カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

今年130の縫製工場が閉鎖と、政府報告

2009年11月30日 16時44分52秒 | Weblog
こんにちは、長島です。私がカンボジアに来てから3ヵ月が経ちますが、世界経済危機がこの国に及ぼす影響を日々痛感します。NGOでは、ドナーからの資金援助が打ち切られ、プロジェクトが終了したという話をよく耳にします。カンボジアにおける輸出の80パーセント、GDPの12パーセントを占めるのが衣類産業(1)ですが、多くの若い女性を雇用する縫製工場が閉鎖されたというニュースもよく取り上げられています。

 シーライツが、パートナーNGOのHCCとプロジェクトを行っているスバイリエン州に行き、通学や収入向上の支援の対象家庭にインタビューをすると、縫製工場で働くことが子どもの夢であったり、親が娘に将来就いてほしい職業としても縫製工場での仕事が時々挙がります。法律で定められている縫製工場の最低賃金は月45ドルで、平均賃金は70ドル(2)なので、1世帯の平均月収が40ドルほど(3)の農村の人たちにとっては魅力的な仕事です。しかし、先日もスバイリエンの支援対象家庭の女性と話をしていたときに、娘が工場で働いていたが、閉鎖してしまったので、今は家に戻って来たと話をしてくれた母親がいました。

 6万人もの職を失った女性たちは、そして彼女たちの仕送りによって家計を支えられてきた家庭はどうなるのでしょうか? 11月15日の国連の発表によると、縫製工場での仕事を失った女性のおよそ15~20パーセントが、家族を支えるための最終手段として性産業でセックスワーカーとして働く道を選んでいることが調査で明らかになったとのことです。ベトナムの国境に位置するスバイリエン州では、仕事を求めてベトナムや、首都のプノンペンに出稼ぎに行くケースも増えていると思います。その過程で、自分で選んでいなくても、騙されて性産業で働かされしまう女性もいるのです。

 今回は、今年に入ってから9月までに閉鎖した縫製工場についての記事を、ボランティアの方が翻訳して下さいましたのでご紹介します。

写真はプノンペンの縫製工場で働く女性の写真©Phnom Penh Post

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今年130の縫製工場が閉鎖と、政府報告

2009年10月1日(木)プノンペンポスト紙
チュン・ソパル記者

 労働省は水曜日、今年度第1~3四半期において、130の縫製工場が受注減少により閉鎖もしくは一時営業休止となったと発表した。公式報告によると、9カ月間に77の縫製工場が閉鎖し3万683人が失業、加えて53の縫製工場が一時閉鎖したことで、更に3万617人が一時的に失業状態となった。

 その一方で、データによれば、同時期に40の工場が操業を開始し、9千605人が雇用されている。一時閉鎖された工場の再開には充分な受注量が必要と、労働省監査局タウ・ブトーン氏は言う。「カンボジアの縫製工場が再開し地球規模の経済危機に立ち向かう道は、受注のみ。」 カンボジア縫製産業組合(GMAC)営業開発責任者カイング・モニカ氏は、カンボジア最大の輸出部門である本セクターにとって今が試練の時と話す。

 「この大変な時期に、海外からの潤沢な受注に支えられている工場だけが生き残り、何とか生産を続けている。」と氏は言い、GMAC加盟工場のわずか283拠点が稼働中であると付け加えた。
カンボジア衣料業労働者民主連合(CCAWDU)のアッス・トゥン代表は、新工場に対する5年間の免税措置を受けるために、一時的に閉鎖した上で再開した工場もあると話す。氏によると、退職金を支給せずに労働者を解雇し、従来よりも悪い条件で新たな契約を結んで再雇用するために、一時閉鎖という方法を取っているケースもあるという。

 氏は、工場主が「汚職にまみれた公務員や組合長」を買収し、カンボジアの法律で定められた倒産企業への法的措置をすり抜けていると言う。
世界銀行の報告書『Doing Business2010』には、カンボジアでは、破産法が通過したにもかかわらず、破産手続きが実現化していないと記されている。
それに対しカイング・モニカ氏は、GMAC加盟工場のうち閉鎖後に再開されたのはわずか2件にすぎず、双方とも閉鎖前とは別の経営者によって再開されたと話している。

(2009年11月13日 訳・小味かおる他)

(1) ADB report, p. v
(2)Ros Harvey, “Cambodian Garment Sector Project: An overview”
(3) IMF country report 3/59, cited in Polaski, p. 11


