雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「30だけど17です」(連載194)






韓国ドラマ「30だけど17です」(連載194)




「30だけど17です」第22話(13年前の初恋)⑧


☆主なキャスト&登場人物

○シン・ヘソン➡(ウ・ソリ)
○ヤン・セジョン➡(コン・ウジン)
○アン・ヒュソプ➡(ユ・チャン)
○イエ・ジウォン➡(ジェニファー(ファン・ミジョン)
○チョ・ヒョンシク➡(ハン・ドクス)
○イ・ドヒョン➡(トン・ヘボム)
○チョン・ユジン➡(カン・ヒス)
○ユン・ソヌ➡(キム・ヒョンテ)
○チョ・ユジョン(イ・リアン)
○ワン・ジウォン(リン・キム)
○アン・スギョン(チン・ヒョン)
★★★

 「おばさんは俺の初恋でした。初恋をきちんと終わらせたいんです。だから告白しました」
 心は落ち着きを取り戻しつつも、ソリの目にはいつしか涙が溜まって来だす。
「最初は17歳に見えたけど、今は本物の大人です」
「…」
「それから、ありがとう。ミスター・コンを昔の叔父さんに戻してくれて―俺とは友達になりましょう。今度はうんと叔父さんを愛してやって」
「…」
 頬を涙が流れ落ちる。ソリは慌てて手指で拭いとる。
「おばさん、泣くのは反則だよ。俺は―足首と同じで心の回復も早い方だから。すぐ、平気になるんだから」
 チャンは自分の手のひらをソリにかざした。
「このタコが心にもできました」
 ソリは懸命に涙の感情を抑えている。
 申し訳なさのこもった涙の姿にチャンは今日、ソリを誘って遊んだのをよかったと感じた。
「ああ、気分爽快だ。今日、この話を伝えられてよかった」
「…」
「これから運動していくから、先に帰って」
「…」
「カッコいいこと並べたけど、今の俺、泣く時間がほしいんです」
 ソリは黙って背を返した。
 少し歩いて振り返る。
 チャンが手を振るのを見て、黙って背を返す。今度は振り返らなかった。
 その後ろ姿をチャンは複雑な思いで見送り続けた。

★★★


 ソリの前で精いっぱい自分を繕ったチャンは、目を落して歩き出した。
 心はそのままに十余年の時をワープし、途方に暮れていたソリと出会った頃を思い浮かべた。
 年齢はおばさんでも、おばさん臭さはどこにもなかった。目の前の出来事に戸惑いつつ、孤独の自分と必死に向き合おうとしてる姿は周囲にいる女子高生よりもはるかに新鮮で溌剌としていた。
 気が付くと彼女だけを見つめている自分がいた。彼女の失った時間も孤独もすべて癒してあげたいと思う自分がいた。


― 知り合いが消えたと言ってたけど、ひとりはいますよ。この俺。歓迎します。


 おばさんとのエピソードがひとつひとつ蘇っては後ろに流れ去り、消えていく。


 エピソードはまっさらな空気と入れ替わり、心はぽっかり穴があいていく気分だけど、エピソードは心のひだに張り付いてアルバムとなっただけだ。おばさんはこれから、ずんずん年齢を取り戻し相談相手になってくれるのかもしれない…。
 今まで気づくこともなかった。一からスタートするとはこういうことだったのだ。
 チャンは静かに笑みをもらした。
 いつしか頬を涙が伝っている。
 今から新しいスタートだ。自分はもうおばさんも後ろも振り返ることはしない。
 しかし、涙はいつまでも流れ続けた。
 
