日々新化、ランニングする整形外科医

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マラソン3時間切りを目指す整形外科医の日常から想うことを中心に発信していきます。

人工膝関節置換術をやるべきか?

2023-06-26 18:22:03 | 整形外科

人工膝関節置換術という手術を知っていますか?その中で内側だけの人工膝関節置換術を希望されて受診した方がいます。絵で描くと見出しの写真のような手術になります。比較的私はこの手術を行うことが多いのですが、この方は熱心に自分で調べてきたようです。ただし年齢が50歳代と手術するには一般的に若い方です。以前の病院の先生とも十分にお話しされて自分なりに手術しかないと思い、その思いが強くなりすぎていました。

 

手術希望を全面的に否定するわけではありませんが・・・、手術なんてしたくないというのが一般的に多い考え方だと思います。以前に膝の痛みのために下腿の骨の向きを変える骨切り術の手術をしています。その他の手術もしており、手術に対する毛嫌いが少ないのも手術希望の気持ちを後押ししてしまっているのかもしれません。骨切り術をして膝の痛みは減ったのですが下腿から足への痛みとしびれが徐々にひどくなっているとのことでした。

 

左はO脚の内側の変形が起こりやすい状態、右はほぼ正常ですが膝だけでみると分かりにくいですよね。

全体を見ればO脚、X脚の極端なものはこうなります。

見出し画像でも示した内側の人工膝関節置換術はあくまですり減った内側部分を人工物に交換する手術ですので原則はO脚の方に適応になります。しかしこの方基本的な形態はX脚でした。内側も変形はあるのですが、X脚となると考え方を変えなければなりません。絶対的に内側の手術がダメという状況でもないのですがそもそもの痛みの出ている所の問題に対して考えないといけません。

 

御自身でもきちんと調べてくる位ですから治療に対しては一生懸命であることは間違いありません。どうしても手術して欲しい話になるのを少し待ってもらうように何とか説得して、X脚に良い体操を指導します。下腿が痛いのはX脚だからこそなのだと思います。痛みが強くて立位では難しいので座位でできることから。そもそも力の入れ方が逆なのでそれを逆転させた入れ方を教えます。

 

その後歩いてみたら・・・。「びっこ引かないで歩けた」と嬉しさと驚きの顔。手術しても良いですが、まずこれが良かったのであればもう少しこちらで頑張ってみてはどうでしょうとお話ししたら頑張りますと。一生懸命頑張っている人であるのだと思います。ですがボタンの掛け違いで頑張る方向を間違ってしまったのかもしれません。

 

今後手術するかしないかは分かりませんが、いずれにしても良い方向に頑張れるように導けると良いです。もちろん本人の頑張りは必要ですが・・・。

 

 

 


運動連鎖とは?

2023-06-20 23:40:40 | 整形外科

竹ぼうき手のひらバランスです。改めて今これ流行らないのかな😅❓

 

ここまで骨格の話をする機会が多かったと思いますが、説明するのも難しくうまく伝わっているか疑問です。正しい骨格運動=キネティックチェーンコントロールで良いと思っていますが、キネティックチェーンについて説明していくと少し分かりやすくなるかなと思いました。

 

キネティックチェーンとは日本語では運動連鎖となります。ですから運動連鎖とは何かを説明していきます。

 

元々は機械工学の分野の言葉です。図のピンジョイントで連結している棒を考えてみてください。竹ぼうきのようになんとかバランスを保っていますが赤い棒のバランスが崩れると連鎖して崩れていきます。青い棒の倒れ方は図に示したようにいくつかの倒れ方のパターンがあると思いますが、いずれにしても倒れる時には他の棒にも影響しあって倒れていきます。上のように倒れるか下のように倒れるかは下の青い棒にどのような力が加わっているかによると思います。赤い棒の倒れ方に連動して青の棒も動いていく。これが運動連鎖と言って良いと思います。赤や青の棒を骨、ピンジョイントが関節と考えるとこの二つの構造が運動連鎖のための重要な構造になることがわかります。これをひとの関節運動で考えます。

 

人の骨格はもっともっと複雑ですからどのように、影響しあっていくかは難しいですね。もう一度ピンジョイントの棒に戻りますが上が正しい動き、下がダメな動きとすると上の動きにするためには赤が倒れる時に青にも何らかの力をかけないといけません。上のような倒れ方のために力の入れ方をコントロールすることがキネティックチェーンコントロールといいます。そう考えると正しい骨格運動=キネティックチェーンコントロールということも理解していただけるのではないでしょうか?実際には人の骨格運動で動く順番や、方向がおかしくなってしまっているのをある力を入れることで正しい方向に導いていきます。言葉では簡単ですが、より正しい骨格運動に導けるのはどこかを判断してどのような力の入れ方、動き方を指導していくかになりますので非常に難しい手法です。

 

どうでしょうか?少し分かりやすくなったでしょうか? 

