※宇宙戦隊キュウレンジャーのファンフィクションです。
個人的妄想と捏造で構成されております。
公式関係各所とは全くの無関係です。
でも、もし、万が一、公式がこんな作品作ってくれたら狂喜乱舞します。Vシネでよろしく勇気。
「俺ガン」ならぬ「俺ツルギ」です。
この作品の前提。
・キュウレンジャーの時代から360年くらい過去
・ツルギはこの時点で250歳くらい(本人にも正確な歳は不明)
・宇宙連邦成立前、即ちドン・アルマゲ発生前
・ホウオウソルジャーとして覚醒前
少年は夢を見た。
宇宙飛行士になり、宇宙船にのり、誰も見たことのない外宇宙へと旅立つ。そこでは何が待つのか、誰が待つのか、冒険と探求の旅。希望と知識欲。太陽系だけではない、広大な宇宙への憧れ。
青年になり、幼い頃の夢を叶え、外宇宙へと旅立った彼は、しかしそこで夢の終わりを見た――――。
束の間の眠りから覚めたツルギは、久方ぶりに見た昔の夢に苦笑いを浮かべる。遥か遥か昔の記憶。普段は思い出すこともなかったそれに懐かしさと共に、切なさを感じる。本当の自分はあの時に死んでしまった。宇宙船の事故で暗く冷たい宇宙に放り出されて死ぬはずだった。それが、ホウオウキュータマを手にした事で生き延びた。生命維持装置が尽きても死ぬことなく漂っていた所を、奇跡的に救難信号を受けて駆け付けた近隣の船に拾われたのだ。生きている事が不思議なくらいなのに、酸素欠乏症などの後遺症もなくピンピンしていたので、医者も首を捻るばかり。その謎が知りたくて今度は科学者の道を歩み始めた。
長年の研究でキュータマが一種のエネルギー蓄積装置であること、そのエネルギーが自分の体を維持していること。そして………。
事故から10年ほどたった頃、しばらく会っていなかった学生時代の友人達に会った時、彼らは年相応に年齢を重ねていた。白髪が増えた、腹が出てきた、シワができた等と年寄りくさい会話をする中で、ツルギだけはあの時の姿のままだった。変わらないなぁ、なんて冗談を言いあって。けれどそれが20年になると、その異常さに誰もが気付き始める。事故にあったのは27歳の、10代の発達途中でもなく、30過ぎて緩やかに衰え始める頃でもなく、最も肉体的に熟成された理想の時代。ツルギの姿はその時のまま、体力も気力も満ち溢れたたままだった。あらゆる検査が生物学上の20代であることを指し示していた。
歳を取らない体。
その事実にツルギ自身も戸惑い、悩む。自分が人ではない何かになっていたと知り、恐ろしくもなった。自分だけではない、おおよそ歳を取らない人間など見たことがないのだから、彼をあまり知らない人々はプライベートでは気味悪がって近付かなくなっていった。やがて身内や親しい者も次々と天に召されて逝き、それらを見送り続けた結果、彼の方から心に蓋をして親しい人間を作るのをやめた。悲しい思いを、辛い思いをするならば、始めからなかった事にしてしまえばいい。最初から一人ならば、傷付かずに済むから。
彼は孤独を埋めるようにひたすらに研究にのめり込み、沢山の失敗といくつかの成功でその分野では宇宙中に名を知らしめていった。中でもアンドロイド研究では、後の機体の殆どが彼の設計を元に作られているほどの第一人者となり、プロトタイプを何体も作り出した。人間と違いメンテナンスさえしていれば永遠の時を生きていけるアンドロイド、それはまるで彼の孤独を埋める伴侶を産み出しているかのような作業だった。
この頃になると、宇宙には様々な恒星系や惑星国家が存在していることが明らかになっており、チキュウもそれらと交流したり、時には対立したりしていた。それぞれが独立した国で同盟を結べば交易も行われ、辺境の一星系だった太陽系もその恩恵で飛躍的に発展していった。チキュウは豊富なプラネジュウムのおかげで発展もしたが、他星系から狙われる事も多かった。