 
 コン・ウジンはキム・ヒョンテとラウンジで時間を持った。
「11年間、入院費を払ってた人は…」
 ヒョンテは答えた。
「調査会社を通して僕を知ったようです―叔父さん夫婦じゃなかったと知ったら、彼女は悲しむだろうな」
「…ソリもうすうす気づいています。わざと連絡を絶ったと―」
「その人はソリに会いたいと言ってるけど、僕は伝えれば彼女は混乱するでしょう」
「…」
「これ以上、ソリを苦しめたくありません。友達として」
「…連絡をいただき、ありがとうございますj」
「あなたと相談して、決めるべきだと思いました」
 ヒョンテはポケットからメモ用紙を取り出し、ウジンに渡した。
 メモ用紙には「キム・サンシク」の姓名と連絡先が記されていた。


 ウジンが車で自宅に帰り着くと、前方にソリの姿がある。
 何やら元気の失せた足取りで歩いて来る。
 車から飛び出してウジンは叫ぶ。
「あれ? 僕の彼女じゃないか!」
 気の抜けた表情と笑みでソリは応じる。
「コン・ウジンおじさん…」
 ウジンはソリの傍に駆け寄った。
「チャンと楽しく〜」
 ソリは目を落した。
「遊んでた〜と思ったけど、そうでもないみたいだ……点」
 ソリは苦笑する。
「どこへ出かけてたの?」
「キム・ヒョンテ先生に会ってた」


 庭の長椅子に腰をおろし、ソリはウジンの話を聞いた。
「私のためのウソだろうと思ってたけど、かすかな望みは抱いてたのに…入院費を払ってたのは叔父夫婦じゃなかった。ちょっぴり悲しい」
 ソリは肩を落した。
「…じつは少し前に君の叔母さんに会った」
「ほんとに?」ソリはウジンに向き直った。「いつ、どこで?」
 ソリはまじまじとウジンを見た。
「なぜ、叔母さんだと…」


 ウジンは部屋に戻り、クク・ミヒョンの名刺をソリに見せた。
 ソリは名刺を確認し、ウジンを見た。
「会ったのに、どうして黙ってたの?」
 ウジンは答えるのをためらった。傷つくソリの姿を見たくなかったからだった。
 ソリはそれを直感した。
「私に会いたくないと言われたのね」
 ウジンはソリの手を取った。
 ソリは顔を上げた。
「じゃあ、叔父さんは? 叔父さんも私に会いたくないって?」
 ウジンは知ったことをすべて話すのをためらった。
「ごめん。叔父さんの話は聞きそびれた…」
 ウジンの様子が妙だと思いつつ、ソリは嘆いた。
「どうして私のことを…」
「…」
「きっと何か事情があったのね…そうよ、あったのよ」
 ソリは気負ってウジンを見た。
「私が直接会って、話を聞くことにする」
 ソリは叔母に電話を入れた。ウジンは黙って電話するソリを見守った。
 しかし、ソリの電話は叔母に通じなかった。何度かけても留守電のままだった…
 繰り返しかけ続けるソリの電話をウジンは途中で制した。
「またあとでかけ直そう〜」
 ソリはため息をつく。少し間をおいて言った。
「あの時、手帳に挟んでた写真がなくなってたの―写真を見て気付いたのに知らないフリしてた」
「…」
「なぜ、別の人が入院費を? なぜ、私を捨てたの?」
 ウジンはソリを抱きしめた。
「知らないフリするなんてひどいわ」
 ソリの愚痴をウジンは黙って受け止めた。自分への愚痴でソリの落胆が少しでも和らいでくれたらいいと…。 
  


 ソリはトックを話し相手にして部屋でひとりになった。
「ペンは知ってるよね」
「…」
「叔父さんたちのあれからについて…何があったのか」
 ソリはトックの頭を撫でた。
「あなたはそれを見てたはず」
「…」
 その時、携帯が鳴った。
 電話を受けてソリは答えた。
「はい、行きます」


 玄関に出るとその人が立っていた。
「ソリ…」
 先に出迎えたウジンが声をかけた。
 その人はソリに声を上げられないで立っている。少し顔を上げ、さらにうな垂れる。
「おじさんが事故の原因を作った人?」
 その人は顔をうな垂れたまま帽子を取った。顔を上げ、膝間づいた。
「…」 

 


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