古今東西、「お勉強」には暗記が欠かせない。元来理系だったナカタにはこれが至極億劫な作業で、よく文系のヤツらが日本史や世界史のエゲツないマニアックな年号や人名を必死で覚えているのに、「あぁ可哀想に」とよく思ったものだ。ヤツらに言わせると「signθ」や「cosθ」、積分の「∫𝛽𝛼(𝑥–𝛼)(𝑥–𝛽)𝑑𝑥=–16(𝛽–𝛼)^3」といった方が、「よっぽど気が狂う」らしいが。
とはいえ、文系理系関わらず英語は必須なわけで、ならば英単語はもう暗記するしかない。ということで、いろいろな方法をキッズや「ティーン」なんかは模索していたものだ。
ノートを縦に二つ折りして、左に単語・右にその和訳を書いて下敷きで隠すヤツ。
ちっちゃなカードが輪っかに止められている「単語帳」をめくるヤツ。
そんななか、わたしの時代には、画期的なアイテムが一つあった。
教科書でも何でも言い。歴史教科書なら重要な人物や年号。地理の教科書の地名。長文英語の分からなかった単語──これらを緑の特殊な蛍光ペンでマーキングし、セットで売っている赤色の透明下敷きのようなものをかぶせると、まぁ不思議。その部分が黒塗りで読めなくなる。
よく試験期間の休み時間とか、電車の行き帰りなどで、この下敷きを少しずつズラしながら勉強する高校生や中学生をみると、あの「墾田永年私財法は743年」といった知識が、ここまでの人生で何回出てきたのかと悩んでしまう。じつはこれが「資本主義的生産様式」に不可欠な三大生産要素「土地」に関する豊臣秀吉の「太閤検地」の、ひとつ前のステップにあたる、「働きかける土地の占有化」というとても大切な歴史の動態であることは、ナカタが十数年後に、グァテマラのマヤ系先住民の村「サン・ペドロ・ラ・ラグーナ」を舞台にした初めての単著『トウモロコシの先住民とコーヒーの国民』における最重要モチーフになるのだが。高校二年で「世界史」を赤点取りまくって留年がちらついた頃には、「いいクニつくろう鎌倉幕府」に生きていた人びとが、世界的にコロナが感染しているなかでいっぱい人を呼んできて大運動会を強行するスガ政権に暮らす人たちに比べて、いったいどれほど幸せだったろうかなどと考えたことすらなかった。
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さてそのようなことは、とうの昔に忘れたことすら忘れていた先日、さいたま市緑区にある文房具の宝箱のような楽しげな文房具屋に行ったわけであるが、その「緑の蛍光ペンと赤の下敷きセット」を目にして、まぁそのサイズのバリエーションから、どこぞのキャラクターの付いた高級なものまで、「いろいろなものがあるんだなぁ」と思いながらも「最近なまら人の名前を忘れるから名詞に緑のマーカーでも引いてみようか」などと思案していると、視界の隅に、どうやらそのオレンジ色のバージョンらしきセットが映り込んだ。
どうやら有名ブランドPentelが売り出しているようだが、「スマホ?」。
小学生の頃、ニンテンドーの「ゲームウォッチ」を持っている友達が羨ましくて羨ましかったナカタには、いまだもって小学生がタブレットで教室で授業を受けていることすら信じていないのだが、どうやらきょうびのガキは、ニンテンドーDSなんぞを通り越してi-Phoneでももっているというのか。
手に取ると、教科書を携帯カメラでテキストスキャンして、それがそのまま暗記問題集になるらしい。
ここに装備されている近未来的な技術は、ナカタの頭に翻訳すると、ほぼほぼ『ドラえもん』の「暗記パン」である。
すると、どうやらオレンジの文字が終戦直後の教科書のように墨ベタに黒く塗られ、オレンジでマーキングした部分も黒塗りになるという。
まぁ、ここまではいいとしよう。コレならたんなるアナログをデジタル化しただけだ。ビックリしたのはその次である。
その黒に塗り変わった部分をタップすると、なんと答えが分かるのだ、と。
もちろん買って即刻帰宅。試してみる。
*こういう体を張ったサンプル作りをする歳では最早ないはずだが。
そしてそれをタブレットで撮影。
上手くいくワケがない。。。
ここからの展開は、購入時にすでに頭をカスめていたことである。
まずは、この商品の取扱説明書の要所要所をオレンジのマーカーを引いて。
その各段階における作業ポイントでの注意事項をオレンジのペンで書き込んで。
とはいえ、よく考えたらこの方法で美味く暗記教材が作れないからそもそも悩んでいるわけであって。
タブレットで撮影しても、たんにオレンジと黒の説明文がややこしくグチャグチャになっただけである。
、ということで。
・・・撤収。