ある日の気づき

ドンバスの2つの人民共和国

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1. 永続的住民、明確な領域、政府
2. 他国と関係を取り結ぶ能力
2.1 ロシアとの関係
2.2 ウクライナ政府との関係
2.3 国連との関係
2.4 外交関係
付記
付記その2: ロシア連邦への加盟について
更新履歴

「細かいことが気になってしまう、僕の悪い癖。」

ドネツク共和国とルガンスク共和国が、国際法上の国家としての要件を満たすことを確認して
おく。「モンテビデオ条約 第1条」で定義されている国家の4要件を満たす事を順に見ていく。
(a)永続的住民、(b)明確な領域、(c)政府、及び、(d)他国と関係を取り結ぶ能力
という4つが、国家の4要件である。下記などを参照。
国家の資格要件 - Wikipedia

1. 永続的住民、明確な領域、政府^

ウクライナの州(であった領域)を実効支配していることは、国家承認していない諸国も
事実として認めている。実効支配の現れの一例として、ドネツク人民共和国が「国外」への
石炭供給を制御していることも挙げておこう。
https://jp.sputniknews.com/20150908/869551.html
ドネツク人民共和国、ウクライナへの石炭供給を封鎖
2015年9月8日, 19:20
ドネツク人民共和国は、キエフ当局が政治フィールドでの対話を行おうとしないことを
理由に、ウクライナの主要な地域への石炭供給を停止した。同共和国のクジメンコ交通相の
声明によれば、キエフ当局は、コンタクト再開のために、燃料および車両、機関車の部品の
供給を戻し、休戦を維持せねばならない。
クジメンコ交通相は、キエフはドネツク人民共和国へのディーゼル燃料の供給を7月から封鎖
しており、部品供給に関してはすでに1年以上もストップしていると指摘。

2. 他国と関係を取り結ぶ能力^

以下のような「他国と関係を取り結ぶ能力」を発揮してきた。

2.1 ロシアとの関係^

ロシアによる国家承認以前にも、以下のような交渉があった。
- ロシアから供給されている電気、ガスについての交渉
- ロシアからの人道的援助の受け入れ調整
- 2017年時点で、ロシアは両共和国の発行する文書(パスポートを含む)を有効と認めた。
- ウクライナ政府の攻撃が激化したことに伴うロシア領への避難に関する事前調整
- 正式な国家承認の事前調整

ロシアとの関係は「ウクライナでの武力紛争に関連する国際法 」の「付録1」と下記を参照。
https://jp.sputniknews.com/20220221/10224482.html
ドネツク、ルガンスク両共和国の指導者 プーチン大統領に独立の承認を要請
2022年2月21日, 22:40

2.2 ウクライナ政府との関係^

捕虜交換を実施しているので、軍構成員の交戦者資格は認知されていると推定される。
交戦者資格の四条件 - Wikipedia
交戦資格とは - コトバンク
https://jp.sputniknews.com/20150326/93967.html
ドンバス義勇軍、ウクライナ軍は重火器を撤去せず
2015年3月26日, 23:46
ルガンスク人民共和国がリアノーボスチ通信に明らかにしたところによれば、キエフ政権は
衝突ラインからの重火器の撤去を開始しないばかりか、ミンスク合意を乱暴に違反している。
これより前、ルガンスク人民共和国非常事態省はウクライナの治安維持機関が砲撃を行った
ことを明らかにしていた。
これを受けてドネツク人民共和国のリーダーのザパルチェンコ氏は、ドネツク人民共和国は
キエフ政権がミンスク合意の違反をやめない限り、政権との間の捕虜交換を一時停止する
ことを明らかにした。
https://jp.sputniknews.com/20200426/7397615.html
「ドンバス紛争 「ノルマンディー」4者協議、来週ビデオ会議=ロシア外務大臣
2020年4月26日, 02:29
前回の会合では、ミンスク合意の順守、またドンバスの3地域において2020年3月までに
軍を撤退、年末までに停戦を保証することで合意した。
2019年12月末、ウクライナと自称ルガンスク人民共和国は2年ぶりとなる捕虜交換を行った。
ウクライナ政府は2014年4月、自称ルガンスク人民共和国と同ドネツク人民共和国に軍事作戦を
開始。両共和国は2014年2月のウクライナクーデター後に独立を宣言していた。
国連の最新情報によると、この紛争による犠牲者数は約1万3千人に上る。」
注)現在の国連情報では犠牲者数は 14000人に更新されている。なお、この数字は調査方法の
問題などにより、過小評価と考えられる

