水生動物の循環器への酸素供給
前回は、魚類の心臓への酸素供給と肺の獲得、その後の肺から浮き袋への進化について紹介しました。 現生の魚のエラ呼吸と心筋への酸素供給についての文献や図が手に入りましたので、もう少し詳細に見てみましょう。
1.心筋の構造―哺乳類との違い
次の図のように、哺乳類では99%以上が緻密型の心筋から構成されています。心筋細胞へは心臓周囲の冠動脈を通って酸素を豊富に含んだ血液が運ばれています。
一方、ほとんどの魚類の心筋ではスポンジのように隙間の多い構造になっていて、そこを流れる血液が酸素を供給しています。その血液は全身に酸素を供給した後なので、酸素の含有量はかなり低くなっています。酸素の豊富な血液を心筋に送るための冠動脈はありません。
しかし、魚の中でも、高速遊泳をするサケやマグロ、サメなどの一部の魚や両生類と爬虫類の一部では緻密心筋が周囲を取り巻いています。そこの酸素供給は冠動脈の血流が担っています。
高速遊泳魚の冠動脈は次の図のように酸素化した血液が下鰓弓動脈から分かれて心室へ流入するので、鰓(エラ)に向かう腹大動脈の血流とは逆方向に流れています。
大型肉食魚の冠動脈と心室の解剖では、心室の大きさに比べ太い冠動脈が見られます。
2.心筋はどのようにして酸素を吸収するのか-動物達の工夫―(次の図を参照)
A スポンジ心筋
前記のように、ほとんどの魚とごく一部の両生類や爬虫類、ヤツメウナギやヌタウナギなどの原始的魚類が持っている構造です。この心室腔を流れる血液には酸素が少なく、激しい運動では酸素が足りなくなって、死亡することもあります。
B 心室の内側スポンジ心筋+外側に緻密心筋と冠動脈
高速遊泳魚や肉食魚、サメなどの酸素消費量が多い魚と、両生類と爬虫類の一部はこの構造を持っていて、心房に冠動脈を持つ魚もいます。
緻密心筋には酸素が豊富な冠動脈血が流れていますが、スポンジ心筋にはAと同じように酸素供給に制限があります。
C 緻密心筋+冠動脈
成人の哺乳類や鳥類では心筋の99%以上が緻密型で、発達した冠動脈から酸素の胸腔を受けています。肺で酸素化された血液がそのまま冠動脈を通るために豊富な酸素供給が可能です。
D 緻密型とスポンジ型の混合心筋+心筋を貫く冠動脈
「タコとイカその3」で話題としたように、タコやイカの血液はエラを通った後に心臓に流入するために酸素を十分に含んでいます。
ある種のタコではDの図のように、その心腔内の血液が混合心筋を貫く冠動脈から心筋に酸素を十分に供給しています。これはエラ呼吸をする動物の中でも特に効果的な酸素供給システムになっています。
まとめ
・魚では、ほとんどの魚種で心筋はスポンジ状であり、酸素の乏しい静脈血をスポンジ状心筋に流して酸素を吸収している。
・活動的な高速遊泳魚や肉食魚ではスポンジ状心筋の周囲を緻密心筋が取り巻いていて、そこへはエラで酸素化された血液が冠動脈を通して酸素供給している。
・軟体動物のタコはエラで酸素化した血液を心室腔内に送り、その血液は心筋壁を貫く冠動脈を通して効率的に酸素を供給している。(イカについては、不明)
魚たちはその生活行動に合わせて、心臓へ酸素を送るシステムを構成しています。
一方、同じエラ呼吸をする軟体動物のイカ・タコでは心臓の上流にエラを配置して、脊椎動物である魚や哺乳類、鳥類とは違う独特の心筋酸素化を行っています。
なお、最後の図Dでは血液を赤く書いていますが、正確にはこれは間違いです。イカとタコは酸素を運ぶ分子としてヘモグロビンではなくヘモシアニンを使っています。ヘモシアニンは酸素化により青い血液になり、酸素を放出すると透明になります。
なので、以下のような図のほうが誤解は少ないかもしれません。
次回は、軟体動物のイカについて呼吸循環をみましょう。
参考文献・URL
1.http://www.bio.miami.edu/dana/360/360F16_18.html
2.https://slideplayer.com/slide/4220271/
3.DESIGN AND PHYSIOLOGY OF THE HEART | The Coronary Circulation
A.P. Farrell, in Encyclopedia of Fish Physiology, 2011
4.http://www.bio.miami.edu/dana/360/360F16_18.html
5.Thermal tolerance in teleost fish. Andreas Ekström
University of Gothenburg Sweden 2017(doctoral thesis)