鳳ツルギが次に目を向けたのは、故郷であるチキュウを守る事。始めは、邪魔されず、研究に専念したいと言う欲求からだった。先進的な科学技術は軍事に転用されることも多く、兵器の研究費用は軍から出ていることも少なくない。ツルギの研究所も同じで、兵器としてのアンドロイド研究が主な目的だった。だが優れた人工知能を搭載した彼のアンドロイドたちは、人間と同じように感情を持ち、個々の性格も違い、思想や考え方も異なる。ツルギにとってはもはや一人の人間として存在する彼らを、兵器としてしか扱わない事に怒りを覚えたのだ。だから軍に入った。自分が軍での発言権を得るためには、そうするしかなかったから。科学者としての探求心をそちらに向けたせいか、元々才能があったのか、長く生きている経験値故か、はたまた不死身と言う特性故か、ツルギは勝利による勝利を重ねて異例の速さで出世していった。だがいくら彼が勝利したところで、すぐに新たな戦争が起こり、宇宙から争いが無くなることはない。だから争いその物を無くすには星系国家群を一つにまとめてしまおうと考えた。相対する相手がなければ戦争は起き様がない。例え利害関係で対立したとしても話し合いで解決できる手段があれば争いは無くなる。
その為にまず星系代表が集まる元老院を作ることを提案した。彼の呼び掛けに賛同した多数の星系が形ばかりの議会を作り、形ばかりの政治を行う。まだまだ宇宙統一と呼べるものでは無かったかもしれないが、戦争を望まぬ星系も多かったためにそれは人類史上でも大きな一歩だった。その中でツルギ自身は元老院には参加せず、チキュウ代表は別の者がいた。軍人が政治家になるべきではない、過去の歴史から学び、冷静にそう判断したのだが……。
不死身将軍(インモータルジェネラル)、あるいは常勝の剣、そう呼ばれ部下から絶対的なる信頼を受けるツルギが負けた。それは連合軍の中だけでなく元老院にも衝撃的であった。元老院に与する事をよしとしない星系群には朗報でもあり、各地の戦局に少なからず影響を及ぼす事だろう。何より、ツルギ自身が一番ダメージを受けていた。
自分が指揮官になる前の戦闘での敗退や、局地的な撤退は経験したことがあったが、自分が指揮して負けたことは今まで一度もなかった。しかも、戦場となった惑星、いや星系から撤退を余儀なくされるほどの大敗。
「俺様の作戦は間違っていなかったはずだ」
ブリーフィングパネルに作戦シミュレーションと実際の戦闘の動きをリンクさせて表示させながら、ツルギは食い入るように見つめる。いくら見てももう取り戻せないと言うのに。
「作戦と言うよりは、敗因はお前がいなかった事だろう」
「…………」
「だいたいだな、前線指揮官を作戦行動中に呼びつけるか?」
「全く、お偉方と言うのは俺たちの足を引っ張る事しかしねえな」
二人の会話を聞きながらもパネルを凝視し、ツルギは眉間のシワを深くする。
「俺様がいなくても、部下達は充分戦えると思っていたんだがな……」
「そりゃ過大評価だ。お前の下だから強いって奴らが殆どなんだよ」
「一頭の獅子に率いられた羊の群れは、一頭の羊に率いられた獅子の群れを駆逐する、だったか」
「なんだそりゃ?」
「どこかの星のことわざだ、確かチキュウだったか?」
オライオンに聞かれてツルギも頷く。
「ああ、そうだな」
「へぇ、意味は?」
「そのままだ、烏合の衆でも指揮官が優秀なら勝てる、だが、いくら優秀な部下でも指揮官がヘボだと負ける」
「なるほどね………って、俺の事かよ?!」
今回、ツルギがいない間はキマリが作戦指示を出していた。
「オライオン、てめぇ、ケンカ売ってんのか?!」
「怒るな。参謀は所詮参謀、指揮官じゃあないんだ仕方ない。その理論で行くと今回のヘボ指揮官は俺だ」
肩を竦めて見せるオライオンの肩を叩き、ツルギは否定する。
「お前は優秀だよ、ただ今回はそれだけじゃないかもしれん」
「どう言う事だ」
「ここを見ろ」
作戦行動の一部を再生し、ツルギが指し示す所を二人も見た。
「この敵の左翼、普通ここまで切り込まれたらもっと乱戦になるはずなんだが」
「…………下がってるな」
「そう、乱戦を避けて一部が後退している」
