2022/08/16 11:00
世論調査部 岡部雄二郎
7月の参院選で、与党が改選過半数を獲得して大勝した一方、政治団体「参政党」が1議席を獲得した。初挑戦の国政選挙だった参政党が、議席を獲得できた背景には何があるのか。選挙結果や読売新聞社の出口調査をもとに分析すると、三つの要因が見えてきた。
開票が進み、花束を手に笑顔を見せる参政党の候補者たち
有権者の「コロナ疲れ」の心情をすくい取ったか?
神谷宗幣氏
今回当選したのは、参政党副代表兼事務局長の神谷宗幣氏だ。大阪府吹田市議などを務めた後、2020年に元衆院議員の松田学氏(現党代表)らと結党した。党は、三つの重点政策として「子供の教育」「食と健康、環境保全」「国のまもり」を掲げている。
参院選では、「自虐史観からの脱却」など、保守色の強い主張を各地で展開。比例選では約176万票を獲得し、初の国政進出を果たした。現職の国会議員がいない政治団体が初めて挑戦した国政選としては異例の得票数だ。どんな人たちが支持したのだろうか。
今回の参院選では、保守系の政治団体が数多く候補を擁立した。比例選では、移民の受け入れに反対する「日本第一党」や、自主憲法制定を訴える「新党くにもり」、1990年代から何度も国政に挑戦してきた「維新政党・新風」などが候補を擁立したが、得票は「日本第一党」が約10万票、「新党くにもり」が約7万票、「維新政党・新風」は約6万票にとどまった。参政党だけ議席に手が届いた理由は、保守色の強さ以外に何かありそうだ。
「参政党の最大の特徴は、『反ワクチン』や『脱マスク』の主張だ。『コロナ疲れ』を感じる子育て世代や若者の一部に食い込んだことが、得票につながったのではないか」。コロナ下で初めて行われた今回の参院選を振り返り、同志社大学の飯田健教授(政治行動論)はこう分析する。
飯田教授は選挙後、都道府県ごとの参政党の比例選得票率を、各地域の高齢化率や都市規模など様々なデータと比較した。その結果、最も強い相関関係を示したのが、3回目のワクチン接種率だったという。
実際、縦軸を参政党の比例選得票率、横軸を3回目のワクチン接種率として、両者の関係性をグラフ化してみた。3回目接種率は、選挙当日の7月10日のデータが主に反映された7月11日公表分の数値を用いた。3回目接種率が72.57%で最も高い秋田県が、参政党の得票率が2.17%と全国で最も低く、逆に、接種率が45.99%で最も低い沖縄県では、参政党の得票率は全国で最も高い4.65%となり、他の都道府県でも一定の「負の相関関係」がみられた。接種率低迷の一因がワクチンへの拒否感だとすれば、参政党が訴えた「反ワクチン」や「脱マスク」の主張が票の掘り起こしにつながったという説は十分成り立つ。
A Flourish scatter chart
参政党はコロナ対応について、「子ども世代への接種反対」「マスク着用の自由化」を唱える。党の政策を解説した単行本では、「莫大な利益獲得を目的とする『あの勢力』が、コロナ禍の恐怖を過剰に 煽 るために、新聞やテレビなどのメディアを利用して盛んにマスク着用を呼びかけている」(「参政党Q&Aブック基礎編」)といった「陰謀論」的な主張も目立つ。三つの重点政策には含まれていないものの、選挙戦最終日に都内で行った街頭演説では、候補者の多くが政府のコロナ対応批判に時間を割き、「今の政治は国民の健康や命まで取ろうとしている」などと訴えた。
「反ワクチンとか陰謀論とか色々言われるのは分かった上で、でも、誰かがその受け皿にならないと、民意が反映されない」。参政党副代表の神谷氏は選挙後、インターネット番組でこう語った。イデオロギーと直接、関係なく、かつ、国民に関心の高いテーマで、あえて極端ともとれる主張をすることで、他党との差別化を図る狙いがありそうだ。
新型コロナの感染者数は、参院選が終わった後に急増し、過去最多の感染者数を記録している地域も相次いでいる。参院選のタイミングが少しずれていたら、選挙結果は違った可能性もあったかもしれない。
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若者世代~子育て世代に浸透
参政党に投票した層の意識を探るため、参院選が行われた7月10日、投票を終えた全国の有権者約8万人を対象に読売新聞社・日本テレビ系列各局が実施した当日出口調査のデータを見てみよう。
