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ビリーのことなどつゆ知らぬチョルスは大きく息をつく。
「すべてを知りながらだ…今も俺たちを監視してるかもしれない」
写真を手にする隙を窺っていたビリーはさっと背を向けた。
チョルスに店に入ってきた見知らぬ人間をちらと見てまたため息をついた。
そこにカンジャが飛び込んできた。
「おじさ~ん」
ビリーはうろたえるが、カンジャはドックを見てビリーのことは忘れた。
「ドックさん・・・」
ドックは困ったが、すかさず言葉を返した。
「カンジャよ。雪は降ってないだろ。早く家に帰れ」
正直に頷いてカンジャは店を出ていった。
「とにかく」チョルスは言った。「彼女の記憶さえ戻れば・・・どういうことなのか、すべては明らかになるさ」
チョルスは立ち上がった。店を出て行こうとする。
「帰るのか? 家はサンシルに追い出されたんだろ?」
チョルスは不機嫌そうにドックを見た。
「あそこはサンシルの家か? 俺の家じゃないか」
そう言って出て行った。
ドックは黙ってあとに従った。
二人は写真に気付かず、店を出て行った。
息を殺していたビリーは安堵して写真立てに手を伸ばした。写真立てを両手に握ってつぶやいた。
「チャン・チョルスが疑いだしている…今は時期が悪い。戻ってコン室長に相談しよう」
ビリーは写真立てを懐にしまって店を出た。
カンジャがいなくなって店の留守番はいない。
その頃、アンナは警察に顔を出している。
「チャン・チョルスがずっと前に届け出してたんですか?」
「ええ。今日も来ましたよ」
「本当に誰も私を捜してる人はいないんですか? 嘘じゃなくて?」
担当の人間は首をかしげてそれを認めた。
アンナは失踪者を捜すセンターにも顔を出して話を聞いた。応接者は答えた。
「チャン・チョルスさんが申告されています」
アンナはさらに他の施設にもあたった。
「チャンさんが届出ずみですがまだ出てきていません」
自分を捜している者は一人もいない…。
アンナは肩を落として帰途についた。
「チャン・チョルスが怪しみ始めたのなら」
ビリーは苛立っている。
「この調子では、早晩アンナも疑いだすだろう」
コン室長は頷いた。
「いずれ、真実を知ってしまいますね。連れ戻さないために努力したことを…知られたら大事だ」
「…」
ビリーは立ち上がった。
「ヤツのせいに出来なければ僕は困る。ピンチだ。何とかしなくては・・・しかし、どうすればいい?」
コン室長は言った。
「奥様に真実を話すのは時期尚早です。ともかく、ヤツと奥様を引き離すのが先決でしょう」
ビリーはコン室長を振り返る。
「だから、どうすれば?」
コン室長は大きな態度で答えた。
「私も常に名案を出せるわけではありませんよ」
ビリーは”こいつ何が言いたい?”との顔になった。
「しかしまあ…何とか逃げ道だけは用意しましょう」
ビリーは地団太を踏んだ。
「事態はこじれるばかりじゃないか。どうするっていうんだ?」
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