【将棋】山田定跡をひたすら称賛するブログ

居飛車急戦党の将棋史研究。
古の棋書から、将棋の思想・捉え方の変遷を追います。
時々、ネット対局します。

将棋の定跡が満たすべき要件について(その1)

2025-01-13 17:37:10 | 将棋

以前から申し上げているように、将棋道場の先生と意見が異なることが明らかになったので、指導対局を続けるのを断念しました。

その理由としては、前々回の投稿では、物事の上達において「守破離」が大事と考えるからと書きました。

しかし、「守破離」という紋切型の言葉で簡単に片づけるのは良くないので(※1)、これから当ブログで何回かに分けて、私なりの「守破離」の解釈を申し上げるつもりです。

 

上記を論じるに当たっては、本来なら論説文の形式をとるべきでしょう。第一章で背景と目的を述べて主張の全体像を粗描し、第二章以降で各論を詳述するというやり方で。しかし、それだとブログとしては面白くないので、逆の順序を取ります。身近なテーマ(各論)を取り上げてコメントを加え、そのような投稿を重ねて内容を蓄え、最後に総論を述べるつもりです。

 

さて、今回は「将棋の定跡」がテーマです。これでも色々な観点があるので、その内の「将棋の上達における定跡の役割とその要件」という点に限定して論じます。

まずは出発点として「定跡」を定義すべきですが、これが非常に難しい。以前(2024年8月15日)に述べたように、「プロ棋士といえども「定跡」という言葉が意味するところは、各人によって異なることが推測され」るためです。そこで、乱暴なやり方(論点先取)ではありますが、ここでは山田先生の定義を採用します。

山田先生は「定跡は広い意味で「本筋」の集成である」とされており、本筋とは「一言にしていえば、局面の急所をつく筋のこと」と述べています。そして、急所については比喩を用いて、「老練な按摩が長い経験によって、(人間の)体のツボを知っているように、私たちも経験によって、将棋の急所を知るのである。」としています。[山田道美 1961=1980 : 3-4、()は筆者が補足]

言葉の定義を遡る途中で比喩にぶつかってしまい、曖昧な部分をもう減らせなくなったのですが、やむを得ないでしょう。本来、将棋は難解でその全容を表すのは不可能であるにもかかわらず、そこから少しでも本当のもの(本筋)を分かりやすく言葉で伝えようと試みるのですから。

将棋の指方のパターンは事実上無限大であって、かつ、その良し悪しを決める絶対的な基準はありませんから、どのように指そうとも当人の自由です。にもかかわらず、対局結果として勝ち負けが生じるのは不思議なことです。

そういえば、唐突で恐縮ですが、文章の書き方についても似たようなことが言えそうです。当人が伝えたい事をどのように書くかはその人の自由です。にもかかわらず、結果として名文/悪文という社会的認知が生じます。

そこで、アナロジー(類推)によって大胆な仮説を立ててみます。つまり、将棋の上達においては、文章の上達法から援用できるものがあるはずだ、ということです。

 

したがって、ここからは将棋と文章の難解さ各々の類似点/相違点に言及した上で、文章の上達法でその根拠とされるものが将棋にも成立することを論じるのですが、既に長々と書いてしまったので、続きは次回にします。

 

(※1)これは、鶴見俊輔氏の「文章心得帖」[2]から得た教訓です。「紋切型の言葉に乗ってスイスイ物を言わないこと。つまり、他人の声をもってしゃべるんじゃなくて、自分の肉声で普通にしゃべるように文章を書くことです。」[鶴見俊介 1980, 1985=2013 : 18] 

 

【参考文献など】

[1] 山田道美将棋著作集、第一巻、大修館書店、pp. 3-4、1980年

[2] 鶴見俊輔、「文章心得帖」、ちくま学芸文庫、pp. 18、2013年


ゲスト棋士による指導対局を受けました

2025-01-12 07:58:52 | 将棋

以前の投稿で将棋道場に通うのを断念したと書きましたが、ゲスト棋士を招いたイベントに参加予約していたのを、当時すっかり忘れていました。

それで、昨日将棋道場へ行って(これが最後)、中倉宏美先生と磯谷祐維先生それぞれから、四枚落ちを教えて頂きました。

過去に何人かのゲスト棋士から指導対局を賜りましたが、今回も同様の進行となりました。つまり・・・

①棒銀定跡の下手の手筋である▲2三銀成を、敢えて通す

②と金捨て⇒上手陣へ飛車成り。

③上手の中段玉を寄せ切る。

将棋道場の先生から結果を尋ねられたので、2局とも勝たせて頂きましたとお答えしました。すると・・・

「田村さんは十分強くなっているから、普通の四枚落ちなら勝てますよね。」

「我々プロ棋士は勝負に勝つことが重要だから、あの手この手を考えるのですよ。」

 