2.3 国連との関係^

国連安保理にウクライナ政府の非人道的行為への対応として、国際法廷設置を依頼した
ことがある。
https://jp.sputniknews.com/20150716/590305.html
国際法廷:ウクライナ政権にとってのニュルンベルクの亡霊
2015年7月16日, 23:56
ドネツクおよびルガンスク両人民共和国は国連安保理に対し、ドンバスの懲罰作戦において
ウクライナ政権が犯した軍事犯罪を裁く国際法廷を設けるよう求めた。
...

2.4 外交関係^

以下の Wikipedia 記事を参照。
Donetsk People's Republic - Wikipedia
Luhansk People's Republic - Wikipedia
ドネツク人民共和国 - Wikipedia
「国家承認している国連加盟国
ロシア(2022年2月21日)

ロシアの国家承認を支持した国連加盟国
シリア
ニカラグア
ベネズエラ

国家承認している事実上独立した地域
ルガンスク人民共和国(2014年5月11日承認[要出典]、外交関係樹立)
南オセチア共和国(2014年6月27日承認、2015年5月12日外交関係樹立)
アブハジア共和国(2022年2月26日承認)」

ルガンスク人民共和国 - Wikipedia
「国家承認している国連加盟国
ロシア連邦

国家承認している事実上独立した地域
いずれもロシアが国家として承認している。

ドネツク人民共和国(2014年5月11日承認、外交関係樹立)
南オセチア共和国(2014年6月18日承認、2015年1月28日外交関係樹立)
アブハジア共和国(2022年2月26日承認)」

付記^

多くの関連文書は、ウクライナ政府寄りの立場で、両共和国への言及で一々「非合法の
武装勢力」と述べたり、実施された選挙について「法的効力がない」などと注釈を付けて
いる場合が多いようだが、それらは「中立的な記述」とは言えない。もし中立的記述と

主張するなら、「それなら、コソボの独立では、どうだったのか」という問への答を用意
しておく必要があるだろう。ちなみに、プーチンはクリミア独立直後に西側メディアの
インタビューで記者たちに
「コソボが独立できてクリミアが独立できない理由は?」
と反問し、記者たちは答えられなかったそうだ。

プーチンが「西側諸国に国際法について他国に説教する資格はない」と考えていることは、
下記の記事で述べた通り。
「もっといろんなアニメを見るべき」人が目立つ今日この頃 - ある日の気づき

プーチンは、以下のような認識を背景に、西側諸国の国際法軽視、および解釈に際しての
二重基準を論難している。
- 2008年のコソボ独立は「当事国の同意なしに国境線は変更できない」という当時の国際慣習法の
 原則に反していたが、西側諸国は独立を武力でゴリ押しした。
- 2010年の国際司法裁判所の「勧告的意見」により国境線不変更原則を否定する論拠が生じた。
- そしてクリミアやドンバスの独立宣言は2014年だが、西側諸国は、住民の投票結果も無視し、
 ウクライナがクリミアやドンバスを武力で再獲得するようにうながしている。

なお、コソボ独立の母体となった武装勢力「コソボ解放軍」は、下記の英語記事での記述から
見る限り、ドンバス両共和国の軍より「犯罪性が高い組織」という印象を受ける。
- コソボ解放軍 - Wikipedia
- コソボ解放軍とは - コトバンク
- Kosovo Liberation Army - Wikipedia
- http://www.kosovo.net/kla_obl.html

さらに、KLA はNATO による国際法上違法な空爆なしには「領土」の実効支配を確保
できなかった組織でもある。さて、なぜコソボでは良くて、ドンバスではダメなのか
論理的に整合性のある答などあるのだろうか?

