いむれ内科クリニック

愛知県豊橋市のクリニック
内科・感染症内科・呼吸器内科・アレルギー科

いむれ内科クリニックの「だいたいウンコ」度は如何に

2017-12-23 23:17:38 | 診療

「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。

前の記事を書いていて自分の抗菌薬の処方傾向が気になったので、電子カルテである期間の経口抗菌薬の処方量を調べてみました。抗菌薬は薬によって1日の服薬量が異なるし、飲むべき期間も異なります。患者さんの人数も考慮しなければなりません。こんな表はあまり意味が無いのですが、大雑把な傾向は分かるかも知れません。

  • ペニシリン系
    • サワシリンカプセル250 5943カプセル
    • ワイドシリン細粒20% 313g
    • オーグメンチン配合錠250RS 702錠
    • クラバモックス小児用配合ドライシロップ 244包
  • マクロライド系
    • クラリス錠200 4992錠
    • クラリス錠50小児用 60錠
    • クラリスドライシロップ10%小児用 140.65g
    • ジスロマック錠250mg 98錠
    • ジスロマック細粒小児用10% 6.9g
    • ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g 3バイアル
  • セファロスポリン系(第1世代)
    • L-ケフレックス顆粒 318包
  • セファロスポリン系(第3世代)
    • メイアクトMS錠100mg 18錠
  • フルオロキノロン系
    • クラビット錠500mg 39錠
    • クラビット錠250mg 10錠
    • クラビット細粒10% 7包
  • その他
    • バクタ配合錠 928錠
    • ミノマイシンカプセル100mg 84カプセル

ペニシリン系抗菌薬が圧倒的に多く、マクロライド系薬もかなり多いです。一方「だいたいウンコ」であるところのメイアクトMS錠は18錠しか処方していません(1日6錠ですから3日分です)。フルオロキノロン系のクラビットも極めて少ないです。その他の薬でバクタ配合錠が多いのは、膀胱炎に対して処方しているからです。ご同業の方が見ていたら、こっそりコメントをメールしてくださるとうれしいです。


だいたいウンコ

2017-12-23 21:16:57 | 診療

「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。前の記事の続きです。

病原体が変化して抗菌薬が効かなくなることをAntimicrobial Resistance; AMRと言います。わが国では2016年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が閣議決定されたと書きましたが、これを読むと恐るべきことがさらっと書いてあります。

  • 2020年の人口千人あたりの一日抗菌薬使用量を2013年の水準の3分の2に減少させる。
  • 2020年の経口セファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬の人口千人あたりの一日使用量を2013年の水準から50%削減する。
  • 2020年の人口千人あたりの一日静注抗菌薬使用量を2013年の水準から20%削減する。

要するに現在使用されている全抗菌薬の3分の1は不適切な使用で、経口抗菌薬(飲み薬)に至っては半分が不適切な処方と言っているわけです。まさに製薬メーカーにとって恐るべきことです(笑)。

ちなみに問題とされている経口セファロスポリン系抗菌薬(第3世代)には次のような薬があります。

  • セフジニル(商品名: セフゾンなど)
  • セフカペン(商品名: フロモックスなど)
  • セフジトレン(商品名: メイアクトなど)
  • セフポドキシム(商品名: バナンなど)
  • セフテラム(商品名: トミロンなど)

病院で風邪薬と一緒に処方されて見たことがある方が多いのではないでしょうか? これらの薬は海外ではあまり販売されていません。服用しても吸収が悪いものが多く、そのまま便の中に出る割合が多いのです。そう、「だいたいウンコになる」薬たちなのです。これを感染症業界ではDUと言います。私が言い始めたのではなくて、超専門家のとても偉い先生が言っています。

誤解の無いように言いますが、これらの薬は全く役に立たないわけでは決してありません。ある細菌感染症に対して最適な抗菌薬がアレルギーなどの理由で使えないときに、ピンチヒッターとして使うこともあります。当院でもセフジトレンは採用しています。

感冒は抗菌薬を服用しなくても自然に治る病気です。「感冒になったときに、医者から抗菌薬をもらったので良くなった」という過去の成功体験は捨てましょう。良くなったのは抗菌薬が効いたためではありません。それは良くなる時期が来たためです。抗菌薬は飲んでも飲まなくても自然に治ったのです。

この記事を読んだからといって、必要な薬を自己判断で中止するのはいけません!  用法用量どおり飲みきってくださるようお願いいたします。でも風邪薬と一緒に抗菌薬が処方されたら、「風邪に抗菌薬って効くんですか?」と担当の先生に尋ねるくらいはいいと思いますよ。


AMR対策いきまぁーす!

2017-12-23 12:20:21 | 診療

「いむれ内科クリニック」の院長の山本景三です。

風邪などのウイルス感染症に抗菌薬(抗生物質)は効かないということをご存じですか? 一般の方を対象にした最近の調査では、「ウイルスに抗菌薬が効く」と思っている方は半数近くに上り、約2割の方は「風邪で受診したら必ず抗菌薬を処方してほしい」と思っているとのことです。

抗菌薬は細菌が原因となる病気の治療に使われる薬で、医師は風邪などのウイルス感染症には抗菌薬が効かないことは当然知っています。しかし患者さん(やその保護者)から抗菌薬の処方を求められると「念のため」と言って処方してしまうことが少なくないと言われています。「あの先生は出してくれたのに」「薬を出してくれないなら別の病院に行く」などと言われるとくじけてしまいそうになります。

1940年代に発見されたペニシリンに始まる抗菌薬は多くの命を救うことができました。一方で、最近はその不適切な使用を背景に抗菌薬が効きにくい病原体(薬剤耐性菌)が増加しています。さらに新規の抗菌薬の開発は遅れています。病原体が変化して抗菌薬が効かなくなることをAntimicrobial Resistance; AMRと言います。わが国は2016年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」を閣議決定し、さらに2017年6月に「抗微生物薬適正使用の手引き第一版」が厚生労働省により作成されました。詳しくは厚生労働省:薬剤耐性(AMR)についてをご覧下さい。

「手引き」によれば、急性気道感染症(感冒・急性鼻副鼻腔炎・急性咽頭炎・急性気管支炎)の原因微生物の約9割はいろいろなウイルスです。細菌などが関与するのは、溶連菌感染症やマイコプラズマ感染症に限られ、抗菌薬が必要なのはこのような場合のみです。また急性下痢症に対しても、まずは水分摂取を励行した上で、基本的には対症療法のみ行うことが推奨されています。

とは言え

  • 「ウイルス感染症です。特に有効な治療はありません」
  • 「抗菌薬は必要ありません」

という否定的な説明のみでは患者さんは不満を抱きやすいでしょう。一方で

  • 「症状をやわらげる薬を出しておきますね」
  • 「暖かい飲み物を飲むと鼻づまりがラクになりますよ」

といった肯定的な説明は受け入れられやすいと言われています。

感染症はその患者さん一人だけで完結する病気ではありません。他の人や未来の人間にも関係してきます。私は感染症専門医として従来からこれらのことに注意を払いながら診療してきました。国がAMR対策に本腰を入れ始めた今は、みなさんにもAMRについて考えていただくよい機会になると思います。

ところで啓発ポスターでおわかりのように、厚生労働省のAMR対策は機動戦士ガンダム(Amuro; アムロ)とのコラボレーションです。最近の厚生労働省は「麻しんがゼロ」(劇場版マジンガーZ)とか、ある意味頑張っています。