将棋の棋理(基本)よりも勝ち負けの方を大切にする哲学。確かに将棋は一種のエンターテインメントですし、考え方の一つとして認めます。

そうだとすれば、これまでの毎週の指導対局は勝負術がメインテーマであり、それを獲得するための途中過程として位置付けられます。しかし、その文脈下で先生の四枚落ちがどのような学習効果を持つのか、やはり説明がありませんでした。

もし他のプロ棋士も同様の指し方をするなら私自身で発見すべきでしょうが、あの四枚落ちは先生独自の指し方である以上、やはり先生ご自身による説明が必要でしょう。

 

上記を心の中で思いつつ、「僕は山田先生をリスペクトしています。将棋を指す目的が互いに異なるのでしょうね。」と申し上げました。

結局のところ、肝心な部分は議論で触れられず、水掛け論に終始しました。


将棋道場へ通うのを断念します

2025-01-04 13:32:00 | 将棋

唐突で恐縮ですが、これまでは毎週末に将棋道場へ通っていたのを、今後は断念します。

理由の一つは先生の指導対局についていけなくなったためですが、最たる理由は私が将棋を指す目的(故山田先生の思想に少しでも近づく)を実現させる見込みがないと考えたためです。

いきなりの申し出だったので、先生は納得いかないかのようなご様子でした。しかし、指導対局の順番待ちの間、小学生(二段)との対局後の感想戦にて「将棋は定跡通りに指すものと考えている」と私が言ったところ、それを先生は横で聞いていて納得されたようです。

彼女との対局では山田定跡(斜め棒銀)の仕掛けが生じ、彼女は△3五同歩と取らなかったので、幸いにも定跡の大切さを私なりに示す機会を得ました。感想戦では「自分のわがままに付き合ってほしい」と前置きした上で、山田定跡の本手順と2~3の失敗手順(居飛車・振飛車各々に対して)を一緒になぞりました。

 

さて、ここからは指導対局を続けるのを断念した理由を3点述べます。しかしながら、いずれも定跡がテーマとなっています。

第一に、先生は「定跡を覚えても実戦では定跡どおりにいかない」と仰られます。しかし前記だけでは、実戦で上手くいかない理由としては不十分です。というのも、「定跡はちゃんと覚えているが、定跡と実戦を関連付けるスキルが不足している」という考え方もあるためです。前者と後者では意味が異なります。

第二に、先生の考えは棋士といえどもあくまで一個人のものであって、将棋界の一般通念ではありません(少なくとも山田先生の時代では)。山田先生はもちろん定跡を覚える大切さを説いていますし、師匠の金子先生の「定跡とは歴史です」という言葉も知られています。

第三に、これが最も大きな理由ですが、先生と私は意見を異にするにもかかわらず、先生は私に理由を尋ねられませんでした。会話は一方向であり、先生の理屈や世界観が絶対であるかのようでした。アマチュアはプロ棋士よりも社会的に劣っており、意見を述べることが許されないのでしょうか。一か月前に、とある指導棋士へセカンドオピニオンを受けている旨を申し伝えましたが、その後は指導対局を受ける度に、その方の名前に言及されるのも気がかりでした。

 

私が定跡を重視する理由は「守破離」という一言に尽きます。それは将棋だけでなく、勉強や仕事においても重要だと考えています。

 

それでも、私の将棋が強くなったのは(1級⇒二段)、先生のご指導のおかげであります。指導対局では、将棋というゲームの自由さ・多様さを眼前で味わうことができ、誠に感謝申し上げます。先生のご推薦により、日本将棋連盟から二段の免状を賜りました。これからは別々の道を歩むことになりますが、先生のご健康とご活躍をお祈りいたします。


香落ち対策(vs4三銀型四間飛車)

2024-12-12 21:41:39 | 将棋

私は二段なので、四段の方を相手にするときは香落ちの下手を持ちます。自分が負けることの方が多いにもかかわらず、お相手の方々からは苦労すると言われます。

というのも、下手で香落ちを咎めようとする人は珍しいらしく、お相手が普段指している感覚からすれば面食らうみたいです。

確かに、わざわざ香落ちの定跡を調べる人は珍しいでしょうし、定跡を知らなければ咎めるのは難しいでしょう。ちなみに、香落ち定跡は奨励会員の練習向けであって、上手の形の僅かな違いで攻め筋が変わるので、実戦的には下手が勝ちにくいようです。