そんなの分かっている、しつこいと思われるのか? なるほど、分かりやすいと思われるのか? 皆さんの反応楽しみにしています。 それではまた。


骨盤後傾、骨盤過前傾とは?

2023-06-19 07:10:15 | 整形外科

家のメダカです。いつのまにか増えてます。私は育てていませんが・・・。よく見ると骨が透けて見えています。同じ脊椎動物なので動きの共通項目があるはずですね。ある意味ほぼ背骨で動いているとも言えます。そう考えると人は背骨動かさなさすぎなのかもしれませんね。

 

私は骨盤過前傾とお話ししましたが、過前傾だから後傾だから悪いのか?という問題があります。

 

適切な傾きがどこなのかとは人それぞれに違って良いはずなので、最大動けている時の位置が本人にとっての正しい位置となります。どの競技に最適化させるかによっての違いもありますがとにかくランニングで考えると、自分の身体にあった最大ストライドがでるのが最大可動域のため、ひょっとして自分には思っているより過前傾の位置があっているのかもしれませんね。実際速く長く走れるように変わった時にどうなっているかで答えになるのだと思いますが。先日の全脊椎を見ていてひょっとしたら改善したとしても思っているよりは過前傾のままで良いのかもと思いました。

 

とにかく、骨盤過前傾でも後傾でも股関節の回旋(内旋、外旋)可動域は狭くなっています。どちらから狭くなっているかはありますが、まず傾いていること自体、骨盤臼蓋の中心で動けなくなっている可能性があります。右左が対照的に骨盤が動くため、片方の内旋が大きい時反対の外旋が大きくなるはずです。その時骨盤が前、後ろに極端に傾いていると回旋中心から外れて動きやすくなります。人によって適切な前傾角度は異なるので単純に立っている位置の傾きがその人の適切な位置にないことは股関節がその人にとって骨格運動としてもっと負荷のかからない動きのできる位置があるとも言えます。

右は骨盤過前傾、左は後傾です。大腿骨の回旋を抜いています。

 

自分の骨盤が前に傾く位置は大腿骨を内側に捻って立つ(思いっきり内股)、後ろに傾く位置を分かるには大腿骨を外側に捻って立つ(思いっきりがに股)時の骨盤の感覚で分かるのではないでしょうか?でもその位置で筋肉も固まっているので人それぞれで中立位置は変わっていてその位置での股関節回旋可動域が小さくなっていることが多いような気がします。ですからこれを試しても思った以上に骨盤は動きません。皆さんの骨盤の傾きとはある程度個性とも言えると思います。だからどちらが悪いでなく、その位置でその人の骨格が最大の回旋可動域があれば良いのかもしれませんし、まずはその位置での可動域を拡大していくことを運動療法でも考えていくべきではないかと思っています。

 

そう考える時股関節は骨盤臼蓋に対する大腿骨と考えるのでなく、大腿骨の上に骨盤がどう回って動くのかと考えた方が良いのではないかと思っています。骨盤の傾きが悪いのではなく、まずはその傾きのままでの可動域を出していくことが先でその時に膝の正しい使い方、背骨も含めた骨盤より上の重心のとった位置で動ける状態が出来上がっていく。その状態で動きやすくなってきてから骨盤の傾きもより自分に適した角度に入っていくのではないかと思いました。

 

説明しながら難しくなってしまっているかもしれないと思っています。興味もっていただきコメントで御指摘いただけると嬉しいです。


不定愁訴って本当は何?

2023-06-17 13:58:39 | 整形外科

普段お酒はあまり飲みませんが、好きではあります。日本酒は難しいですが美味しい日本酒は美味しいです。好みによって異なるのも面白いです。

 

さて本題です。不定愁訴と言う言葉を聞いたことがありますか?