パネル上で点滅しながら後退する敵の左翼の一部。それは一見こちらに押されて後退したかのようにも見えるが、整然とした動きは不自然過ぎた。
「そして隣の中央が全く動いていない」
「助けにも行っていないな」
「この後、こちらは中央と右翼で連携して相手を挟撃するはずだった」
「作戦を、知られていた……?」
ツルギが頷き、二人は顔を見合わせた。
「面倒な事になったな……」
「敵よりも味方の裏切り者を探す方がよっぽど難しい」
「俺様が首都惑星に呼びつけられたのも偶然じゃないかもしれないぞ」
「元老院なんて、形ばかりのもんだしな、従うフリしてる国家なんていくらでもいるだろう」
組んでいた腕をおろし、ツルギはポツリと独り言のように二人に語りかけた。
「なあ、俺様はどこかで間違っていただろうか」
「………なにがだ?」
自分の掌を見つめ、ゆっくりと息を吐き出す。
「宇宙を統一するのに戦いは避けられないだろう、だから俺様は連合軍を率いている。だがそれはあくまで元老院議会の承認の元でだ。元老院議会を提案したのは連合している国家が互いに監視しし合う立場でなければならないからだ。これが仮に一人の人間が全てを決定するようになるとそれは独裁だ。過去の歴史上、独裁的権力者が軍事力を有した瞬間から国は腐敗する。それは大きすぎる力が権力者自身を蝕み狂わせて行くからだ」
それはツルギが政治家にならなかった理由でもあり、彼自身の保身の為でもある。元老院がツルギの才幹を頼りながらも敬遠するのは、ツルギが政治家になり圧倒的カリスマ性で独裁者になった時に自分達の地位が脅かされると思い込でいるからに他ならない。そして彼らはやがて敵よりも身近なツルギを憎むようになり、命さえ狙ってくる。だからツルギは軍人に徹し、政治から離れるようしてきた。
「だから議会制と言う入れ物を作り、そこに各星系代表を入れたんだ。それなのに、結果は同じだ。元老院の奴等は連合の力を自分達の力と勘違いして、敵よりも味方の俺様を排除したがっている。俺様はどこで間違った?」
二人には意外でしかなかった。鳳ツルギが弱音を吐くなどと。俯き肩を落とす彼の姿など見たくはなかった光景だ。彼らが生まれた時には既に元老院は存在しており、鳳ツルギは連合軍を率いて戦っていた。そう、二人にとってはそれが当たり前の事だったから。
「俺様が間違えたから、そのせいで部下達は無駄に大勢死んだ。何が常勝の剣だ、何が不死身将軍だ、祭り上げられていい気になっていたんじゃないか」
頭を抱えるように両手を髪に差し入れ、ぐしゃぐしゃと掻き乱す。人並みに苦悩し、迷い、己自身を嘆く。あの自信家で尊大な態度のツルギがだ。こんなツルギは見たことがなかった。
「なぁ、ツルギ」
オライオンが戸惑いながらも声をかける。
「俺には難しい事はわからんが、お前なら独裁者になっても案外うまくやっていけるんじゃないか?」
「……オライオン」
「俺も、そう思う。権力者の狂気を自覚できるお前なら、全うな政治家になり得るだろうよ」
「キマリ……」
ツルギは二人を交互に見つめて、そしてふっと力を抜いて小さく笑った。
「お前らがいてくれてよかった」
それは、ツルギの最大限の謝辞で。それまで孤独だった彼の隣に並び立つ者ができたのだから。
「よし、宇宙を統一したら、俺様は宇宙連邦大統領になる!」
「大統領……か」
「そうだ、宇宙初の大統領だ、こいつは伝説になるぜ?」
楽しそうに言うツルギはすっかりいつものツルギだった。壮大な夢物語をさも簡単そうにさらりと言ってのける、自信に充ちた表情。
「よし、今回の敗けを取り戻さなきゃな、飯を食ったら作戦会議だ!」
コートの裾を翻してブリーフィングルームを飛び出して行く後ろ姿を慌ててオライオンが追いかけ、更にその後をキマリがゆっくりとついて行く。まだ、宇宙は戦争ばかりだったが、平和が訪れるのも近い気がしてきた。
episode of 鳳ツルギ
chapter2 星の未来
人間臭い所を出したくて、ちょっと弱気なツルギを書いてみたけど、この性格なので即立ち直りました(笑)
