世界最大の都市とも言われるメキシコの首都メキシコ・シティ。東京ほどの人口を抱えるが、範囲が広いのでそれほど密集している感はない。とはいえデカイ。そして東京と同じく、ホントにいろんなヤツがいる。その中心圏をDFという。Distrito Federal連邦区。東京で言えば23区に相当しようか。観光客はここに集まる。
このDFを訪れたら、人類学博物館もチャプルテペク城もいいが、飛ばすともったいない場所がある。DFのいわゆるアキバである。
ソカロ(中央公園)から歩いていけるところにベジャス・アルテスという駅がある。この駅を降りたらまっすぐ南に歩いて行こう。「コンピューターの広場 Plaza de computacion」という建物がある。ここがオタクの聖域だ。
“いわゆるアキバのような所”というのは正確には間違っている。無修正のアキバである。ワン・フロアーに、駅前の本屋程度の小さなブースが30程。そこにはアニメのフィギュアなどグッズがギッシリ。その奥が面白い。長テーブルがいくつもありいろんなヤツが囲んで机上を睨んでいる。雀荘のような緊張の空間だと思えばいい。だがやっているのは『遊戯王』や『デジモン』などのカード・ゲームである。もちろんこの手のカードを売る店もあり、やはりプレミア的なカードは数万とか平気でする。
どのブースにもモニターが一台置いてある。そして常時日本のアニメが流れている。『ドラゴンボール』や『ポケモン』などといった生易しいものではない。宮崎の映画ですらTSUTAYAの「名作定番コーナー」レベルの扱いである。そしてロリ系のモニターの一角には──いたいた。アキバでおでん缶を食べておられる方々とまったく同じオーラである。サラリーマン、学生、そして職業同定不可能な上級オタク。誰もがあの例の無償の愛に満ちた眼差しを、そのモニターに映るクソ童顔だが胸がHカップくらいある少女に注いでいる。
どの店も、メインはこれらアニメのDVDである。「ペリクラpelícla(ムービー)」と「セリエserie(シリーズ)」が基本中の基本たる二大専門用語だ。前者は『ハウル』や『アキラ』などといった劇場映画版。後者が面白い。日本で放送された30分もののアニメを10話程度ごとに1枚に入れ、その各々にキャプションを付けてDVDの映画としているのである。始まりと終わりの歌には、下に歌詞の訳のキャプションが、そして上には日本語歌詞がローマ字で流れ、カラオケのように歌にあわせて字の色が変わる。『デス・ノート』や『攻殻機動隊』など劇場版と連続話の両方存在するものは、この用語を知らないと店員に質問もできない。
ナカタが訪ねたある日は、『デス・ノート』の第二巻の発売日であった。もちろんこのDVDは不法コピーである。だが、その発売日はWindows Vistaのそれのようにどのブースもこの(海賊版用に製作された)「公式」の『デスノ』のポスターに張り替えられ、どのモニターもそればかりである。アニメでは、日本とここDFのオタクたちは、ほとんど同期された情報で繋がっているのだ。おそらくそれは世界中のあちこちで同じだろう。日本のアニメ界での評価はそのまま海外で即戦力なのだ。何とも恐ろしい繁殖力のこのアニメという情報メディア。
ただひとつ欠けているものがある。週末ごとにアキバに現れる、あの自称アイドルである。ただ時間の問題だろう。
これを読んでくれた人で女性の人。どうですか?DFでデビューしませんか?