韓国ドラマ「病院船」から(連載8)
「病院船」第1話➡病院船に導かれし者⑧
★★★
外に出たところでキム・ドフンは言った。
「ソン・ウンジェ。お前は実力があるうえに空気も読める。実に頼もしい弟子だよ」
「とんでもないです」
「”寄付金が増える”と院長も喜んでる。何か望みはないか?」
ウンジェは足を止めた。
「院長が君に礼をしたいらしい」
少しためらって、ウンジェはそれを口にする。
「肝臓がんの疑いのある患者がいます」
「また、島からか?」
「…はい」
科長は携帯を取り出した。
「患者の名前は?」
「チャン・マンボクです」
科長は電話先に切り出す。
「チャン・マンボクさんの手術日程を組んでくれ」
指示を出した後、科長は訊ねた。
「私が執刀するか?」
ウンジェは黙って答えない。
科長は携帯に向かって言った。
「ソン・ウンジェ先生が執刀できるよう調整しろ」
「ありがとうございます」
ウンジェは頭を下げる。
「褒美だから気にするな。お母さんは情に厚い方だ。尊敬するよ」
「…」
「だが、少しは娘の立場を考えるべきだな」
「…」
「外科科長になるなら―病院内での評判も重要になる。分かるよな?」
「はい…分かっております」
科長は先に歩きだした。
★★★
「そこで何やってるの?」
ミジョンが出てきて訊ねた。
へジョンは釜の下の火を見ていた。
「今、牛骨スープを作ってるの」
2人は大きな台の上に腰をおろした。へジョンは横っ腹をさすった。
「具合でも悪いの?」とミジョン。
「何だか、消化不良みたい…」
「また? 最近多いわね。消火剤は?」
「切らしちゃった」
「困ったわね」
「大丈夫よ。そのうち治るわ」
ミジョンは空を見上げた。
「こんな時、島は不便よね。月や火星にも行ける時代なのに―病院どころか薬局さえないなんて…」
ミジョンは姉のそばに寄った。お腹をさすってるヘジョンに言った。
「そんなことやってないで病院に行ったら?」
「何言うの。この程度で病院なんてお金の無駄だわ」
「明日は病院船が来るの」
「病院船?」
ミジョンは頷く。
「そういえば見かけたことがある。診療はただだったわね」
うんうん。
「消火剤くらいあるわよね」
ミジョンは笑った。
「タダだから嬉しい?」
「もちろん」
「医者の母親とは思えないわ」
2人は笑いを交わし合った。
翌日、病院船が島の近くに姿を見せた。
ヘジョンは舟を出してもらって沖に浮かぶ病院船に向かった。
アリムに案内され、内科の診療室に入った。
「どうしました?」
クァク・ヒョンは訊ねた。
「胃もたれがするの。胸も苦しいんです」
事務長のウォンゴンは雑誌を広げ、ソン・ウンジェの写真に見入っている。
後ろでゴウンが訊ねた。
「外科医、ソン・ウンジェ?」
ウォンゴンは頷いて顔を上げる。
「お疲れ」
「”止まった心臓を動かした奇跡の手”スカウトでも?」
「それは夢のまた夢だよ。こんな医者が病院船に来るわけがない」
ゴウンは事務長の肩を押した。
「じゃあ、診てもらいに行って捕まえなきゃ」
「どこか具合でも?」
「公保医が問題児ぞろいではらわたが爆発しそうですよ」
「何を…まったく」
事務長は苦笑する。
「どうしたらこんな娘が生まれるのかしら」
ゴウンはそう言って歩き去る。
事務長は写真のウンジェを指で叩きため息をついた。
ヒョンはヘジョンの診察を終えた。
「とりあえず、消化不良を解消する薬を出します」
「多めにください」
「では一週間分を…それから」
検査のデーターを見ながら言う。
「心臓の精密検査も受けた方がいいですね」
ヘジョンは診察台をおり、椅子に腰をおろした。
「検査結果が悪いんですか?」
「まあ…心電図だけでは不確かなので、念のため受診された方がいいかと」
「…」
「心臓病でも、胃もたれに似た症状が出ます」
ヘジョンはヒョンの言葉に思い当たるものを覚えた。
「よく見るとハンサムですね。優しそうだし」
ヒョンはヘジョンの言葉をニコニコしながら受け止める。
「娘の恋人にしたいくらいだわ」
「娘さんが?」
「とても賢くて美人ですよ。見てみます?」
ヘジョンは小さなバッグから写真を取り出した。
「どうぞ」
「…」
「キレイでしょ?」
「ええ。ぜひ紹介してください」
「でも、手ごわいですよ」
「…」
「性格が気難しいうえに…」
「うえに?」
「歯ぎしりがひどいの」
ヒョンは真剣になった。
「いびきは?」
「もう、家が揺れるほどよ」
「…」
「怖いですか?」
「少し」
「じゃあ、ダメね」
「いいえ。欠点も許すのが愛でしょ」
そう答えてヒョンはデーターを打ち込みだす。
そんなヒョンにヘジョンは感心した。
「ステキだわ…」
「えっ?」
「ステキな言葉です。そうよ、それでこそ愛ですよ」
その時、ナースの声がした。
「オ・へジョンさん、お薬です」
「先生、ありがとうございます。娘を紹介する件は次までに考えておきます」
ヘジョンは立ち上がり、いそいそと診療室を出て行った。