個人的妄想と捏造で構成されております。
公式関係各所とは全くの無関係です。
でも、もし、万が一、公式がこんな作品作ってくれたら狂喜乱舞します。Vシネでよろしく勇気。
「俺ガン」ならぬ「俺ツルギ」です。
この作品の前提。
・キュウレンジャーの時代から360年くらい過去
・ツルギはこの時点で250歳くらい(本人にも正確な歳は不明)
・宇宙連邦成立前、即ちドン・アルマゲ発生前
・ホウオウソルジャーとして覚醒前
少年は夢を見た。
宇宙飛行士になり、宇宙船にのり、誰も見たことのない外宇宙へと旅立つ。そこでは何が待つのか、誰が待つのか、冒険と探求の旅。希望と知識欲。太陽系だけではない、広大な宇宙への憧れ。
青年になり、幼い頃の夢を叶え、外宇宙へと旅立った彼は、しかしそこで夢の終わりを見た――――。
束の間の眠りから覚めたツルギは、久方ぶりに見た昔の夢に苦笑いを浮かべる。遥か遥か昔の記憶。普段は思い出すこともなかったそれに懐かしさと共に、切なさを感じる。本当の自分はあの時に死んでしまった。宇宙船の事故で暗く冷たい宇宙に放り出されて死ぬはずだった。それが、ホウオウキュータマを手にした事で生き延びた。生命維持装置が尽きても死ぬことなく漂っていた所を、奇跡的に救難信号を受けて駆け付けた近隣の船に拾われたのだ。生きている事が不思議なくらいなのに、酸素欠乏症などの後遺症もなくピンピンしていたので、医者も首を捻るばかり。その謎が知りたくて今度は科学者の道を歩み始めた。
長年の研究でキュータマが一種のエネルギー蓄積装置であること、そのエネルギーが自分の体を維持していること。そして………。
事故から10年ほどたった頃、しばらく会っていなかった学生時代の友人達に会った時、彼らは年相応に年齢を重ねていた。白髪が増えた、腹が出てきた、シワができた等と年寄りくさい会話をする中で、ツルギだけはあの時の姿のままだった。変わらないなぁ、なんて冗談を言いあって。けれどそれが20年になると、その異常さに誰もが気付き始める。事故にあったのは27歳の、10代の発達途中でもなく、30過ぎて緩やかに衰え始める頃でもなく、最も肉体的に熟成された理想の時代。ツルギの姿はその時のまま、体力も気力も満ち溢れたたままだった。あらゆる検査が生物学上の20代であることを指し示していた。
歳を取らない体。
その事実にツルギ自身も戸惑い、悩む。自分が人ではない何かになっていたと知り、恐ろしくもなった。自分だけではない、おおよそ歳を取らない人間など見たことがないのだから、彼をあまり知らない人々はプライベートでは気味悪がって近付かなくなっていった。やがて身内や親しい者も次々と天に召されて逝き、それらを見送り続けた結果、彼の方から心に蓋をして親しい人間を作るのをやめた。悲しい思いを、辛い思いをするならば、始めからなかった事にしてしまえばいい。最初から一人ならば、傷付かずに済むから。
彼は孤独を埋めるようにひたすらに研究にのめり込み、沢山の失敗といくつかの成功でその分野では宇宙中に名を知らしめていった。中でもアンドロイド研究では、後の機体の殆どが彼の設計を元に作られているほどの第一人者となり、プロトタイプを何体も作り出した。人間と違いメンテナンスさえしていれば永遠の時を生きていけるアンドロイド、それはまるで彼の孤独を埋める伴侶を産み出しているかのような作業だった。
この頃になると、宇宙には様々な恒星系や惑星国家が存在していることが明らかになっており、チキュウもそれらと交流したり、時には対立したりしていた。それぞれが独立した国で同盟を結べば交易も行われ、辺境の一星系だった太陽系もその恩恵で飛躍的に発展していった。チキュウは豊富なプラネジュウムのおかげで発展もしたが、他星系から狙われる事も多かった。
