今回よりタイトルを「自己の回想」から「技術のお話し」とさせて頂きます。
「自己の回想」を読んで頂いた方々へ御礼申し上げます。
初めてのブログで、つまらない内容かなと思いつつも、
自身の予想を遥かに超えた多くの方に読んで頂き感謝する次第です。
「技術のお話し」も宜しくお願い致します。
皆さんも車を良く利用されると思いますが、タイヤに付いてどのくらいご存知ですか?
実は私自身もタイヤ試験機の開発を担当するまでは、詳しい事は何も知りませんでした。
精々、エアバルブから規定圧になるまで空気を入れて、走行中に車体やハンドルに振動が出たらバランス修正を依頼する程度でした。
実はタイヤって意外にブラックなんです。
ゴムの色では有りませんよ!
タイヤ仕様や性能の話しです。
ちなみにタイヤが黒いのは、ゴムの補強剤として使用されるカーボンブラックが大きく関係しているのです。
生ゴムに硫黄を混ぜ一定時間高温保持させた加硫ゴム(ゴム分子結合)だけでは強度が足りないため、カーボンブラックを混ぜるのです。
カーボンブラックはゴムの分子を吸着する作用があり、耐摩耗性や対候性向上のため補強材とし使用されています。
配分量はタイヤ仕様にも寄りますが、汎用タイヤ(夏タイヤ)では天然ゴムや合成ゴム原料の50%程度と言われています。
加硫ゴム以外には、合成ゴムとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)などが有り、トレッド面などに使用されています。
低燃費タイヤは転がり抵抗係数(Rolling Resistance Coefficient 以下RRCと表す)を抑えるため、カーボンブラックを少し減らしてシリカ(雲母)を配合します。
シリカはカーボンブラックと比較すると、補強性はやや落ちますが発熱性が少なく、濡れた路面での摩擦抵抗が大きい特徴があります。
*トレッド:路面と接する部分で、表面には溝が刻み込まれており、濡れた路面で水を排除したり、駆動力や制動力が作用した際のスリップを防止したりする。
又、カーカス層を保護し摩耗や外傷を防ぐ外皮部分。
機械設計屋から見ると、タイヤはシンプルな構造にも関わらずRRCを抑え(良く転がると言うこと)、
尚且つグリップ性能を高め、相反する要求を見事に達成している優れ物なのです。
又、衝撃を吸収する様にサイドウォールで最大屈曲させる構造や、高い空気圧に耐えられる様に、
カーカスやベルトで骨格を形成し、リムから外れない様にビードで保持するなど工夫されています。
物理学、化学、材料工学にコンピュータ解析を駆使して良く研究された一品だと思います。
*サイドウォール:タイヤサイズ、メーカー名、パタン名などが表示されているタイヤの横の部分で、カーカス層を保護する。
*カーカス:タイヤの骨格を形成するコード層の部分で、タイヤの受ける荷重、衝撃、充填空気圧に耐える役割を持っている。
コードはタイヤ仕様に依るがポリエステル、ナイロン、レーヨンコードが使用される。
*ベルト:ラジアルタイヤの場合、トレッドとカーカスの間に円周方向に張られた補強帯で、カーカスを強く締付けトレッドの剛性を高めている。
素材には主にスチールコードが使用される。
*ビード:カーカスコードの両端を固定し、同時にタイヤをリムに固定させる役目を負っている部分。
素材には高炭素鋼を束ねた構造となっている。
タイヤメーカーサイトにタイヤの構造が判る様に断面図で紹介されています。参考までに!