 

本人は自覚症状があって症状を訴えますが、検査しても異常が見つからず、原因となる病気が見つからないことを言います。でも本人からすればなんとかしたいから症状を訴えているのですが、何もないとされるのですから、訴えてる方がおかしいとされてしまいがちです。本当に何もないのに症状が出るのか?という目線が必要です。

 

私も以前は苦手でした。解決する手段がない訳ですから何もないのであまり気にしないようにとか、試しに薬を飲んでみるとかしか手段がないのです。だから、訴えに耳を傾ける努力ができていなかったかもしれません。

 

骨格を意識して診察するようになって、詳細に話を聞くようになりました。全てが分かる訳ではありませんが、骨格の崩れを自覚症状として訴えてると感じられると解決方向へ導くことができる場合があります。

 

今回は約2年前から左の半身が何かがいるような感じがするという訴えの50代の男性の方です。あちこちの病院で診てもらっていましたが、良くならず諦めていました。この方の奥様が私を受診して、教えてもらう体操をしているだけで良くなってきたと信頼していただいて受診したのが初めてでした。初診時に脊椎MRI検査、胸郭から骨盤にかけてのCT検査を順にしていき、全脊椎アライメントのX線も検査しました。MRI検査、CT検査では神経圧迫所見や腫瘍等の異常はなく一般的には不定愁訴とされてしまいます。ここで歩いていただき動作確認をします。顔が前に出ていて前にぶら下がった上肢帯を振っている印象です。全脊椎X線でも鎖骨が前方に下がり、胸郭が上から押しつぶされ、上肢帯が下がり、お腹がたるんでいる印象です。あまりに上肢帯が下がっているので左右差が分かりにくいですが、左上肢がまったく後ろに引けていない動き方です。正面からは下位胸椎が若干右に突出しています。

画像はイメージです。正直この症状がなぜ生じるのかまでは分かりませんでした。まず上肢帯のストレッチから入り、上肢しびれ感は軽減。あくまで動きを改善することを目標にその都度症状の変化も聞きながら診療してきました。だいぶ軽さを実感してきましたが相変わらず左の肩甲骨の内側の背骨の左側に芯が残っている感じが下まで続いていると言っていました。しかし、先日の診察でようやく芯が抜けてきているが左肩甲骨の上部内側に違和感が強くなったと。これは下から繋げてきた運動連鎖が上に押し上げようとしている症状のサインだと思いますので上肢と繋げる課題を出しました。教えた時点できついですが軽くなり、そもそも左にこだわっていた所から逃げたい一心でしたが逆にもっと左半身を意識した方がうまくいくと思えるところでした。

 

実は本人の意識とは逆の所に答えがある場合があります。不定愁訴と言われる人ほど自分の感覚に集中があります。そこから逃れたい一心で意識、無意識で動いてしまっています。運動連鎖から見ると逆に動く感覚が必要なことがあります。

 


体動困難と腰痛

2023-06-13 13:02:20 | 整形外科

今日は最近の診療でのひとこまでのお話です。

 

70代男性。別の病気で1ヵ月半程度の入院のあと全然動けなくなってしまったと奥様から訴えがあり、本人も思い通りに動けないと、しばらく動くと腰が痛くなり、更に動けなくなると。

 

明らかな麻痺はありません。正しい骨格運動の事に考えが至っていなかった以前の私なら、診察の上で微妙な判断もありますがまず間欠性跛行の症状と考え、腰部脊柱管狭窄症を疑うのではないかと思います。骨格だけですべてが分かる訳ではありませんから出来る検査はした方が良いでしょう。身体の事を調べるツールとしてMRI検査はありますので、ささっと調べます。しかし、腰椎変性はありますが間欠性跛行を起こすような腰部脊柱管狭窄症はありません。

おそらくそうじゃないかなと思ってましたので、一通りの診察が終わったので、診察室を歩いてもらいます。歩いてもらって本人の感覚的に困っている事を確認します。それとこちらが思った動きからどう感じているかを擦り合わせてそこから運動を逆算します。本人の感覚は進みたいけど進まない。こちらが見ても進みたい上半身と無意識に慎重に動いてしまう下半身が噛み合ってません。なんとも固まりすぎているので、立位での運動は力みが入りやすいので座位で出来る事の指導になります。その場で改善感はありましたが・・・。

 

それを2週間やってきての診察、だいぶスタスタと入ってきました。前回は知らず知らずに険しい表情でしたが、表情も緩んで笑顔も見られました。もちろんまだまだ不安要素はありますから今回は内転筋を緩めて使えるテーマを与えました。やってみたあとの動く自分にびっくりの顔。

 

この瞬間のためにやっているのかもしれません。実は奥様が私を知っていたからの受診でしたので奥様からも先生の運動は効果的面なのよってお褒めの言葉もいただいて嬉しくなって更に頑張らないとと思いました。