鳳ツルギが次に目を向けたのは、故郷であるチキュウを守る事。始めは、邪魔されず、研究に専念したいと言う欲求からだった。先進的な科学技術は軍事に転用されることも多く、兵器の研究費用は軍から出ていることも少なくない。ツルギの研究所も同じで、兵器としてのアンドロイド研究が主な目的だった。だが優れた人工知能を搭載した彼のアンドロイドたちは、人間と同じように感情を持ち、個々の性格も違い、思想や考え方も異なる。ツルギにとってはもはや一人の人間として存在する彼らを、兵器としてしか扱わない事に怒りを覚えたのだ。だから軍に入った。自分が軍での発言権を得るためには、そうするしかなかったから。科学者としての探求心をそちらに向けたせいか、元々才能があったのか、長く生きている経験値故か、はたまた不死身と言う特性故か、ツルギは勝利による勝利を重ねて異例の速さで出世していった。だがいくら彼が勝利したところで、すぐに新たな戦争が起こり、宇宙から争いが無くなることはない。だから争いその物を無くすには星系国家群を一つにまとめてしまおうと考えた。相対する相手がなければ戦争は起き様がない。例え利害関係で対立したとしても話し合いで解決できる手段があれば争いは無くなる。
その為にまず星系代表が集まる元老院を作ることを提案した。彼の呼び掛けに賛同した多数の星系が形ばかりの議会を作り、形ばかりの政治を行う。まだまだ宇宙統一と呼べるものでは無かったかもしれないが、戦争を望まぬ星系も多かったためにそれは人類史上でも大きな一歩だった。その中でツルギ自身は元老院には参加せず、チキュウ代表は別の者がいた。軍人が政治家になるべきではない、過去の歴史から学び、冷静にそう判断したのだが……。
不死身将軍(インモータルジェネラル)、あるいは常勝の剣、そう呼ばれ部下から絶対的なる信頼を受けるツルギが負けた。それは連合軍の中だけでなく元老院にも衝撃的であった。元老院に与する事をよしとしない星系群には朗報でもあり、各地の戦局に少なからず影響を及ぼす事だろう。何より、ツルギ自身が一番ダメージを受けていた。
自分が指揮官になる前の戦闘での敗退や、局地的な撤退は経験したことがあったが、自分が指揮して負けたことは今まで一度もなかった。しかも、戦場となった惑星、いや星系から撤退を余儀なくされるほどの大敗。
「俺様の作戦は間違っていなかったはずだ」
ブリーフィングパネルに作戦シミュレーションと実際の戦闘の動きをリンクさせて表示させながら、ツルギは食い入るように見つめる。いくら見てももう取り戻せないと言うのに。
「作戦と言うよりは、敗因はお前がいなかった事だろう」
「…………」
「だいたいだな、前線指揮官を作戦行動中に呼びつけるか?」
「全く、お偉方と言うのは俺たちの足を引っ張る事しかしねえな」
二人の会話を聞きながらもパネルを凝視し、ツルギは眉間のシワを深くする。
「俺様がいなくても、部下達は充分戦えると思っていたんだがな……」
「そりゃ過大評価だ。お前の下だから強いって奴らが殆どなんだよ」
「一頭の獅子に率いられた羊の群れは、一頭の羊に率いられた獅子の群れを駆逐する、だったか」
「なんだそりゃ?」
「どこかの星のことわざだ、確かチキュウだったか?」
オライオンに聞かれてツルギも頷く。
「ああ、そうだな」
「へぇ、意味は?」
「そのままだ、烏合の衆でも指揮官が優秀なら勝てる、だが、いくら優秀な部下でも指揮官がヘボだと負ける」
「なるほどね………って、俺の事かよ?!」
今回、ツルギがいない間はキマリが作戦指示を出していた。
「オライオン、てめぇ、ケンカ売ってんのか?!」
「怒るな。参謀は所詮参謀、指揮官じゃあないんだ仕方ない。その理論で行くと今回のヘボ指揮官は俺だ」
肩を竦めて見せるオライオンの肩を叩き、ツルギは否定する。
「お前は優秀だよ、ただ今回はそれだけじゃないかもしれん」
「どう言う事だ」
「ここを見ろ」
作戦行動の一部を再生し、ツルギが指し示す所を二人も見た。
「この敵の左翼、普通ここまで切り込まれたらもっと乱戦になるはずなんだが」
「…………下がってるな」
「そう、乱戦を避けて一部が後退している」