前置きが長くなってしまいましたが、今回はタイヤ品質の一つであるユニフォーミティ(Uniformity)に付いてお話しします。
一般のカーユーザーの方は、バランス(Balance)と言う言葉は良く耳にするが、
ユニフォーミティは聞いた事が無いと言う方が多いと思います。
タイヤに於けるユニフォーミティとは、質量、寸度(振れ)、剛性の均一性となり、
製造工程での不具合などによるタイヤの縦振れ、横振れ、タイヤ各部の剛性の違いによって発生する力の変動を言います。
力の変動には次の3種類が有ります。
1.ラジアルフォースバリエーション(Radial Force Variation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ半径(上下)方向の力の変動の大きさを言う。
2.トラクティブフォースバリエーション(Tractive Force Variation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ接線(前後)方向の力の変動の大きさを言う。
3.ラテラルフォースバリエーション(Lateral Force Variation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ横(車軸)方向の力の変動の大きさを言う。
横方向の力の平均値(直流成分)として、
1.ラテラルフォースデビエーション(Lateral Force Deviation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ横方向の力の平均値(以下、LFDと表す)
2.コニシティ(Conicity)
:LFDのうち、タイヤの回転方向に関係なく常に一定方向に発生する横方向の力を言う。
3.プライステア(Ply steer)
:LFDのうち、タイヤの回転方向により、発生する方向の変わる横方向の力を言う。
以上の様にタイヤは回転する事で様々な方向に力が作用するのです。
次にユニフォーミティの発生原因の一つにタイヤの寸法変化による振れ(無負荷状態)が有ります。
振れには次の2種類が有ります。
1.ラジアルランアウト(Radial Runout)
:半径方向の振れで絶対値で表す。
2.ラテラルランアウト(Lateral Runout)
:横方向の振れで絶対値で表す。
ラジアルランアウト(RRO)の発生原因としては、カーカスやトレッド面の厚さの変化やタイヤリムの偏心と言われています。
特に、トレッドゴムの張り合わせでオーバーラップする部分が長くなると、局部的にトレッドが厚くなり質量や剛性がUPし、
ラジアルランアウト、ラジアルフォースバリエーション(RFV)や静的アンバランス(Static Unbalance)が悪くなります。
ラテラルランアウト(LRO)の発生原因としては、タイヤ自身やリム自身の横振れに寄るものが有り、
ラジアルタイヤの場合は、トレッドの位置がタイヤ中心から左右にずれると横振れが大きくなり、振動の原因にると言われています。
又、ベルトがタイヤ中心に対して片側に寄ると、ベルト全体が円錐形となり直進時に横力の直流成分ラテラルフォースデビエーション(LFD)が発生し、
ラテラルフォースバリエーション(LFV)を大きくする原因の一つだと言われています。
特に横振れの大きいタイヤは、回転時「すりこぎ」運動を起こさせる様な状態となり、動的アンバランス(dynamic unbalance )が発生します。
動的アンバランスの悪いタイヤを前輪側に取り付けるとハンドルの振れに繋がります。
次にユニフォーミティの測定はどの様にして行うのでしょう。
大手の自動車メーカーへ納入しているタイヤメーカーと、タイヤ組付メーカーとでは測定条件が異なります。
タイヤメーカーは、ユニフォーミティ測定機に搭載され精度良く加工されたリム装置をタイヤの両側から挿入させて、
規定の空気圧にした状態で測定します。
一方タイヤ組付メーカーは、自動車メーカーが指定するホイールにタイヤを組付けた出荷状態で測定します。
タイヤメーカーがタイヤ単体での測定に対して、タイヤ組付メーカーはホイールを組付けた状態で測定します。
製造及び検査工程により変わりますが、基本的にはバランス修正を行ってからユニフォーミティの測定を行います。
これはアンバランス(質量的)要因を低減させてタイヤ剛性を主体に測定できる様にするためです。
寸度(振れ)に付いては、ホイールにタイヤを組付ける際にタイヤの赤色マークとホイールの白色マークの位置を合わせて組付けます。
タイヤの赤色マークは縦振れの1次成分の最大位置を示し、
ホイールの白色マークは、OUT側リムフランジとIN側リムフランジの平均縦振れの1次成分が最も小さくなる位置を示しています。
互いに組み合わせる事でより真円に近づけ寸度(振れ)の要因を低減させます。これは位相合わせと言いタイヤ組付メーカーが行う方法です。
一般のカーショップでは、ユニフォーミティ測定機や振れ測定機を持たない事が多いので、タイヤの黄色マークとエアバルブの位置を合わせて組付けます。
黄色マークはタイヤが最も軽い位置を示し、エアバルブの位置と合わせる事で少しでもアンバランスの要因を低減させる組付け方法です。
この方法を軽点合わせと言います。
お車をお持ちの方は、一度タイヤの組付け状態を見て頂くと宜しいかと思います。
但し、アルミホイールの場合はマーキングが有りません、マーキングが有るのはスチールホイールの場合です。
話しが横に逸れてしまいましたが、
タイヤメーカーもタイヤ組付メーカーも製造工程に於ける品質検査では、低速ユニフォーミティ測定が主流です。
ユニフォーミティ測定には、低速ユニフォーミティと高速ユニフォーミティが有るのですが、
自動車メーカーに出荷する場合、タイヤ1本当たり12~15秒で製作しなければならない為、高速ユニフォーミティ測定は時間的に難しいのです。
高速ユニフォーミティ測定を行う場合は、低速から高速回転へ徐々に慣らしを行って、
タイヤの変形とタイヤ表面の温度を安定させてから測定する事が必要なのです。
今回のお話しはここまでです。
次回はタイヤ編(2)でお話しします。
「自己の回想」を読んで頂いた方々へ御礼申し上げます。
初めてのブログで、つまらない内容かなと思いつつも、
自身の予想を遥かに超えた多くの方に読んで頂き感謝する次第です。
「技術のお話し」も宜しくお願い致します。
皆さんも車を良く利用されると思いますが、タイヤに付いてどのくらいご存知ですか?