比例選で参政党に投票したと答えた人は、年代別で見ると、最も高かったのが18、19歳で7%。年代が上がるほどパーセンテージは下がり、70歳以上が最も低く2%にとどまった。考えれば、ワクチン接種率は、若い世代ほど低く、高齢者は高い。
支持政党別では、無党派層で参政党に投票したと答えた人は7%。社民党(3%)を大きく上回り、共産党やれいわ新選組(いずれも7%)と並んだ。比較的若く、特定の支持政党を持たない層に浸透したことがうかがえる。
「参院選の争点として特に重視した政策」を尋ねると、参政党に投票したと答えた人では、最も多かったのは「子育て・教育政策」21%。次いで「外交・安全保障」19%、「景気・雇用」15%の順だった。「外交・安保」や「景気・雇用」を挙げた人は、全体平均(ともに17%)と大差ないが、「子育て・教育政策」は全体平均より8ポイント高い。
これらのデータは、「子育て世代や若者のコロナ疲れが参政党支持に結びついた」とする飯田教授の分析と合致していると言えるだろう。
SNSによる「アテンション・エコノミー」現象
選挙戦術の面で大きな役割を果たしたのが、SNSをはじめとするネットの力だ。神谷副代表は元々ユーチューブで持論を訴えてきたことで知られ、党公式チャンネルの登録者数は7月末現在で21万人を超える。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」でも、選挙中に多くの関連動画が拡散された。
TikTokは、10秒前後の短い映像を気軽に投稿することができ、若い世代に人気のアプリだ。社会心理学が専門の稲増一憲・関西学院大教授は、こうしたSNSが人気を集める背景に、インターネット上で加速する「アテンション・エコノミー(注意経済)」という現象があるとみている。
アテンション・エコノミーとは、「情報の中身や正確性よりも、いかに人々の注意(アテンション)を引きつけられるかが、その情報の経済価値を決める」という考え方だ。特に、際限なく情報発信ができるネット上では、一つ一つの情報に注意を払う余裕が失われ、より短く、よりインパクトのある情報が、人々の関心を引きやすい。10秒程度の短い動画が特徴のTikTokは、こうした傾向に合わせて進化したSNSだと言える。
政治家が単純な短い言葉で有権者を引きつける「ワンフレーズ・ポリティクス」は、「自民党をぶっ壊す」など、小泉元首相が代表的だ。稲増教授はワンフレーズ・ポリティクスについて、「平成のテレビの時代からあったが、ネット上ではそれが加速している」とした上で、こう指摘する。「参政党が掲げた『反ワクチン』や『脱マスク』は端的で分かりやすく、SNSと親和性が高かった。拡散さえできれば、政権は取れなくても参院選で1議席は取れる、ということが今回証明されたのではないか」
NHK党の立花党首(右)と対談する神谷副代表(ユーチューブの画面より)
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参政党に投票した層の意識を探るため、参院選が行われた7月10日、投票を終えた全国の有権者約8万人を対象に読売新聞社・日本テレビ系列各局が実施した当日出口調査のデータを見てみよう。
比例選で参政党に投票したと答えた人は、年代別で見ると、最も高かったのが18、19歳で7%。年代が上がるほどパーセンテージは下がり、70歳以上が最も低く2%にとどまった。考えれば、ワクチン接種率は、若い世代ほど低く、高齢者は高い。
支持政党別では、無党派層で参政党に投票したと答えた人は7%。社民党(3%)を大きく上回り、共産党やれいわ新選組(いずれも7%)と並んだ。比較的若く、特定の支持政党を持たない層に浸透したことがうかがえる。
「参院選の争点として特に重視した政策」を尋ねると、参政党に投票したと答えた人では、最も多かったのは「子育て・教育政策」21%。次いで「外交・安全保障」19%、「景気・雇用」15%の順だった。「外交・安保」や「景気・雇用」を挙げた人は、全体平均(ともに17%)と大差ないが、「子育て・教育政策」は全体平均より8ポイント高い。
これらのデータは、「子育て世代や若者のコロナ疲れが参政党支持に結びついた」とする飯田教授の分析と合致していると言えるだろう。