パネル上で点滅しながら後退する敵の左翼の一部。それは一見こちらに押されて後退したかのようにも見えるが、整然とした動きは不自然過ぎた。
「そして隣の中央が全く動いていない」
「助けにも行っていないな」
「この後、こちらは中央と右翼で連携して相手を挟撃するはずだった」
「作戦を、知られていた……?」
ツルギが頷き、二人は顔を見合わせた。
「面倒な事になったな……」
「敵よりも味方の裏切り者を探す方がよっぽど難しい」
「俺様が首都惑星に呼びつけられたのも偶然じゃないかもしれないぞ」
「元老院なんて、形ばかりのもんだしな、従うフリしてる国家なんていくらでもいるだろう」
組んでいた腕をおろし、ツルギはポツリと独り言のように二人に語りかけた。
「なあ、俺様はどこかで間違っていただろうか」
「………なにがだ?」
自分の掌を見つめ、ゆっくりと息を吐き出す。
「宇宙を統一するのに戦いは避けられないだろう、だから俺様は連合軍を率いている。だがそれはあくまで元老院議会の承認の元でだ。元老院議会を提案したのは連合している国家が互いに監視しし合う立場でなければならないからだ。これが仮に一人の人間が全てを決定するようになるとそれは独裁だ。過去の歴史上、独裁的権力者が軍事力を有した瞬間から国は腐敗する。それは大きすぎる力が権力者自身を蝕み狂わせて行くからだ」
それはツルギが政治家にならなかった理由でもあり、彼自身の保身の為でもある。元老院がツルギの才幹を頼りながらも敬遠するのは、ツルギが政治家になり圧倒的カリスマ性で独裁者になった時に自分達の地位が脅かされると思い込でいるからに他ならない。そして彼らはやがて敵よりも身近なツルギを憎むようになり、命さえ狙ってくる。だからツルギは軍人に徹し、政治から離れるようしてきた。
「だから議会制と言う入れ物を作り、そこに各星系代表を入れたんだ。それなのに、結果は同じだ。元老院の奴等は連合の力を自分達の力と勘違いして、敵よりも味方の俺様を排除したがっている。俺様はどこで間違った?」
二人には意外でしかなかった。鳳ツルギが弱音を吐くなどと。俯き肩を落とす彼の姿など見たくはなかった光景だ。彼らが生まれた時には既に元老院は存在しており、鳳ツルギは連合軍を率いて戦っていた。そう、二人にとってはそれが当たり前の事だったから。
「俺様が間違えたから、そのせいで部下達は無駄に大勢死んだ。何が常勝の剣だ、何が不死身将軍だ、祭り上げられていい気になっていたんじゃないか」
頭を抱えるように両手を髪に差し入れ、ぐしゃぐしゃと掻き乱す。人並みに苦悩し、迷い、己自身を嘆く。あの自信家で尊大な態度のツルギがだ。こんなツルギは見たことがなかった。
「なぁ、ツルギ」
オライオンが戸惑いながらも声をかける。
「俺には難しい事はわからんが、お前なら独裁者になっても案外うまくやっていけるんじゃないか?」
「……オライオン」
「俺も、そう思う。権力者の狂気を自覚できるお前なら、全うな政治家になり得るだろうよ」
「キマリ……」
ツルギは二人を交互に見つめて、そしてふっと力を抜いて小さく笑った。
「お前らがいてくれてよかった」
それは、ツルギの最大限の謝辞で。それまで孤独だった彼の隣に並び立つ者ができたのだから。
「よし、宇宙を統一したら、俺様は宇宙連邦大統領になる!」
「大統領……か」
「そうだ、宇宙初の大統領だ、こいつは伝説になるぜ?」
楽しそうに言うツルギはすっかりいつものツルギだった。壮大な夢物語をさも簡単そうにさらりと言ってのける、自信に充ちた表情。
「よし、今回の敗けを取り戻さなきゃな、飯を食ったら作戦会議だ!」
コートの裾を翻してブリーフィングルームを飛び出して行く後ろ姿を慌ててオライオンが追いかけ、更にその後をキマリがゆっくりとついて行く。まだ、宇宙は戦争ばかりだったが、平和が訪れるのも近い気がしてきた。
episode of 鳳ツルギ
chapter2 星の未来
人間臭い所を出したくて、ちょっと弱気なツルギを書いてみたけど、この性格なので即立ち直りました(笑)