実は私自身もタイヤ試験機の開発を担当するまでは、詳しい事は何も知りませんでした。
精々、エアバルブから規定圧になるまで空気を入れて、走行中に車体やハンドルに振動が出たらバランス修正を依頼する程度でした。
実はタイヤって意外にブラックなんです。
ゴムの色では有りませんよ!
タイヤ仕様や性能の話しです。
ちなみにタイヤが黒いのは、ゴムの補強剤として使用されるカーボンブラックが大きく関係しているのです。
生ゴムに硫黄を混ぜ一定時間高温保持させた加硫ゴム(ゴム分子結合)だけでは強度が足りないため、カーボンブラックを混ぜるのです。
カーボンブラックはゴムの分子を吸着する作用があり、耐摩耗性や対候性向上のため補強材とし使用されています。
配分量はタイヤ仕様にも寄りますが、汎用タイヤ(夏タイヤ)では天然ゴムや合成ゴム原料の50%程度と言われています。
加硫ゴム以外には、合成ゴムとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)などが有り、トレッド面などに使用されています。
低燃費タイヤは転がり抵抗係数(Rolling Resistance Coefficient 以下RRCと表す)を抑えるため、カーボンブラックを少し減らしてシリカ(雲母)を配合します。
シリカはカーボンブラックと比較すると、補強性はやや落ちますが発熱性が少なく、濡れた路面での摩擦抵抗が大きい特徴があります。
*トレッド:路面と接する部分で、表面には溝が刻み込まれており、濡れた路面で水を排除したり、駆動力や制動力が作用した際のスリップを防止したりする。
又、カーカス層を保護し摩耗や外傷を防ぐ外皮部分。
機械設計屋から見ると、タイヤはシンプルな構造にも関わらずRRCを抑え(良く転がると言うこと)、
尚且つグリップ性能を高め、相反する要求を見事に達成している優れ物なのです。
又、衝撃を吸収する様にサイドウォールで最大屈曲させる構造や、高い空気圧に耐えられる様に、
カーカスやベルトで骨格を形成し、リムから外れない様にビードで保持するなど工夫されています。
物理学、化学、材料工学にコンピュータ解析を駆使して良く研究された一品だと思います。
*サイドウォール:タイヤサイズ、メーカー名、パタン名などが表示されているタイヤの横の部分で、カーカス層を保護する。
*カーカス:タイヤの骨格を形成するコード層の部分で、タイヤの受ける荷重、衝撃、充填空気圧に耐える役割を持っている。
コードはタイヤ仕様に依るがポリエステル、ナイロン、レーヨンコードが使用される。
*ベルト:ラジアルタイヤの場合、トレッドとカーカスの間に円周方向に張られた補強帯で、カーカスを強く締付けトレッドの剛性を高めている。
素材には主にスチールコードが使用される。
*ビード:カーカスコードの両端を固定し、同時にタイヤをリムに固定させる役目を負っている部分。
素材には高炭素鋼を束ねた構造となっている。
タイヤメーカーサイトにタイヤの構造が判る様に断面図で紹介されています。参考までに!