SNSによる「アテンション・エコノミー」現象
選挙戦術の面で大きな役割を果たしたのが、SNSをはじめとするネットの力だ。神谷副代表は元々ユーチューブで持論を訴えてきたことで知られ、党公式チャンネルの登録者数は7月末現在で21万人を超える。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」でも、選挙中に多くの関連動画が拡散された。
TikTokは、10秒前後の短い映像を気軽に投稿することができ、若い世代に人気のアプリだ。社会心理学が専門の稲増一憲・関西学院大教授は、こうしたSNSが人気を集める背景に、インターネット上で加速する「アテンション・エコノミー(注意経済)」という現象があるとみている。
アテンション・エコノミーとは、「情報の中身や正確性よりも、いかに人々の注意(アテンション)を引きつけられるかが、その情報の経済価値を決める」という考え方だ。特に、際限なく情報発信ができるネット上では、一つ一つの情報に注意を払う余裕が失われ、より短く、よりインパクトのある情報が、人々の関心を引きやすい。10秒程度の短い動画が特徴のTikTokは、こうした傾向に合わせて進化したSNSだと言える。
政治家が単純な短い言葉で有権者を引きつける「ワンフレーズ・ポリティクス」は、「自民党をぶっ壊す」など、小泉元首相が代表的だ。稲増教授はワンフレーズ・ポリティクスについて、「平成のテレビの時代からあったが、ネット上ではそれが加速している」とした上で、こう指摘する。「参政党が掲げた『反ワクチン』や『脱マスク』は端的で分かりやすく、SNSと親和性が高かった。拡散さえできれば、政権は取れなくても参院選で1議席は取れる、ということが今回証明されたのではないか」
NHK党の立花党首(右)と対談する神谷副代表(ユーチューブの画面より)
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乱立する野党の隙を突く
さらに見逃せないのが、野党共闘の頓挫だ。
出口調査の結果を見ると、今回の比例選で、自民党に投票したと答えた18~29歳と30歳代は、それぞれ32%、34%で、2019年の前回参院選から7~8ポイント減っている。自民党に不満を持ち、別の選択肢を求める若者が少なくないことの表れだろう。だが、野党統一候補が実現したのは全国32の1人区のうち11か所にとどまり、比例選では計15の政党・政治団体が乱立した。「投票したい政党がないから、自分たちでゼロからつくる。」をスローガンに、全選挙区と比例選に候補者を立てた参政党もその一つだった。
「選択肢があまりに多いと、どこに投票すれば良いか分からないという『認知負荷』が高まる。参政党のシンプルな主張にひかれる人が出てくるのも不思議ではない」と稲増教授は話す。
有権者の不満、既成政党はどう向き合うか
参院選の比例選は、衆院選と異なり全国単一ブロックで行われるため、低い得票率でも1議席を獲得でき、小政党に有利な仕組みだ。既存の政党が重視しない目新しい政策を前面に押し出し、それが社会の一定層に響けば、有権者全体の数パーセントだとしても、全国で少しずつ積み上げた票で勝負する比例選では、議席獲得につながりやすい。
過去を振り返ると、比例代表制が初めて導入された1983年の参院選では、給与所得者への税制が不公平だと批判した「サラリーマン新党」が2議席を獲得したが、86年では1議席にとどまり、89年には全員落選した。その89年の選挙では、アントニオ猪木氏らが結成し、スポーツ交流を通じた平和を掲げた「スポーツ平和党」が1議席を獲得したが、95年に全員落選。過去に議席を得たほとんどのミニ政党が、一過性のブームに終わっている。
最近では、NHKの受信料徴収への不満をうまくすくい上げた「NHKから国民を守る党」(現NHK党)が2019年参院選で1議席を獲得し、今年7月の参院選でも1議席を得たが、党勢の広がりは見られないままだ。
参政党が今回掲げた「反ワクチン」「脱マスク」も、過去のミニ政党のように、既存の政党が訴えておらず、かつ、有権者の一定層が共感する「ニッチ(隙間)」な政策の典型だった。そこに野党乱立やネット上のアテンション・エコノミーといった近年特有の要素が加わり、一気に支持が広がったとみられる。
