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韓国ドラマ「病院船」から(連載211)
「病院船」最終話➡好きだから②
★★★
椅子に腰をおろしたウンジェは脚を伸ばした。手をあてがい、あちこちを指で押さえる。
そこへアリムがやってきた。
「コーヒーを召し上がれ」
ひとつをウンジェのデスクの上に置く。パンツをたくしあげた
ウンジェの脚に目をやる。
「脚がまだ痛むんですか?」
「そうなの」
「キム先生に鍼を打ってもらえばすぐ治りますよ」
「さあ…」
「嫌ですか?」
ウンジェはアリムを見た。
「湿布を何枚か持ってきて」
アリムの表情は曇った。
「…X線を撮ってみては? 少し腫れているようです」
ウンジェは脚をシャンと伸ばす。
「腫れてないわ」
「ヒビでも入っていたらどうします? 悪化したら病院船の患者の手術は誰がやるんです?」
ウンジェはアリムを見つめ返す。納得の顔になる。軽い乗りで頷く。
「じゃあ、撮ってみようか」
アリムは呆れた。笑いながら言った。
「大好きな”手術”のためなら撮る気になるんですね」
「アリム先生」
ウンジェはむっとなる。アリムの笑いは停止する。
「支えましょうか?」
「結構よ」
「では」
アリムは茶目っ気を出す。
「クァク先生を呼びましょうか?」
ウンジェは咳払いする。
「なぜクァク先生を?」
アリムは惚けた。頭髪に手をやった。
「さあ、なぜかしら…」
★★★
ウンジェは素知らぬ顔して診察室を出ていった。
「先生ったら、もう…」
アリムも含み笑いしながら診察室を出た。
ウンジェは事務長のところへやってきた。
「ヒビですか? もし、そうならパンパンに腫れあがってるはずだ」
「そうでしょ。よしときます」
「待って」と事務長。「念のために撮ってみよう”石橋を叩いて渡る”だ。撮るから横になって…」
事務長はカメラをウンジェの膝上にセットした。
「じゃあ、そのままで動かないで」
ウンジェは身体の動きを止め、目をつぶった。
レントゲン室を出たウンジェの前にヒョンが現れた。手を取って歩き出す。
階段のところでウンジェは言った。
「やめて。アリムさんも感づいてる」
「アリムさんは何て言ってた?」
「ルールを破るつもり?」
「ルールって…あったっけ?」
「”病院船ではぜったい手を握らない”」
「ああ、それか―じゃあ、脚ならいい?」
「何ですって!?」
ヒョンはウンジェを階段に座らせた。左ひざを取った。ポケットから湿布薬を取り出した。
「私がやる」
「いいから、じっとしてて」
ヒョンはウンジェの膝にシップをすばやく張り付けた。
あまりの手際のよさにウンジェは笑った。ヒョンは顔をあげた。笑いを返し、シップの上から膝を揉んでやった。
事務長はモニタの前に腰をおろした。
「どれどれ、ソン先生の膝がどんな塩梅のものか見てみるか…」
マウスを手にする。レントゲン写真を開いてみる。
「あれ? これは何だ?」
親指をあてがった部位は骨が黒ずんでいる。
親指の腹で液晶画面をこすってみる。画面の異変ではない。
面食らっている事務長のところに後ろのカーテンが鳴った。
ウンジェが顔を出した。
「どうでした?」
事務長は答えない。黙って目を落としている。
「メールで転送してください」
カーテンを閉じようとするウンジェに事務長は呼びかける。
「ここに座ってください」
「何かありました?」
「早くここに」
ウンジェは事務長に従った。横に腰をおろし画面を覗き込んだ。
気楽な表情はみるみる変わってくる。
「これは…私の脚?」
事務長は額に手をやった。黙って答えない。
ウンジェはもう一度問いかける。
「私のですか?」
事務長はウンジェを見た。
「もう一度、撮ってみよう」
ウンジェは何かに侵食されたらしい脚の骨にまじまじと見入った。意外そうにため息をついた。
病院船は医療業務を終えて帰港した。
操舵室から出てきた船長は配下に指示を出す。
「風が出てきたから固く結んでくれ」
「了解です」
甲板長らはテキパキと終了業務を遂行する。
医療スタッフも帰りの支度をしてぞろぞろ出てくる。
「着替えずに何を? 一緒に帰りましょう」
看護師がウンジェらに声かける。
ウンジェを見て事務長が言った。
「先に帰ってくれ。ソン先生と残務処理があるんだ」
「残務処理なら寮でもできるのでは?」とジェゴル。
「いいんだ。先に帰ってくれ」
事務長はきつい口調になる。
「その…言いにくいのですが、今日の掃除当番は事務長とソン先生です」
ジェゴルに看護師も同調、1人が言った。
「私たちの夕飯はどうなるんですか?」
「わかったって。適当に見繕って食べてくれ。一食くらい抜いても死にはしない」
事務長のあまりな口調にウンジェが言う。
「一緒に帰りましょう」
「いや、話は終わっていない」
「事務長…」
「何か文句でも? 素直に従うべきだ」
事務長とウンジェの様子にヒョンは怪訝そうにする。
事務長の言いつけ通りにジュニョンやヒョンらは陸に向かう。
ジュニョンがヒョンを呼び止めて言った。
「バレたのか?」
「何が?」
「船内でいちゃついてたんだろ?」
「おい」
ジェゴルは笑ってヒョンを見た。
「いったい何事なんだ? ずいぶん深刻そうだった」
3人とも”何か変な空気”というのでは一致するようだった。
事務長とウンジェの受け止めている事態は深刻だった。
事務長は大きくため息をついた。2人ともレントゲン写真が示すものに気づいている。ここで話し合う段階はすでに過ぎている。
ウンジェはあらためて訊ねた。
「骨肉腫ですよね?」
「組織検査をしないと断定はできない」
ウンジェは鼻先で笑う。母親や自分の健康に無頓着できた自分を笑う。何が自分にこんな生き方をさせたのか…。
「第一病院に行きましょう」
事務長は立ち上がった。
「行って組織検査を受けるんだ」
「…」
「早く着替えて」
「事務長…」
「そのままでも構わない」
「私に任せてください」
事務長は呆れた。腰をおろした。
「この状況で、何をどうする気だ」
「それからこのことは、当分の間、誰にも話さないでください」
「なぜ? 仲間には少しくらい心配をかけたっていいんだ」
「患者としてのお願いです」
事務長は黙り込んだ。
「医者としてではなく、患者のソン・ウンジェとして放射線技師に秘密保持を頼んでいるんです」
「…」
「秘密―守ってください、事務長」
「分かった」事務長は頷いた。「だから組織検査を…」
「受けます」
「約束だぞ」
ウンジェは頷いた。
ウンジェは帰路につきながら、病んだ脚にまつわるエピソードがヒョンとの間でいくつかあるのを思い起こしていた。
ウンジェは歩道脇のベンチに腰をおろした。
医師たる自分がこれしきのことにどうして気付かなかったのだろう…彼を意識し、夢中な自分だったから、気づくチャンスを逃がしてしまっていたのか…?
カバンで携帯が鳴っているのにも気付かず、ため息がついて出た。