前置きが長くなってしまいましたが、今回はタイヤ品質の一つであるユニフォーミティ(Uniformity)に付いてお話しします。
一般のカーユーザーの方は、バランス(Balance)と言う言葉は良く耳にするが、
ユニフォーミティは聞いた事が無いと言う方が多いと思います。
タイヤに於けるユニフォーミティとは、質量、寸度(振れ)、剛性の均一性となり、
製造工程での不具合などによるタイヤの縦振れ、横振れ、タイヤ各部の剛性の違いによって発生する力の変動を言います。
力の変動には次の3種類が有ります。
1.ラジアルフォースバリエーション(Radial Force Variation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ半径(上下)方向の力の変動の大きさを言う。
2.トラクティブフォースバリエーション(Tractive Force Variation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ接線(前後)方向の力の変動の大きさを言う。
3.ラテラルフォースバリエーション(Lateral Force Variation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ横(車軸)方向の力の変動の大きさを言う。
横方向の力の平均値(直流成分)として、
1.ラテラルフォースデビエーション(Lateral Force Deviation)
:荷重を受けているタイヤが、一定の半径で1回転する間に発生するタイヤ横方向の力の平均値(以下、LFDと表す)
2.コニシティ(Conicity)
:LFDのうち、タイヤの回転方向に関係なく常に一定方向に発生する横方向の力を言う。
3.プライステア(Ply steer)
:LFDのうち、タイヤの回転方向により、発生する方向の変わる横方向の力を言う。
以上の様にタイヤは回転する事で様々な方向に力が作用するのです。
次にユニフォーミティの発生原因の一つにタイヤの寸法変化による振れ(無負荷状態)が有ります。
振れには次の2種類が有ります。
1.ラジアルランアウト(Radial Runout)
:半径方向の振れで絶対値で表す。
2.ラテラルランアウト(Lateral Runout)
:横方向の振れで絶対値で表す。
ラジアルランアウト(RRO)の発生原因としては、カーカスやトレッド面の厚さの変化やタイヤリムの偏心と言われています。
特に、トレッドゴムの張り合わせでオーバーラップする部分が長くなると、局部的にトレッドが厚くなり質量や剛性がUPし、
ラジアルランアウト、ラジアルフォースバリエーション(RFV)や静的アンバランス(Static Unbalance)が悪くなります。
ラテラルランアウト(LRO)の発生原因としては、タイヤ自身やリム自身の横振れに寄るものが有り、
ラジアルタイヤの場合は、トレッドの位置がタイヤ中心から左右にずれると横振れが大きくなり、振動の原因にると言われています。
又、ベルトがタイヤ中心に対して片側に寄ると、ベルト全体が円錐形となり直進時に横力の直流成分ラテラルフォースデビエーション(LFD)が発生し、
ラテラルフォースバリエーション(LFV)を大きくする原因の一つだと言われています。
特に横振れの大きいタイヤは、回転時「すりこぎ」運動を起こさせる様な状態となり、動的アンバランス(dynamic unbalance )が発生します。
動的アンバランスの悪いタイヤを前輪側に取り付けるとハンドルの振れに繋がります。
次にユニフォーミティの測定はどの様にして行うのでしょう。
大手の自動車メーカーへ納入しているタイヤメーカーと、タイヤ組付メーカーとでは測定条件が異なります。
タイヤメーカーは、ユニフォーミティ測定機に搭載され精度良く加工されたリム装置をタイヤの両側から挿入させて、
規定の空気圧にした状態で測定します。
一方タイヤ組付メーカーは、自動車メーカーが指定するホイールにタイヤを組付けた出荷状態で測定します。
タイヤメーカーがタイヤ単体での測定に対して、タイヤ組付メーカーはホイールを組付けた状態で測定します。
製造及び検査工程により変わりますが、基本的にはバランス修正を行ってからユニフォーミティの測定を行います。
これはアンバランス(質量的)要因を低減させてタイヤ剛性を主体に測定できる様にするためです。
寸度(振れ)に付いては、ホイールにタイヤを組付ける際にタイヤの赤色マークとホイールの白色マークの位置を合わせて組付けます。
タイヤの赤色マークは縦振れの1次成分の最大位置を示し、
ホイールの白色マークは、OUT側リムフランジとIN側リムフランジの平均縦振れの1次成分が最も小さくなる位置を示しています。
互いに組み合わせる事でより真円に近づけ寸度(振れ)の要因を低減させます。これは位相合わせと言いタイヤ組付メーカーが行う方法です。
一般のカーショップでは、ユニフォーミティ測定機や振れ測定機を持たない事が多いので、タイヤの黄色マークとエアバルブの位置を合わせて組付けます。
黄色マークはタイヤが最も軽い位置を示し、エアバルブの位置と合わせる事で少しでもアンバランスの要因を低減させる組付け方法です。
この方法を軽点合わせと言います。
お車をお持ちの方は、一度タイヤの組付け状態を見て頂くと宜しいかと思います。
但し、アルミホイールの場合はマーキングが有りません、マーキングが有るのはスチールホイールの場合です。
話しが横に逸れてしまいましたが、
タイヤメーカーもタイヤ組付メーカーも製造工程に於ける品質検査では、低速ユニフォーミティ測定が主流です。
ユニフォーミティ測定には、低速ユニフォーミティと高速ユニフォーミティが有るのですが、
自動車メーカーに出荷する場合、タイヤ1本当たり12~15秒で製作しなければならない為、高速ユニフォーミティ測定は時間的に難しいのです。
高速ユニフォーミティ測定を行う場合は、低速から高速回転へ徐々に慣らしを行って、
タイヤの変形とタイヤ表面の温度を安定させてから測定する事が必要なのです。
今回のお話しはここまでです。
次回はタイヤ編(2)でお話しします。
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