子どもへの性的虐待で前科二犯のベルギー人、国外追放

2009年11月18日 16時28分49秒 | カンボジアの子ども
こんにちは、長島です。先日2回にわたって、ベルギー人が少年を性的搾取した罪で服役し、出所後にその被害者の少年の母親と結婚し、一緒に生活をしていた記事をご紹介しました。9月末に、カンボジア・デイリー紙に、男性が国外追放されたことが報じられ、ボランティアの方が記事を翻訳してくださったので、その続報としてお伝えします。
NGOの抗議に対し、政府の関係者からは国外追放は不可能との見解が出ていたにも関わらず、最終的に追放が実現したことは、非常に嬉しい結果です。しかし、この追放で被害を受けた少年の心の傷が消えるわけではなく、まずは被害を出さないようにする「防止活動」の重要さを痛感します。

関連記事は下記リンクをご参照ください。

■子どもに性的虐待をした元受刑者、被害者少年の母親と結婚か(10月6日掲載)
http://www.c-rights.org/2009/10/post-67.html
■NGO、子どもに性的虐待したベルギー人の国外追放を請願(10月30日掲載)
http://www.c-rights.org/2009/10/ngo.html

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写真は子どもの性的搾取に取り組むNGO・APLEの報告書「"Street Pedophilia" in Cambodia」より ©APLE

子どもへの性的虐待で前科二犯のベルギー人、国外追放

カンボジア・デイリー紙 2009年9月23日
プラック・チャン・トゥル記者
出所:‘Twice-Convicted Belgian Pedophile Deported’ Cambodia Daily 23 September, 2009
 
当局によると、昨日、警察は子どもへの性的虐待で2回有罪判決を受けているベルギー人のフィリップ・デザールを国外退去させ、子ども保護のNGOグループによる数ヶ月に及ぶ国外追放活動は功を奏したかたちとなって幕を閉じた。

 国家警察のスポークスマンであるカース・チャンタラリッス氏によると、デザール(49歳)は2006年に犯した13歳カンボジア人少年への性的虐待の罪で3年の刑に服した後、今年4月に釈放され、先週国外追放となったのだが、正確な日付はわからないとのことである。
子ども保護NGOグループは、デザールが釈放直後、被害を受けた少年の住むバンテアイ・メアンチェイ州に移住し、その少年の母親と婚姻関係までも結んだことに対し、憤りを表明していた。デザールは90年代に母国ベルギーで子どもに対するレイプ及び虐待の罪で3年服役している。 

 「我々には十分な法的根拠があった。デザールは元受刑者で、入国管理法によれば、服役経験のある者のカンボジア在留は認められていない」とチャンタラリッス 氏は話している。
「警察はデザールをベルギーに送還するというのではなく、ただ国外追放すべきであると判断した。その後どこへ行くかを決める権利は本人にある」と話す。

 デザールの弁護士トゥン・ヴィボル氏は、警察の強制追放は「市民権侵害」であるとし、子ども保護NGOグループの懸念を憶測にしかすぎないとしている。
「デザール氏が夫人と一緒であったところに警察官が来て、国家機関から強制退去の命令が下されているとして地元警察署に出頭するよう命じたのです」と弁護士は説明し、警察がデザールをプノンペン国際空港へ移送し、外国行きの便に乗せたと話す。
「デザール氏はタイに到着後、私に電話で何も所持していないと言い、警察がカンボジアの法を遵守していないと話した」とヴィボル氏は述べている。
ヴィボル氏は、デザールは家族がカンボジアにいるので戻ることを希望していると付け加えた。

 8月4日に国外追放嘆願請求を起こした7団体の1つである” Action Pour Les Enfants(APLE=子どものための活動)は、警察の行動を歓迎している。「カンボジアはなすべきことをした」とAPLEカンボジア事務所サムレアン・セイラ所長はコメントしている。

(翻訳・NY翻訳グループ 2009年10月23日)

人身売買に関する法の履行、難航

2009年11月10日 11時18分26秒 | その他
こんにちは、長島です。先日掲載した米国務省発表の人身売買レポート記事で、人身売買取締法の執行の問題点について触れましたが、今回も引き続きどのような点が問題視されているか紹介します。

