雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載9)




 韓国ドラマ「病院船」から(連載9)




 「病院船」第1話➡病院船に導かれし者⑨

★★★


 ヒョンはヘジョンの診察を終えた。
「とりあえず、消化不良を解消する薬を出します」
「多めにください」
「では一週間分を…それから」
 検査のデーターを見ながら言う。
「心臓の精密検査も受けた方がいいですね」
 ヘジョンは診察台をおり、椅子に腰をおろした。
「検査結果が悪いんですか?」
「まあ…心電図だけでは不確かなので、念のため受診された方がいいかと」
「…」
「心臓病でも、胃もたれに似た症状が出ます」
 ヘジョンはヒョンの言葉に思い当たるものを覚えた。
「よく見るとハンサムですね。優しそうだし」
 ヒョンはヘジョンの言葉をニコニコしながら受け止める。
「娘の恋人にしたいくらいだわ」
「娘さんが?」
「とても賢くて美人ですよ。見てみます?」
 ヘジョンは小さなバッグから写真を取り出した。
「どうぞ」
「…」
「キレイでしょ?」
「ええ。ぜひ紹介してください」
「でも、手ごわいですよ」
「…」
「性格が気難しいうえに…」
「うえに?」
「歯ぎしりがひどいの」
 ヒョンは真剣になった。
「いびきは?」
「もう、家が揺れるほどよ」
「…」
「怖いですか?」
「少し」
「じゃあ、ダメね」
「いいえ。欠点も許すのが愛でしょ」
 そう答えてヒョンはデーターを打ち込みだす。
 そんなヒョンにヘジョンは感心した。
「ステキだわ…」
「えっ?」
「ステキな言葉です。そうよ、それでこそ愛ですよ」
 その時、ナースの声がした。
「オ・へジョンさん、お薬です」
「先生、ありがとうございます。娘を紹介する件は次までに考えておきます」
 ヘジョンは立ち上がり、いそいそと診療室を出て行った。


★★★


 船の階段をおり、救命具をつけヘジョンは小舟に乗り移った。


 机上を整理していて、ヒョンは写真に気づいた。患者とのやりとりで返し忘れたのだ。
 ヒョンは急いでデッキに駆け上がった。しかしヘジョンの乗ってきた舟はすでに遠く離れていた。
 


 ヘジョンも舟で島に戻る途中にそれを思い出した。
「ああ、写真を!」
 彼女は病院船を振り返った。
 すでに船は遠く離れてしまっている。


 
 デッキに出てきたヒョンは島へ戻って行く舟を眺めた。ここからじゃ声も届かないし、引き返せとも叫べない。
「返すのは今度にしよう」
 そう呟き、あらためて写真を眺めた。
「美人だけど、気は強そうだ」




 庭先の台でバスタオルを整理しながらミジョンは切り出した。
「ソウルの病院へ行かないの?」
「薬で様子を見る」
「いい機会じゃないの。ウンジェの病院で、全部調べてもらえば?」
「…」
「病気を放置しないで」
「…」
「カニのしょうゆ漬けと醤油キムチを用意するわ」
 ミジョンは説得を続ける。
「ウンジェの好物でしょ。訪ねてみなさいな。母の味を食べさせてあげなよ」
 ヘジョンは顔をあげた。笑顔になった。
「そうするかな」




 ウンジェは目をつぶっている。
「夜中に呼び出されたのか?」
 同僚のミョン・セジュンだった。彼は長いすに腰をおろした。
 ウンジェは目を開ける。
「科長の代打だろ。代打で17時間の大手術とは大した忠誠心だ」
 ウンジェは身を起こす。テーブルの菓子パンを手にする。
「食事も抜きか?」
「大手術の経験がないの?」
「…」
「今度、手術を譲るわ」
 セジョンは身を乗り出す。
「ああ、技量不足で無理かしら」
「…!」
 そこに緊急呼び出しがかかった。
「外科の先生は187号室へ」
 ウンジェは菓子パンを放り出して医局を飛び出していった。
 廊下を全速力で走り、187号室へ駆け込んだ。
 しかし、病室はふだんと変わりない状況である。


「どういうこと? 緊急呼び出しで来たのよ」
 ウンジェは付き添いに訊ねた。
「先生、それが…」
 ベッド上のドゥソングループ御曹司が手をあげた。
「私が会いたくて呼んだ」
 ウンジェはため息をつく。付き添いを出て行かせる。
 点滴の棒を握った。
「特に問題はなさそうですね」
「そうでもない。頭から足の先まで全身が痛い。ああ、まいった」
 御曹司はこめかみのあたりに手をやる。
「診ましょう」
「つれないな。携帯に医局に手術室まで、いくら電話しても捕まらない」
「異常はないようなのでこれで失礼します」
 背をむけようとするウンジェのポケットに「これを」と何かが押し込まれる。
 ウンジェはそれを取り出し振り返る。
「何ですか、これは?」
「父からの謝礼金」
「ご遠慮します」
 ウンジェはベッドテーブルに袋を戻す。
「手間賃と思って」
「お給料はもらってます」
「では入院費に」
「それは一階の会計で支払いを」
 御曹司は苦笑する。
「やはり僕の好みのタイプだ」
 ウンジェは御曹司をにらみつけて背を返した。
 御曹司はさらに引き留める。
「今、出ていったら―これをまた押すよ」
 ウンジェは足を止める。携帯を取り出し電話を入れる。
「チャン・ソンホさんを他の科に移して」 
 そう話しながら御曹司の病室を出ていった。
 御曹司はウンジェの頑固さに呆れて笑い続けた。











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