「そうよ」
辺りをうかがってからヘギョンはいまいましそうに答えた
「あなたが邪魔するからこっちだって大変よ」
「今みたいにちゃんと立って待ってなさい」
「さあね・・・」へギョンは薄笑いを浮かべる。「邪魔されるとなぜか意地になるわ。彼は今まで、私を支えてきてくれたの」
「ここで何してるの。もうすぐ結婚するんでしょ!」
「別にかまわないでしょ。まだ結婚してないし」
「だから、最後に思い出作りでもしようってんの?」
「そうよ。チョルスさんとは大切な思い出がたくさんあるの。ああ――」
へギョンは天を見つめた。
「記憶がない人には分からない気持ちよね」
「・・・」
「私をあんまり刺激しないでくれる。彼の前で倒れて・・・本当に彼を捕まえたくなるかもよ」
「・・・」
車のエンジンの音が響いてきた。
へギョンは柱にもたれ、酔った振りに戻った。
チョルスが車をおりてやってくる。柱にもたれているユギョンに問いかける。
「大丈夫か? 送るから行こう」
二人を見ていてアンナは悲しい表情になる。
ユギョンを車に乗せ、運転席に回り込もうとするチョルスの腕を取った。
「行かないで」
振り返ったチョルスにアンナは言った。
「私はあんたが彼女を送って行くのはイヤ。タクシーに乗せてあげればいいじゃないの」
「彼女は酔ってるじゃないか。送るしかないだろ」
しかしなおもチョルスを引き止める。
「今、あんたの横には私がいるじゃない。そんなのイヤよ」
「サンシルッ・・・いつか、お前もいなくなる。違うか?」
「まだ、わからないわ。こうなる前は、あんたを好きだったもの」
「ほんとうに覚えてるのか? 本当の記憶はまだないだろうが」
アンナはチョルスの腕から手を離した。
「・・・分かったわ。行って」
「お前はどうする?」とチョルスは言った。「タクシーで帰るか?」
「もういい」アンナは答える。「一人で帰るから、心配する振りはやめて」
アンナは背を返す。
チョルスは黙って車に乗り込んだ。
「ごめんね、私のせいで」
「いいんだ。君とは関係ない」
歩いていくアンナの後姿は寂しげだった。
「いいんだ、これで」
チョルスはそうつぶやいて車を発進させた。
script type="text/javascript" src="//translate.google.com/translate_a/element.js?2db9cb=googleTranslateElementInit"></script> google-site-verification: google3493cdb