過去のミニ政党のブームがいずれも一時的な現象で終わり、最近でもNHK党に党勢拡大の兆しが見られないことを考えると、「参政党旋風」が今後も続くかどうかについては、懐疑的な見方をせずにはいられない。
確実に言えることは、コロナ禍が長期化する中、自分たちの声が政治に届いていないという有権者の不満が、参政党への176万という得票につながったという事実であり、不満をすくい取れなかった既成政党が、そうした声とどう向き合っていくかが問われているということだ。
プロフィル
岡部 雄二郎( おかべ・ゆうじろう )
青森支局、政治部などを経て世論調査部。世論調査や読者投稿を担当しながら、有権者の関心事を日々探っている。
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さらに見逃せないのが、野党共闘の頓挫だ。
出口調査の結果を見ると、今回の比例選で、自民党に投票したと答えた18~29歳と30歳代は、それぞれ32%、34%で、2019年の前回参院選から7~8ポイント減っている。自民党に不満を持ち、別の選択肢を求める若者が少なくないことの表れだろう。だが、野党統一候補が実現したのは全国32の1人区のうち11か所にとどまり、比例選では計15の政党・政治団体が乱立した。「投票したい政党がないから、自分たちでゼロからつくる。」をスローガンに、全選挙区と比例選に候補者を立てた参政党もその一つだった。
「選択肢があまりに多いと、どこに投票すれば良いか分からないという『認知負荷』が高まる。参政党のシンプルな主張にひかれる人が出てくるのも不思議ではない」と稲増教授は話す。
有権者の不満、既成政党はどう向き合うか
参院選の比例選は、衆院選と異なり全国単一ブロックで行われるため、低い得票率でも1議席を獲得でき、小政党に有利な仕組みだ。既存の政党が重視しない目新しい政策を前面に押し出し、それが社会の一定層に響けば、有権者全体の数パーセントだとしても、全国で少しずつ積み上げた票で勝負する比例選では、議席獲得につながりやすい。
過去を振り返ると、比例代表制が初めて導入された1983年の参院選では、給与所得者への税制が不公平だと批判した「サラリーマン新党」が2議席を獲得したが、86年では1議席にとどまり、89年には全員落選した。その89年の選挙では、アントニオ猪木氏らが結成し、スポーツ交流を通じた平和を掲げた「スポーツ平和党」が1議席を獲得したが、95年に全員落選。過去に議席を得たほとんどのミニ政党が、一過性のブームに終わっている。
最近では、NHKの受信料徴収への不満をうまくすくい上げた「NHKから国民を守る党」(現NHK党)が2019年参院選で1議席を獲得し、今年7月の参院選でも1議席を得たが、党勢の広がりは見られないままだ。
参政党が今回掲げた「反ワクチン」「脱マスク」も、過去のミニ政党のように、既存の政党が訴えておらず、かつ、有権者の一定層が共感する「ニッチ(隙間)」な政策の典型だった。そこに野党乱立やネット上のアテンション・エコノミーといった近年特有の要素が加わり、一気に支持が広がったとみられる。
過去のミニ政党のブームがいずれも一時的な現象で終わり、最近でもNHK党に党勢拡大の兆しが見られないことを考えると、「参政党旋風」が今後も続くかどうかについては、懐疑的な見方をせずにはいられない。
確実に言えることは、コロナ禍が長期化する中、自分たちの声が政治に届いていないという有権者の不満が、参政党への176万という得票につながったという事実であり、不満をすくい取れなかった既成政党が、そうした声とどう向き合っていくかが問われているということだ。
プロフィル
岡部 雄二郎( おかべ・ゆうじろう )
青森支局、政治部などを経て世論調査部。世論調査や読者投稿を担当しながら、有権者の関心事を日々探っている。
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Twitterより:
神谷さんの人格、人柄も大きな要因だと思います。
私はゴレンジャーの演説を聞いて参政党に決めました魂が震え、涙出ました。 こんなの初めてでした。
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