 この時、ウンジェの携帯が鳴った。
「何かあった?」
「大変だ、姉さん。父さんが退院すると騒いでる」
 ウンジェは電話を切った。すぐジェゴルの車に乗り込んだ。
「出して」
 ジェゴルは満足そうに訊く。
「気が変わった?」
「バカなこと言ってないでさっさと出して」
 ウンジェの真意が分からぬままジェゴルは車を発進した。




 ヒョンはじっとジェゴルらの走り去った方角を見ている。
 ヨンウンが言った。
「ヒョンさん、帰らないの?」
 ヒョンは黙って車に乗り込んだ。




 車が着くとウンジェは急いで病院に駆け込んだ。ジェゴルも追いかけて走りこむ。
「父さん」
 父親を見つけて話しかける。
「お前が何の用だ?」とキム・スグォン。
「ソン先生を送ってきた…お父さんの容体が悪いの?」
 キム・スグォンは嘆息した。
「退院すると言い出してる」
「退院? あの体で退院なんて無理では?」
「複雑な事情があるようだ。お前が気遣ってやれ」
 ジェゴルの肩を軽く叩いてキム・スグォンは歩き去る。




 ウンジェは父親の病室にやってきた。
「何してるんです?」
 身づくろいする父親を見てウンジェは言った。
 ソン・ジェジュンはウンジェを見る。
「退院する」
「カルテを提出したから無駄よ」
ジェジュンはウンジェを見た。
「ウンジェ、お前」
「だから寝間着に着替えて、大人しく寝てて」
「いいや、俺は出ていく。今まで通り、父親はいないものと思え」
 ジェジュンは上着を引っかけた。
「父さん…」
 ジェジュンは目をつぶった。頷いて言った。
「満足だ。死ぬ前に”父さん”と呼んでもらえたから」
「死ぬなんて勝手に決めないで」
「ウンジェ…」
「何としてでも私が助けて見せるわ。だから逃げずに―父親として生きることを考えて」
 ウンジェは部屋を出ていった。娘を見送ってジェジュンはうな垂れた。




 外では弟が立っている。
 壁にもたれてうな垂れている。ウンジェはバッグから財布を出し、キャッシュカードを取り出した。
「いいよ。金ならある」
「余計なこと考えずにちゃんと食事しなさい。父さんにも食べさせなさい。いいわね」
 カードを握らせて仕事に向かった。






「腫れが引いたら骨折部位の手術をします。…顔にもケガを
? ふむ…X線検査を頼む」
「分かりました」
 患者に対応しているキム院長らのところへウンジェがやってきた。
 カン・ドンジュンに声をかける。離れた場所で頼みごとをする。
「当直の交代をお願いします」
「何かあった?」
「ぜひ、お願いします」
「わかった」キム・ドンジュンは携帯を取り出す。「キム先生に確認する」


 横から声がかかった。
「ソウルへ行くのか?」
 キム・スグォンだった。
「はい」
「分かった」
「しかし」とキム・ドンジュン。「まずキム先生に…」
「私がいるだろ」とキム・スグォン。「行ってこい」
「ありがとうございます」
 ウンジェは院長らに頭を下げて2人を背にする。
 キム院長はキム・ドンジュンに指示を出す。
「カン先生。あとは頼む」
 ウンジェの後を追う。
 
 

 キム・スグォンは病院の車を待機させ、ウンジェに言った。
「病院の車で行きなさい」
 ウンジェは恐縮する。
「それは結構です」
「ソウルじゃなく空港まで乗って行くんだ」
「ですが…」
「いいんだ。妻の恩もあるから遠慮するな」
「…」
「それから、彼の説得は容易じゃないぞ。確執があるからな」
「…」
「だが、キム・ドフン先生は悪い人間ではない。いい医者かは別として実力は確かだ」
 ウンジェは信念の表情を返す。その意味ではウンジェも同意見だった。
「患者の家族として丁重に頼めば、彼も医者として応じてくれるだろう」
「はい」
「秘書に頼んで航空券の予約もしておいた」
「何から何までありがとうございます」
「礼はお父様が治ってからだ。さあ、車も来た。行きなさい」
 ウンジェはキム院長に頭を下げて出て行った。
 その様子を見ていたジェゴルは父親のそばに来た。
「僕が送るのに…」
 キム・スグォンは答えた。
「彼女はプライドが高い。男がやたら干渉すると、彼女は羞恥心を感じて逃げ出してしまうぞ」


「羞恥心ですか?」
「そうだ。私の見立ては間違ってるか?」
「いいえ、そうじゃなく、今日は羞恥心の話がよく出るな、と思って…」
 キム・スグォンは息子を見つめ返した。
 ”珍しく真剣じゃないか。今までに見せなかった姿だ”
 そういう表情を残して息子の前から立ち去った。





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