カンボジア政府は1996年に制定された、誘拐・人身売買・搾取規定法に引き続き、昨年新たに全52条からなる人身売買取締法(Law on Suppression Of Human Trafficking and Sexual Exploitation)を制定しました。内容としては、人身売買、買春・売春、わいせつ行為の定義とその処罰に加え、適用される領域も明記しています。第3条では、カンボジア国外で起きた犯罪においても、被害者または加害者がカンボジア人だった場合、同法が適用されると記してあります。人身売買取締法の執行における、国家間の協力と情報共有の重要性について述べた記事をボランティアの方が翻訳して下さったので、ご紹介します。

写真はカンボジアとベトナムの国境 ©シーライツ

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カンボジアデイリー紙 2009年7月4-10日ウィークリー・レビュー
カジュサ・コーリン記者

人身売買に関する法の履行、難航

 カンボジアの人身売買防止新法には、国内で起きる人身売買に対処するとともに、国外においても自国民を救済する条項が盛り込まれているのだが、政府とNGOの協力関係が弱く、地域諸国内の連携も不十分であるため、実際の運用は遅々として進んでいないと、担当官や専門家から報告された。

 カンボジアは、人身売買(とりわけ女性と子どもを対象とする)の防止・抑制・処罰を目的とした2007年の国連パレルモ議定書を批准している。法務省イット・ラディ次官によれば、現在は啓発活動や警察・判事・検察官の研修に力を入れているという。
プノンペンでのフォーラムで、「しかし、現場の警官やソーシャルワーカーの研修も依然として必要」と、同氏は通訳を介して発言した。さらに、国家機関と地方機関の協力、ならびに政府と人身売買に取り組むNGO間の対話の改善も不可欠であると付け加えた。

 ラディ氏の見解は、2日間にわたる人身売買対策に関する国家間諮問協議において発表された。人身売買・密輸・労働および商業的な性的搾取に取り組む政府高官ワーキンググループがホストを務めた同会議には、女性省イン・カンタパヴィ大臣や社会福祉省イッチ・サムヘン大臣などを含む政府高官が出席した。タイ、ベトナム、韓国、マレーシアの代表も出席、各国の人身売買取締や諸国間の協力体制の強化について協議した。

 内務省の人身売買取締・青少年保護局のテン・ボラン警察准将は、国内外で人身売買の被害にあうカンボジア人の正確な数字はないが、カンボジアは人身売買の受入れ国であり、送り出し国であり、中継国であるため、適切な法的枠組を持つことが重要であると語った。

 さらに、2008年以降、新しい人身売買防止法は人身売買の概念を明確にし、パレルモ議定書に準拠しているとも説明。この法律により、カンボジア国民が国外で罪を犯し、その犯罪者または被害者がクメール人である場合に、カンボジア政府による起訴が可能になったが、同法の執行にあたっては依然問題が残ると付け加えた。
 同氏は、市民社会と行政側の限られた協力関係や国内の情報管理の未整備などの課題があることを、通訳を介して話した。

 人身売買取締アジア地域プロジェクト司法アドバイザーのアルバート・モスコウィッツ氏は、カンボジアは人身売買に対し適切な取り組みをかなり行っているものの、近隣諸国における磐石な法規制や、犯罪者引渡しや情報共有などを規定する地域条約も必要であると語った。
同氏は、「いったん一様の法律が機能すれば、各国は対話を始められる。必要なのは条約の整備で、警察官や捜査官がその条約履行について知っておかなければならない」と、会議後のインタビューに答えた。
 また、昨今の景気低迷が人身売買問題を助長するおそれがあるため、地域内の協力改善も併せて重要であるとも付け加えた。

 カンボジア、タイ、韓国はパレルモ議定書に署名したが、条約を批准したのはカンボジアのみで、ベトナムやマレーシアは未だ署名していない。これに加え、カンボジアは人身売買取締に関する覚書をタイ(2003年)およびベトナム(2005年)と交換しているが、覚書は法的拘束力を持たないため、各国の対応は足並みを揃えられていないと、子どもへの性的虐待問題に取り組むAPLE(Action Pour Les Enfants子どものための活動)のサムレアン・セイラ所長は話した。

「協力という言葉はあちこちに記されているが、実際はそれほど大きな協力はなされていない。本覚書への対応は極めて限られている」と同氏は言い、例として、情報共有の仕組みがないために、児童虐待や他の犯罪容疑でタイで捜査されている男がカンボジアに移動して同様の犯罪を繰り返したケースが複数あったことを挙げた。
「カンボジアだけでは問題解決はできない。各国間のタイムリーな情報共有が必要である。誰もが問題を認識しているのだから、共に問題解決に取り組むべきだ」とセイラ氏は語った。(翻訳・小味かおる他 2009年9月16日)