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ミケマル的 本の虫な日々

『羊をめぐる冒険』 感想その3


 村上春樹再読5冊目 『羊をめぐる冒険』
感想もその3になったのでそろそろまとめないといけない。
なのに情報量が多くて感想がまとまらないまま出かけてしまった。。
そして、気晴らしに軽い本読んだりネットフリックスで映画見たりしちゃった(笑)

 そんなこんなで感想その3ですが、盛大にネタバレしそうなので注意してください。

 感想その1や2で書いたように、第4章から羊をめぐる冒険が本格的に始まります。
鼠三部作の最初の2作は僕(そして鼠)の個人的な喪失感や絶望感が根底にあり、それをそれぞれが抱えながら迷いながらどうしていくかを描いているように感じました。
そして、『1973年のピンボール』のラストで鼠は自分の弱さを抱え込みながら、住み慣れた街を出て行きます。
僕は東京で翻訳会社を友人と作って生活していこうとしています。
僕はピンボールマシーンとの出会いと別れ、そして再会ときちんとした別れによって少し癒されたように感じました。

 しかし、僕はやっぱり根底にある喪失感が残されたままだったのかな。
最初に出てくる大学時代に喫茶店にいつもいた女の子の話と妻と別れる話にそれが表れているように思えました。
そして、仕事もうまく行っているけれど、一緒にやっている友人はアルコール依存症になっていて、仕事自体にも情熱を感じることができない虚無感が。

 一方、鼠は放浪しながら北に向かい、自分の父親が昔買った北海道の僻地の別荘まで行くことに。
その別荘が羊と大きな関わりがあるもの場所で、そこから大きくストーリーが動きます。
特別な羊をめぐって僕は突然翻弄され始めます。右翼の大物やその秘書が登場し、凄い耳を持った彼女が役割を果たし、北海道のいるかホテルや羊博士に出会い、どんどん話は進んでいくのでした。
最後にたどり着いた所で、鼠と再会するけど。。。というお話。

 初めは他の2冊と同じような個人的なお話かと思いきや、途中からもっと大きな世界での邪悪な存在が出てくる。
全体的に見ると邪悪に見えるけど、それ自体に取っては正しいというのも結構怖い。
そして、この右翼の大物が国を掌握するやり方が今の日本にもあるのではと思うようなところがリアルに感じられるのがまた怖い。
政治家と情報産業と株を手中に収めれば、国を陰から操ることができるって事。
さらに認識の否定、言語の否定などなど。。。
やれやれ。

 そして、個人的なことから大きな存在に関するお話に変化するところから、ストーリー展開に加速度がついてきます。
このあたりの変化がこの後の村上さんの小説へ繋がっているように思いました。
そして、僕はすごく困った状態になっても自分を見失わないように見える。
鼠のため、多分自分のためにも一生懸命なんだけど、必死ではないの。
ちゃんと食事もして、彼女と性交(途中からこの言葉が頻繁に登場)もするから根源的な欲はあるけど、それ以上の欲望や心の波が大きくない感じの主人公も村上さんらしいかな。

 今回はこの本を2回、部分的にはもっと読んだけど、結局よくわからないところもたくさんありました。
羊男って結局誰?
耳の凄い女の子は重要な役割だったけど、結局どうだったのだろう?
喫茶店の女の子、いるかホテル、羊博士、運転手といわし、共同経営者の友達などなど。

 でも、一番私にとって大切だなと思ったのは、鼠が羊を受け入れなかった理由。
鼠が一番嫌だった自分の弱さというものが、結局最後には一番強かったってことかなと。
凄い力を手に入れる、全てを掌握した最強で美しいが邪悪な世界、自分でなくなった自分が権力構造を引き継ぐアナーキーな力。
でも、鼠は自分を無くして得る権力と快楽よりも、自分自身を選んだというのが凄いところだなと。
鼠が最後の方でいう「自分の弱さが好きなんだよ。苦しみやつらさも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。君と飲むビールや・・・」っていう台詞がすごく好き。
その後で「わからないよ」って言うのも。
それまで自分の弱さを嫌っていたのに、自分の中の弱さをも好きだと気がついた鼠が本当に強かったって事なんだな。
色々な意味で鼠が日常を愛することによって、大袈裟に言えば世界を救ったわけで。

 最後に僕はこの一連のことによって得た(あやしい?)お金で僕と鼠がジェイの店の共同経営者となって、名前を残してもらうことにする。
鼠の思いをジェイズバーに名前を残すことによって少しだけ叶えられたことで、僕の背負った諸々の事も少しだけ下ろす事ができたのかなと思いました。
物語の中では頑なに名前を付けなかったのに、最後に名前を残すってところに何か意味があったのかしら。
ラストは希望に満ちてはいないけど、絶望に満ちてもいない。
しみじみした終わり方でした。

 さて、『羊をめぐる冒険』は本当に面白くて、深い小説だったなと思います。
この本もそれぞれの読み方があると思うけれど、私は初期の傑作だと思います。
ここから村上さんの小説は新たな世界に入ったと思えるような。
今回は鼠三部作をきちんと順番に読むことによって、その流れと変化がわかって、本当に良かった!

 『ダンス・ダンス・ダンス』がこの本の続きと言われているのですが、私は『ダンス・ダンス・ダンス』もすっかり忘れてしまった・・・
なので、また楽しめると思います(笑)



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コメント一覧

iwa-mikemaru
紫苑さま、いつもコメントありがとうございます!
村上さんの本は若い時に読んだ時よりも、色々と感じる所が違ったり、分かったりしますね。
今は時間があるからゆっくりと読めるっていうのもあると思いますが。
鼠や彼の弱さや彼の強さや今を生きる事の大切さを思うと、頑張ったねと鼠を抱きしめてあげたくなるのは歳をとった今だからこそだなと思います。
正直、村上さんの本の感想は難しいですが、紫苑さんのコメントにも励まされて、次も頑張って書こうと思います。ありがとうございます。
紫苑
おはようございます。
村上さんの本のことを書いたミケマルさんのブログがすごく楽しみになっています。この夏のお楽しみ(笑)ありがとうございます。
ラストの鼠のセリフ「自分の弱さが好きなんだよ~~」という個所では、本を読んだときも泣いたけど、今回はもう号泣?? 改めて年を重ねて、そのセリフのすばらしさに気づかせていただきました。弱さを抱えながら、でもちゃんと生きる~~?
強くなることが生きるためには必要だと思い込んでいた私は改めてこの言葉をかみしめています。本当にありがとうございます。
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