ただの偶然なのですか

私のお気に入りと日々の感想  

映画「ヒトラーの贋札」の感想

2008年01月31日 | 映画
この映画の上映前に流れた別の映画の予告編で「コインに命を賭けたことあるか?」って言っていましたが、こちらはまさに命がけのお札の話です。
第二次世界大戦中のドイツ。強制収容所内でユダヤ系の技術者達が偽札作りをさせられていたという実話に基づいた映画です。
残酷で悲惨な現実を描いているわりには、音楽もお洒落で、サラッと観てしまいました。
感情表現を抑えた主人公のクールな表情。何を訴えたいのか、内面の掘り下げが浅いような気もしました。
しかし、彼が死と隣り合わせの非人道的な扱いを受けていた事実を見て、その心情を想像することができないのなら、それはナチスの将校と同じく“人でなし”でしょう…。
彼は偽札を作らされているとき何を思っていたのでしょう?
自分が生き残るため?仲間を助けるため?プライドのため?職人根性から?
まあ、こんな理不尽な状況の中では、主義やポリシーがあったら生きていけないですね…。
生きるということは、置かれた状況の中でベストを尽くすということ。
自分が持っている技を最大限に発揮して、サバイバルを生き延びるだけ。
手に職があるって強いんだなぁと、あらためて思いました。
それにしても、お金を自分で作れるなんて、いいなぁ…。
こんな感想は不謹慎でしょうけど…。

映画「ある愛の風景」の感想

2008年01月29日 | 映画
「その幸せに、自信はありますか。」

ないですよ~、自信なんて。
人生、何が起こるかわかりませんし…。

日常の幸せがある日突然崩れ、信じていた愛も揺さぶられる…。
私は男女間の愛はあまり信じていませんが、結婚して家族になったら、それは夫婦愛・家族愛に変わるんじゃないかと思っていました。
でも、この映画のように、家族愛・親子愛まで危うくなるほど精神的に困難な状況に直面したときに、それでも家族を愛して支えることができるのか自信はないです。

「愛している。何があろうと。」

変わらない「愛」があるとしたら、それは使命感みたいなものかしら・・・。
これが私の生きる道だと自分に言い聞かせながら、家族の重荷を一緒に背負う覚悟。それが「愛」という名の信念のような気もします。

監督は、スサンネ・ビア監督。デンマークの映画です。
先月も『アフター・ウェディング』を観ましたが、この監督の作品は静かにじっくりと人の心の奥を描き出します。
瞳のクローズアップを多用したり、繊細な映像や静かな演出は、空気というか息づかいまで伝わってくるようで、観ている私も同じ場所に居るようなリアルさが感じられます。
『アフター・ウェディング』のようなあり得ない話でも、すんなり感情移入できましたし、これからも注目していきたい監督です。

そして、この『ある愛の風景』はハリウッドでリメイクが進行中のようですが、この静かさと深い味わいは、ハリウッド的な演出ではどんな風に変わってしまうのでしょう…。













小説「償い」矢口敦子著の感想

2008年01月17日 | 読書
高齢者、障害者、ホームレスなどの社会的弱者ばかりを狙った連続殺人事件。
そして、犯人は15歳の少年かもしれない…。
『償い』という重い題名。
このミステリーの中に「救い」なんてあるのか?と思いながらも、数週間前の新聞広告に引き寄せられて読み始めました。

妻子を亡くし、自分自身もなくして「男」という普通名詞になりホームレスになった男。
お金も食べる物も寝る所もなく、袋叩きに遭い、2度も留置場に入れられて、地べたを這いずりまわりながら真相を求めていく。
その姿は、探偵といえるようなカッコイイものではありません。
しかし、彼は私が知っているどの探偵よりもカッコイイです。
自分自身をなくそうとしたはずなのに、いや、すべてを亡くしたからこそ、彼は心を見つめ直すことができたのでしょう。
心は心でしか救えない。
悲しみは悲しみでしか救えないのでしょう。

「人の肉体を殺したら罰せられるのに、
 人の心を殺しても罰せられないのか?」

この命題が何度も心に突き刺されます。
的確な言葉と短い文章の切れ味は、まさにナイフのように鋭くて冷たいのですが、何故か読んでいて心地いいです。

読後に残るこの余韻をどう表現したらいいのかわかりませんが、読んでよかったと思いました。


小説「カラフル」森絵都著の感想

2008年01月04日 | 読書
あやまちを犯して死んだ「ぼく」の魂は、「抽選に当たりました!」と天使に言われて、再挑戦のチャンスを与えられる。
危篤状態の他人の体を借りて、他人の人生とその家庭に「ホームステイ」しながら、下界でもういちど修行を積むことになる。
生前の記憶をとりもどし犯したあやまちを自覚した時点でホームステイは終了。

と、まあ、奇想天外なプロローグなのですが…。
私の娘が買った本なのですが、読んでみたらとても面白かったです。
児童文化賞を受賞しているので児童向けかと思ったら、大人が読んでも共感できる作品でした。

突然、見知らぬ少年にさせられてしまった主人公。
そしてその少年は自殺をはかっていた…。
少年の自殺の原因は何なのか。
主人公が犯したあやまちとは何なのか。
謎解きみたいなドキドキ感に読み出したらとまらなくなり、文章力の上手さもあって、ぐいぐい引き込まれました。
そして、その少年と家族の真の姿が見えてくるにつれて、いろいろなことが解ってくるのです…。

他人の人生だと客観的に見ることができても、自分のこととなると見えなくなってしまうんですよね…。
視点を変えて見れば解るかもしれないことも、凡人には難しいです。
それはまさに神の視点かしら…。
奇想天外な物語かと思ったら、物語にすることによって本質的なことが見えてくることもあるのですね。
自分の人生も物語だと思えれば、平坦なストーリーよりも、いろんなことが起こったほうが面白い…。
そして、そんな物語を読みたがっているのは神様なのかもと思ってしまいます。