しかしながら、将棋の知らなかった面に触れることもできるので、今、将棋道場では香落ちが密かなブームとなっています。

 

今回は、四段のつよつよ常連さんとの対局を振り返ります。香落ちでは上手は飛車を振るのが常道でして、お相手は四間飛車に構えられました。

所司先生によれば、四間飛車に対して下手は矢倉引き角と棒銀が有力らしいです[1]。5七銀左急戦党としてはどちらもやりたくないのですが、棒銀の方がマシですかね。

以下、▲3七銀、△5四銀の交換が入って…。

次は▲2六銀が本筋らしいのですが、仕掛けが生じるとつい敢行してしまいます。▲1五歩、△同歩、▲2四歩、△同歩、▲1五香、△1三歩。

本譜は右銀を捌きたくて次に▲4六銀としましたが、一歩持っているので替えて▲3五歩が明らかに勝りますね。何やってんの。

 

局面を戻して、有識者によれば、上手が△4三銀と上がった瞬間に軽い仕掛けがあるみたいです。

以下、▲1五歩、△同歩、▲2四歩、△同歩(同角も難解)、▲1五香、△1三歩、▲同香成、△同桂、▲1八飛、△1二飛。

▲1四歩、△2五桂、▲1六飛、△1一香、▲1三歩成、△同飛、▲同飛、△同香、▲2三飛で下手良しとのことです。

なので、上手は3二銀型で待つのが本筋らしいのですが、もし今度の対局でお相手が△4三銀と上がられたら、上述の仕掛けをやってみたいと思います。

 

【参考文献など】

[1] 所司和晴、「【新装版】駒落ち定跡」、日本将棋連盟、pp.  433, 440、2023年

 


5七銀左急戦で、四間飛車側が変化した時(その1)

2024-12-01 09:02:22 | 将棋

申し訳なくもここ3カ月の間、当ブログを更新できませんでした。自身が担う製品開発が最終段階に入って忙しくなったためです。性能試験が終了した後、社内の方々から賛否両論を頂きました。私自身、仕事の方法上マズかった点を自覚しております。批判に対して反論すべきところは反論する一方で、正当なものは謙虚に認めるつもりです。

それでも、ごく一部の方々(年配に多い)に限られるのですが、最初から答えを決めつけてしまっており、そのストーリーを支持する数字をボトム側の人間に言わせようとする態度に対しては、正直言って不快に思っていました(これぐらいは書いても問題無いでしょう。産官学のどこでも起こっていることです(※1))。しかしながら、最近、このような硬直的態度を取る気持ちが分かる場面に遭遇しました。

行きつけの将棋道場である子が昇級したので、こう言いました。「その年齢で○級はすごいね。おじさんは30歳の時、君と同じ級位だったよ。」その子の反応を見て、私の頭の中に以下のような自省が湧き起こりました。もしかして、青春は若者だけの特権と断定している節があったのではないか(年配の方々から見れば、私は若輩者です)。

確かに人の性格は変えられません。しかし、それはおじさんでも子供でも同じことです。他方で、イデオロギーや世界観、物の考え方は誰でも変えられると私は信じています。このことを実証するために、おじさんでも四段になれることを世間に知らしめてやるべきでしょう。尤も、60歳から将棋を初めても遅すぎることはありませんが。

(※1)この状況の具体例として、あくまでフィクションですが「頭取 野崎修平(作:周良貨, 画:能田茂)」の9巻第66話を挙げます。

 

覚悟表明はここまでにしておいて、本題に入ります。

先手の四間飛車は既に▲4六歩を突いているので、居飛車は△7二飛と寄って鷺宮定跡を狙います。

本譜は以下、▲6七銀、△7五歩、▲7八飛、△7六歩、▲6八角。

定跡は▲7八飛に替えて▲7五同歩ですが、これも難しい…。

以下、△6四銀、▲7六銀、△8四歩、▲同歩、△8八歩としたのですが、この攻めは悠長でして、桂取りを放置されて悪くしてしまいました。Honeywaffle[1]によれば、△8四歩に替えてシンプルに△6六角で良かったようです。

今まで何局か指させて頂いた経験からして、多分大駒総交換になって下図の局面になるかと思いますが、これなら居飛車は香得かつ飛車を先着できて有利でしょうね。

捌き合いは一般的には振り飛車有利と言われますが、実際にはケースバイケースですね。

【参考文献など】

[1] 渡辺光彦氏Webページ、https://note.com/honeywaffleshogi/n/nf5ea34e9b00b#29dc1524-1ef9-4e74-bcf3-1308018a5617、参照日2023年12月24日