雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「病院船」から(連載127)

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 韓国ドラマ「病院船」から(連載127)




「病院船」第12話➡あなたを突き放す理由③




★★★


「出血?」キム・スグォンは訊ねた。「深刻か?」
「出血性ショックが起きる前に開腹して―原因を突き止めるのが早道です」
 キム院長はため息をつく。
「手術を急ぐしかないな」
「はい」
「キム・ドフン先生はどうだった?」
「手術の予定が詰まっていて難しいと…」
「それが本当の理由か?」
 ウンジェは頷く。
「予定が詰まってるって本当か?」
「そうです」
「正直に言え。昔の確執で」
「いいえ、違います」
「…」
「父の手術は私が執刀します」
「ソン先生」
「このままでは手遅れになります。どうか手術をさせてください」
「…」
「何もせずに父まで―父まで失いたくありません」
 キム院長は険しい表情になる。
 ウンジェは医者生命をかけて父親を助けようとしている。自分も同様の境遇に置かれれば1人の医師としてそうするだろう。
 キム院長は顔を上げた。頷いた。
「やってみろ」
 ウンジェは破顔一笑で頭を下げた。
「ありがとうございます」 


★★★


 病院船寮では夕食の団欒が始まっている。
 ジェゴルとヒョンは調理場でテーブルは挟んで向き合っている。
飲み物を準備しながらジェゴルはヒョンに訊ねる。
「知ってるか?」 
「何を?」
「ソン先生が父親の手術をするそうだ」
「何?」



「何ですって!」
 食堂からも質問が飛んできた。
 ゴウンだった。
「ソン先生が何をするって?」
「父親の手術を?」事務長も驚いている。
「何の病気?」とジュニョン。
「私たちにはなぜ秘密に?」とアリム。
 ジェゴルはバツが悪そうにヒョンを見る。
「クァク先生、”秘密をバラすな”という表情ですね」
「…」
「ソン先生よりあなたたちに失望したわ」
「ピョさん」とジェゴル。
 ゴウンは立ち上がった。
「私たちは仲間よ。仲間のお父さんが重病なのに黙ってるなんてこと、あっていいの?」
「理解してください。ソン先生の性格、よくご存じでは?」
「いいえ、それは無理。絶対に理解しない」
「ゴウンさん」
 事務長が宥めようとする。その手をゴウンは振り切る。怒って食事も取りやめ、行ってしまった。
「ああ、もう~」
 事務長は嘆く。
「スネちゃったみたいだ。辞めたら、どうする…」
「大丈夫ですよ。私がいるもん」
「何言ってるの」ジュニョンが肩を押す。
「何よ」とアリム。
「少しはこの空気を読んだらどうだ。鈍いやつだな」
  アリムは首をすくめる。




 ゴウンはさっそく巨済病院にウンジェを訪ねた。
「ここよ」
 廊下に出て来たウンジェに声をかける。
 ゴウンは歩み寄ってきてウンジェの前に立った。
「重要な手術があるんだって?」
「…」
「なら、私に協力を求めるべきでは? それともこんな私なんか必要ない?」
「ピョさん…」
「すみません。私はパートナーとして失格ですね」
「…」
「先生の苦しみに気づくべきなのに…でしょう?」
 ウンジェの口元に笑みが浮かぶ。
「これは驚いたな」
 廊下に大きな声がとどろいた。
 見ると事務長が一団を率いてやってきたではないか。
 ”見つかった”と言わんばかりにゴウンはあらぬ方へ目をやる。
 事務長らはツカツカ2人の前に歩いて来た。
「さっき、ソン先生に怒りも露わだったのに、これは…」
 ゴウンは肩を事務長の胸にぶつけた。
「私がいつ起こりました? 冗談じゃないわ」
 船長がウンジェに言った。
「事情を話してくれればいいのに、どうして、なぜひとりで抱え込む。周りの人に相談すれば―気持ちも少しは楽になるだろうに」
 後ろからアリムから出てきてウンジェに抱きつく。
「ソン先生」
 看護師たちも「ファイトです」、「手術室の外から応援してます」とエールを送る。
 みんなしてウンジェを励ましにやってきた。だがそれを、ゴウンが
一番に抜け駆けしようの塩梅となってしまった。
「ファイト」とジュニョン。
 アリムも拳を握った。
「ファイト!」
 再び抱きつくアリムをウンジェは笑顔で受け止める。
「ありがとう」
 事務長はゴウンをからかう。
「気まぐれだな」
「何いうの。助けないといけないでしょ」とゴウン。
 ウンジェはみんなの励ましが嬉しかった。




 キム・スグォンはキム・ドフンを訪ねた。
「先輩がどうしてここまで?」
「用のついでに寄った」
「…」
「お茶を飲む時間は?」
「もちろん、あります」
 キム・スグォンはウンジェが父親の手術を行うことになったのをキム・ドフンに伝えた。
「キム・ドフンが執刀すると?」
「他に方法がない」
「…」
「大丈夫か?」
「何がですか?」
「彼女に父親の手術をさせて君は大丈夫か?」
「質問の趣旨は?」
「私は今、大人になる機会を君に与えてるんだ」
「先輩」
「君は岐路に立ってる。独善的な”お子様”のまま終わるか。寛容さを持つ真の大人になるかだ」
「…」
「どちらを望む」
 キム・ドフンはキム・スグォンを見つめ返した。
 キム・スグォンが帰った後、キム・ドフンは思案に沈んだ。
 キム・スグォンを見送ってミョン・セジュンが戻ってくる。
「何か問題でも?」
 「いいえ。キム院長はソンの件でここに?」
「自分で父親の手術をするようだ」
「…」
「なぜ驚く? 想定内だろ」
「でも、さすがに」
 ミョン・セジュンはソファに腰をおろした。
「教授。ひと言言わせてもらいます。今回は負けてはどうですか?」
「いくらソンが憎くても教授が執刀すべきです」
「君も私を疑ってるのか? ソンが憎くて執刀しないと?」
「違うのですか?」
「怖くて手術できないと言ったら―私を見下すか?」
「と、とんでもない」
「どんな手術か知ってるか? 拡大肝右葉切除に膵頭十二指腸切除を伴う手術だ。有能な外科医でも成功率は30%未満だ」
「…」
「院長選挙が近い。他の病院で失敗するリスクは冒したくない」
「ですが…」
「ソン・ウンジェだ。肉親の手術でもやり遂げられる。彼女ならできる…」
 



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