前回は、魚類の心臓への酸素供給と肺の獲得、その後の肺から浮き袋への進化について紹介しました。 現生の魚のエラ呼吸と心筋への酸素供給についての文献や図が手に入りましたので、もう少し詳細に見てみましょう。
1.心筋の構造―哺乳類との違い
次の図のように、哺乳類では99%以上が緻密型の心筋から構成されています。心筋細胞へは心臓周囲の冠動脈を通って酸素を豊富に含んだ血液が運ばれています。
一方、ほとんどの魚類の心筋ではスポンジのように隙間の多い構造になっていて、そこを流れる血液が酸素を供給しています。その血液は全身に酸素を供給した後なので、酸素の含有量はかなり低くなっています。酸素の豊富な血液を心筋に送るための冠動脈はありません。
しかし、魚の中でも、高速遊泳をするサケやマグロ、サメなどの一部の魚や両生類と爬虫類の一部では緻密心筋が周囲を取り巻いています。そこの酸素供給は冠動脈の血流が担っています。
高速遊泳魚の冠動脈は次の図のように酸素化した血液が下鰓弓動脈から分かれて心室へ流入するので、鰓(エラ)に向かう腹大動脈の血流とは逆方向に流れています。
大型肉食魚の冠動脈と心室の解剖では、心室の大きさに比べ太い冠動脈が見られます。
2.心筋はどのようにして酸素を吸収するのか-動物達の工夫―(次の図を参照)
A スポンジ心筋
前記のように、ほとんどの魚とごく一部の両生類や爬虫類、ヤツメウナギやヌタウナギなどの原始的魚類が持っている構造です。この心室腔を流れる血液には酸素が少なく、激しい運動では酸素が足りなくなって、死亡することもあります。
B 心室の内側スポンジ心筋+外側に緻密心筋と冠動脈
高速遊泳魚や肉食魚、サメなどの酸素消費量が多い魚と、両生類と爬虫類の一部はこの構造を持っていて、心房に冠動脈を持つ魚もいます。
緻密心筋には酸素が豊富な冠動脈血が流れていますが、スポンジ心筋にはAと同じように酸素供給に制限があります。
C 緻密心筋+冠動脈
成人の哺乳類や鳥類では心筋の99%以上が緻密型で、発達した冠動脈から酸素の胸腔を受けています。肺で酸素化された血液がそのまま冠動脈を通るために豊富な酸素供給が可能です。
D 緻密型とスポンジ型の混合心筋+心筋を貫く冠動脈
「タコとイカその3」で話題としたように、タコやイカの血液はエラを通った後に心臓に流入するために酸素を十分に含んでいます。
ある種のタコではDの図のように、その心腔内の血液が混合心筋を貫く冠動脈から心筋に酸素を十分に供給しています。これはエラ呼吸をする動物の中でも特に効果的な酸素供給システムになっています。
まとめ
・魚では、ほとんどの魚種で心筋はスポンジ状であり、酸素の乏しい静脈血をスポンジ状心筋に流して酸素を吸収している。
・活動的な高速遊泳魚や肉食魚ではスポンジ状心筋の周囲を緻密心筋が取り巻いていて、そこへはエラで酸素化された血液が冠動脈を通して酸素供給している。
・軟体動物のタコはエラで酸素化した血液を心室腔内に送り、その血液は心筋壁を貫く冠動脈を通して効率的に酸素を供給している。(イカについては、不明)
魚たちはその生活行動に合わせて、心臓へ酸素を送るシステムを構成しています。
一方、同じエラ呼吸をする軟体動物のイカ・タコでは心臓の上流にエラを配置して、脊椎動物である魚や哺乳類、鳥類とは違う独特の心筋酸素化を行っています。
なお、最後の図Dでは血液を赤く書いていますが、正確にはこれは間違いです。イカとタコは酸素を運ぶ分子としてヘモグロビンではなくヘモシアニンを使っています。ヘモシアニンは酸素化により青い血液になり、酸素を放出すると透明になります。
なので、以下のような図のほうが誤解は少ないかもしれません。
次回は、軟体動物のイカについて呼吸循環をみましょう。
参考文献・URL
1.http://www.bio.miami.edu/dana/360/360F16_18.html
2.https://slideplayer.com/slide/4220271/
3.DESIGN AND PHYSIOLOGY OF THE HEART | The Coronary Circulation
A.P. Farrell, in Encyclopedia of Fish Physiology, 2011
4.http://www.bio.miami.edu/dana/360/360F16_18.html
5.Thermal tolerance in teleost fish. Andreas Ekström
University of Gothenburg Sweden 2017(doctoral thesis)