ちなみに、下記でコソボ紛争時のセルビアの首都ベオグラード爆撃の違法性について
詳しく述べていないのは、イラクやシリアの場合と同様、違法性が自明だから。
プーチン演説中の国際法への言及について補足 - ある日の気づき

確認しておく。現在の国際法上、武力行使禁止原則の例外は次の2つだけ。
(1) 国連安全保障理事会の議決に基づく(曲解や逸脱があってはいけない)。
(2) 自衛権の発動(自衛権は個別的自衛権と集団的自衛権の2種類がある)。
「自衛権」発動要件を満たさないのは明らか。
根拠になりうる国連安全保障理事会の議決が存在しないのは、客観的事実。
さらに言えば、戦時国際法(国際人道法)にも違反している。それで「人道介入」と称して
いるのだから、悪い冗談としか思えない。

付記その2: ロシア連邦への加盟について^

前述のように他国の承認は国家の要件ではないし、ある国家が*住民の意思で*ロシア連邦に
加盟することをはばむ国際法は存在しない。なお、「国際連合により違法と見なされた」という
意味不明の記述がWikipediaに追加されているようだが、国際法について判断をする資格がある
組織は、国際司法裁判所と安全保障理事会のみで、「国連」という漠然とした組織の総称名には、
国際法について判断を下す資格との関係はない。
さらに、国際司法裁判所は「裁判に全ての当事国が同意したとき」にのみ、裁判で判断を下せる
のであり、安全保障理事会は「安全保障理事会決議」においてのみ、判断を下せる。
なお、ウクライナ紛争が「安全保障理事会が管轄する案件」である限り、国連憲章第12条により、
国連総会は「討議」はできるが「勧告」はできない。なお、国連総会の機能は「討議」と「勧告」
のみである(国連憲章第10条)。
一方、NATO諸国はウクライナ紛争への介入を公然と認めているが、それらの行為は国際法上の
根拠がなく、全て違法である。これらの論点については、以下の関連記事参照。
- 国連総会でのロシア非難決議の違法性
- プーチン演説について
- ウクライナ紛争関連の事実確認
- 「衡平の原則」に基づいて考慮すべきウクライナ情勢関連の国際法
- ウクライナと西側諸国の犯罪
- ウクライナと西側諸国の犯罪(2)
# 例えば、西側諸国の武器貿易条約違反やウクライナの戦時国際法違反の一部は、西側マスコミ
# 報道内容だけからでも確認可能なのだが、そうしたウクライナと西側諸国の犯罪」については
# 触れない時点で、Wikipediaの理念であるはずの記述の中立性に違反している。下記も参照。
- 国際司法制度の問題点
- ウクライナ紛争関連の言説に多く見られる認知バイアスへの対応策

更新履歴^
2022-03-29 14:24 : リンク、節番号、改行位置
2022-04-28 05:05 : 改行位置、フォント、行間修正。ドンバス紛争犠牲者数への注。
2022-04-28 17:37 : ドンバス紛争犠牲者数への注の「過小評価」にリンク追加。
2022-05-24 00:06 : 改行位置修正、タグ #国際法 を付与。
2022-07-21 01:11 : フォント修正、他記事からの参照可能位置へのid付与。
2022-08-20 11:33 : フォント、改行位置、字句修正、リンク追加
2022-09-20 07:52 : リンク追加、動作をタブ/ウインドウを開くように変更。字句修正
2022-10-03 01:18 : ロシア連邦への加盟について関連の記述+リンク追加

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