もっと空気を

私達動物の息の仕方とその歴史

タコは美味しいだけじゃない

2019-09-06 12:30:36 | 日記
タコの呼吸器と心臓は同じエラ呼吸の魚よりも優れているんです、と呼吸の話をするつもりでしたが、タコは頭が良いという話題にします。

骨もなくて柔らかくて美味しいタコが、実は色や図形、人の顔を区別できるだけでなく、レバーを引いて餌を手に入れたりできる学習能力の高い賢い動物なのです。タコの頭が良いということは、その道の研究者にとっては当たり前のことのようです。
その研究者達が驚くような報告が2017年にありました。タコは単独行動し、一匹で生きていると永らく考えられていたのですが、オーストラリアのシドニー沖の海底でタコが「街」をつくり、10~15匹ほどで集団生活をしているとの発見です。タコたちは中身を食べた貝殻などを積み上げて5mほどの山を作って、その内部に穴を掘って「住居」をつくっていました。いわば、タコのアパートです。その集団の中で、オスメスが仲良くなったり、仲間内で喧嘩をしたり、サメなどへの防衛行動もみられたということです。
それ以外の観察でも集団で暮らしている例があるので、タコの街はあちらこちらにあって実は社会を作って暮らす能力もあるのか?という驚きの発見だと思います。

では、タコの脳はどうなっている?
脳神経細胞の数が犬とほぼ同じ5億個(ヒトは1000億個)もあります。でも、その脳は口のそばに3分の1があって残りは8本の足の付け根に分散しています。体のあちこちに小さな脳があるんです。両生類、爬虫類、鳥類や私達哺乳類のように脳が一カ所に集中している神経系とは違う構造を持っています。
この複数の脳を使って、8本足と皮膚の模様や色を自在に変化させて、岩に似せたり、ウツボなどの魚に似せたりといった擬態ができるのでしょう。前に書いたような学習能力もこの分散型の脳を使っているのでしょうか。(なんと、遺伝子解析からは、ヒトとほぼ同じだけの遺伝情報を持っているようです)
 しかしタコの寿命はとても短いのです!同じようにエラ呼吸をする魚と比べるとずっと高い知能を持っていますが、寿命は1年から2年しかありません(同じ大きさのカツオは約10年)。卵を産んだ直後にほとんどが死んでしまうので保育の時間もなく、孵化した子ダコも2年ほどの間に50~60cmまで急成長して短い生涯を終えます。
生き物が高い知能を持つ理由の一つは、餌をとり、生存競争に生き残り、繁殖するためだと思うのですが、この様に短い生涯の内に、その能力に釣り合う濃厚な時間があるのでしょうか。
次回は、タコの呼吸と心臓の話です。

(参考:Nature524, 2015年、Nature 542, 2017年、Marine and Freshwater Behaviour and Physiology 50, 285-91、2017年、「タコの身体問題」ピーター・ゴドフリー=スミス)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする