村上春樹再読 長編小説6冊目
『ダンス・ダンス・ダンス』
だいたいのあらすじはこちらに書きました。
村上さんの初期の長編の6冊を読んできて、一番本の世界に入り込んだこの本。
色々と考えてたらなかなか感想が書けなかったのですが、なんとか今日書いて終えようと思います。
そうしないと、次の本に進めないので。
え〜と、ネタバレ満載な上に長くなりそうなので十分ご注意ください。
昨日も書きましたがこの本は私の現実と地続きな感じがしてグッとダンスワールドに引き込まれました。
その理由として、
1つは東京での僕の行動範囲が私がとても馴染んでいた場所だった事。
2つ目はほとんどの登場人物に名前!がついていた事。
そして3つ目はこのストーリー自体が非現実と現実ってなんだ?という事や僕が現実世界と本当にコミットするための物であった事。
なのではと思います。
1と2については昨日書きましたが、3は私がこの本を読んだ後に色々と考えて出した感想です。
僕がいるかホテルの夢を見るところから始まるこの物語。
羊をめぐる冒険から4年経って社会復帰したけれど、僕の内面はまだいるかホテルや羊男(あるいは鼠)やキキと結びついていて離れない。
そのために、付き合っていた彼女にも「あなたの周りは空気が薄いように感じる」と言われてしまい、結局「月に帰りなさい、君」と別れを告げられるのでした。。。
この彼女は僕は現実世界に社会的には戻ってきているけれど、内面は戻ってきていない事を感じたのでしょう。僕は妻を始めとする色々な彼女と別れてしまうけれど、実はみんなきちんと僕を見ているようで、きちんとした人を選んでいる。そこがすごいなと思うのだった。
そして、僕もいるかホテルに残してきた物を取りに行かないと本当の意味でリアルに暮らすことはできないと。
僕は自分の部屋の中は空っぽでみんな入ってきては留まらずに出て行ってしまう。
出て行く時に、入ってきた時よりも僕が原因で傷つけてしまっているように感じる。
ということで僕は喪失感と孤独感を感じているのです。
しかし、ドルフィンホテルは全く違うホテルに建て替えられているけれど、名前はそのままになっているし、そこに昔のいるかホテルの部屋があり羊男が待っているのです。
ドルフィンホテルの名前が残っているのは元の持ち主のホテルのオーナーが僕が戻ってこられるためにそのままにしてほしいと条件をつけたためだし、羊男も僕のこわばった固まってこんがらがってしまった僕の世界をなんとかするために待っていてくれた。
僕の部屋は空っぽではないのよ!
僕は何かに結びつきたいけれど大事なものを置いてきてしまって幸せになることもできず、おそらくどこにもいけなくなっていると羊男は言います。そして、
つながりに混乱が生じているものをつなげるために羊男は待っていたと。
そして、そのためには踊り続けるしか無いと言うのでした。
オドルンダヨ、オンガクガツズクカギリ
ダンスダンスダンスってこと?
とにかく前に進まないとってこと?
でも歩くでもなく走るでもなく音楽と一緒に踊るって。
ここで私は藤井風さんの歌を思い出したのでした!
「まつり」とか、「踊れ・踊れ〜」とか。
踊るってことは、下を向かずに止まらずにステップ踏んで前に進めってことなのかな。
ユミヨシさんがいるかホテルの羊男がいた部屋のフロアにエレベーターで降りたのも羊男が僕に部屋の存在を教えるのと同時にユミヨシさんと僕を近づけるためだったのかしら。
羊男は羊をめぐる冒険で僕はもうキキに会うことはできないって言ってたのも本当になってしまいました。
やっぱりこの話の要はいるかホテルと羊男かな。
僕の羊の世界とリアルな世界を結ぶ要だから。
さて、ダンスダンスダンスした結果起こったこと
・五反田君と友情を持ち、彼の持つ問題と垣間見る闇の部分にも共感を持つ
・13歳の才能あるが未熟なユキと接することにより現実との向き合い方を取り戻したのでは?
・とうとうキキの運命を知る
・白骨の部屋を見たこと、メイやディック・ノース、キキ、五反田君の死から死を切実に身近に感じる
・ユミヨシさんがとても好きになり、ユミヨシさんの体感させてくれる現実世界とその大切さを知る
まず、五反田君
羊をめぐる冒険の世界は現実と非現実、こちら側とあちら側(死の側)を行き来していて、そこから現実世界に戻ってこられない僕。
五反田君は自分自身と演じている自分のギャップをうまく埋めることができない。
二人はその間にいると言う共通点で友人になり、自分をお互いの中に見るようになるのです。
でも、五反田君の闇の世界は深くて自己破壊への道へ行ってしまっている。
そんな五反田君との関係は破滅的な最後になるけれど、僕は決して五反田君を一方的に責めてない。
どこかでキキも死を受け入れていたように思えたのか、五反田君とキキの間で起こったことが一方的でないように感じたのか、何もかも知った上で「君に近づけた気がする」と思ったの。
そしてユキ
ユキも非凡な才能を内包している13歳だけど、まだ自分を持て余し、周囲に対応するのにいっぱいいっぱいになっている。
でも、僕はユキと会話したり一緒に過ごしたりする中でどんどん現実にコミットするようになってきたように思います。
ユキに対しての僕の対応はとても客観的だし思慮深い。
歳が若いからといって子供扱いはせずにきちんと正直に対話し、ユキの両親に対して求める彼女への対応は至極まとも。
その中でも彼女への影響が行きすぎないように配慮してる。
とにかくユキに対する対応が素晴らしすぎてびっくりするくらい(笑)
ユキが僕を現実世界での生き方をどんどん思い出させているように思った。
五反田君もユキも(ユキの母アメも)輝くような才能とオーラを持った非凡な人間。
対して僕は自分がしている仕事は雪かき的って思っている。
やらなくちゃいけないからやっているだけの事と。
平凡な人間は雪かき的な仕事をするしかないって思ってるよう。
でも、特別な才能やオーラだけが人を幸せにするわけではないし、むしろ邪魔でもあるわけで、そんな二人だからこそ僕と親しくなり、僕もそんな二人に惹かれたのかなと思いました。
だいたい僕は平凡な人間じゃないし、仕事もきちんとこなしてる上に相当変わってるし(笑)
踊りながら僕はなんとか前に進もうとするけれど、時に待つのも大事と。
待ちながら渋谷区を歩き回ってたりするけど。
待っていると何かが起こる、何かがやってくる。
「もしそれが必要な物であるなら、それは必ず動く」
そして、五反田君とユキのストーリーが出会うことで必要なものがやってきて、その結果キキが死んだ事を知るのでした。
僕は途中からキキが死んでいるのではないかと思うようになっていたと思います。
でも、本当のところがわからないと僕はきちんと整理できず前に進めない、現実世界ときちんと向き合えないと思っていた。ユミヨシさんに会いにも行けないと。
いるかホテル、羊男、ユミヨシさん、ユキ、五反田君などなど、全ての物語が集約してキキの運命を知った僕。
やっと僕の中の羊をめぐる冒険を締めくくり、絡んだ結び目が解け、ユミヨシさんに会いに行けるようになるのでした。
時々電話する以外は最初と最後にしか出てこないけど、ユミヨシさんの存在がダンスワールドではとても重要です。
ユミヨシさんは僕とドルフィンホテル、いるかホテル、羊男を結び付けてくれた。
僕と同じような感覚をどこかで持っている。
それでいてきちんと現実世界で生きている。独特なマイペースだけど。
僕はそんなユミヨシさんがすごく好きになる。
そして、ユミヨシさんがいるドルフィンホテルに戻ってユミヨシさんとうまく行くことによって僕は本当に現実世界の中で生きて行くことができると感じられた❗️
最後に僕はきちんと現実世界と向き合うことができるようになったと私は感じました。
夢の中で羊男がいなくなってしまったのは、羊男もいるかホテルの部屋もその役目を終えたからではと思った。
そして、ユミヨシさんをちゃんと捕まえることができたことで、僕はこの世界に繋ぎ止められたのだと。
平凡な仕事を雪かき的仕事と言っていた僕は非凡な人がする才能あふれる仕事と対比していたけれど、ユミヨシさんのように普通にするホテルの仕事に情熱を持っている人を好きになり尊重するようになったことで、自分の仕事にも情熱が持てるようになりそうな予感が勝手にします。
僕と五反田君の間で、愛こそが重要なんだよ!って何回も言ってたこと、白骨の部屋や複数の死がメメントモリ(死を思え)に通じること、などなど掘り返せば色々と出てくる本です。
ますます終わらないので、このくらいで感想は終わりにします(笑)
この本の中には気になるフレーズがたくさん出てきます。
その中のいくつか
「色々な物事を愛そうと努めれば、ある程度までは愛せる。
気持ち良く生きていこうと努めれば、ある程度までは気持ち良く生きられる。
それ以上は運だ」
「人というものはあっけなく死んでしまうものだ。
人の生命は脆いもの。
だから人は悔いの残らないように人と接するべきなんだ。
公平にできれば誠実に。
そういう努力をしないで、人が死んで簡単にないて後悔したりするような人間を僕は好まない」
「物事が流れて行く方向を見る。
公平な目で物を見ようと努めることが大事」
またまた藤井風の歌ですが、彼の「燃えよ」の中で好きなフレーズを思い出した。
「明日なんて来ると思わずに燃えよ」
死を思い、今を生きる、何かを愛すること、自分の目でできるだけ公平に人も物事も見ること、時には待つこと、でも踊り続けること。
そして、雪かき的仕事(本当の雪かきであっても)なんて無い、それは自分が雪かきと思っているだけよ!というのが私の結論だったのかな(笑)
最後まで読んでくださった方に感謝です❗️
ありがとうございました。
私はこれでやっと次の本に行けると思います。