第21回日本ベジタリアン学会大会と、日本ベジタリアン協会共催の土田満先生の特別講演が、11月21日にNLC新大阪ビルで行われ、懇親会が、イマココキッチン メリーモモで行われました。
会場とオンラインのハイブリッド開催という事でしたが、皆様のおかげでスムーズに進めることができ、また、会場やオンライン参加者様からたくさんの質問があり、活発な議論ができたこと、感謝致します。
第21回日本ベジタリアン学会大会は、大会長の土田満先生の挨拶にはじまり、一般講演は、5題の研究発表がありました。題目と発表者様は以下の通りです。
- 不適切なベジタリアン食が原因と考えられる非常にまれながら生じる2016年から2021年に日本にて発表された症例報告に関する検討
宮城智央 (琉球大学、沖縄第一病院) - 未来食「食といのちのバランスシート」に基づく献立の栄養充足について
郷田 優気1・服部 尚子1・大谷 ゆみこ2・伊藤信子2・垣本 充3
(1(株)フウ未来生活研究所/つぶつぶ料理教室・2(一社)ジャパンズビーガンつぶつぶ・3三育学院大学)
- 遠隔での実施が可能なマイクロスケール実験―指示薬の学習題材としての熱源不要型ブラックゴジベリージュースー作り―
佐藤 陽子1, 2、太田 尚孝2
(1鎌倉女子大学教育学部、2東京理科大学大学院理学研究科)
- 信仰と食に関する考察
松原広幸(認定NPO法人日本ベジタリアン協会)
- 菜食と幸福の科学的研究ー英国ヴィーガン協会などの研究の見解についてー
橋本晃一(大阪市立大学大学院生活科学研究科・博士後期課程、認定NPO法人日本ベジタリアン協会)
ヴィーガンの栄養学や、ビタミンB12の充足に関する研究、科学学習によるジュースづくり、そして、信仰とベジタリアン、ヴィーガンと幸福についての研究発表があり、内容や分野は多岐にわたりました。
優れた研究発表を行われた研究者ならびに、1つのテーマで高度な研究を継続的に発表されている研究者に贈られる「学会プレゼンテーション賞」は、「信仰と食に関する研究」の松原広幸さん、VB12を充足する未来食「食といのちのバランスシート」の郷田優気さん、服部尚子さんに授与されました。
一般講演終了後、特別講演では、土田満先生の「ベジタリアンの栄養学-最近の動向について-」の講演がありました。
土田先生は、愛知みずほ大学大学院教授、研究科長、学部長、医学博士で、東京医科歯科大学大学院医学研究科(博士課程)修了、東京医科歯科大学助手(疫学)、講師(予防医学)を経て現職。この間、米国コーネル大学、米国ロマリンダ大学公衆衛生大学院の客員研究員:日本ベジタリアン学会(副会長)、日本ベジタリアン協会(評議員)。
著書に、「Vege-dining ベジ・ダイニング」MORRIS COMPANY、「国内産野菜をイタリア式調理法で-みんなの料理-」MORRIS COMPANY、「21世紀のライフスタイルVEGETARIAN-ism(ベジタリアニズム)」フードジャーナル社などがあります。
土田先生の講演内容は、以下です。
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1.世界のベジタリアン人口
最近、欧米を中心としてヴィーガンを含むベジタリアンが増加している。世界のベジタリアン人口を推定する報告はいくつかみられるが、いずれも欧米における最近の顕著な増加を認めている。ベジタリアンの年平均増加率について、アメリカ(中南米を含む)では3.9%、ヨーロッパ2.6%、アジアは0.5%で、中南米を含むアメリカやヨーロッパでの増加が顕著であるという報告、また、アメリカでは2014年に1%だったベジタリアンが2017年には6%に増加したという報告もみられる。
2.ベジタリアン人口増加の背景と今後
世界的なベジタリアン人口の増加は、2000年代初頭に成人になったミレニアル世代が関係していることや、植物性食品が中心の食生活であるが、時には肉や魚も摂取するフレキシタリアンの増加によることが報告されている。フレキシタリアンはアメリカでは4人に1人、イギリスでは3人に1人という数も推定されている。背景には、以前からの①健康志向、②動物愛護、③環境への意識の向上等とともに、最近の食を巡るウエブサイト等の情報の容易な入手等がこれらの動きを加速させる要因になっている。地球温暖化の主要な要因である温室効果ガス排出量については、食料と関わる行程における排出量が全体の3割を占め、動物性の肉摂取量と関係することより、ベジタリアン、特にヴィーガンにおいて小さいことが見積られている。また、コロナ禍により、畜産の衛生面に不安を覚えたことや、環境や健康への急激な関心の高まりが追い風になっていることもいわれている。今後、食のテクノロジーの進歩も加わり、ベジタリアンの広まりは、一時的なものではなく、長期的なトレンドになり得るとの推察もなされている。
3.日本におけるベジタリアンの動向
一方、日本では欧米の様な顕著な増加はみられないが、少しずつ増加している。微増の原因には、和食が長寿の源であるという高い認識や食育思想、ヴィーガンに対する理解不足、菜食を取り巻く社会環境の整備が十分に進んでいない等、日本特有の状況が考えられる。しかしながら、3人に1人が植物性食中心のライフスタイルの興味を持ち、半数以上がベジファーストや野菜中心の食事を実践しているという報告もみられる様になってきている。この様な関心の広がりから、ベジタリアン、ヴィーガンに対応したレストラン数は現在2330店以上あり、2009年の17倍に増えているが、ベジタリアン専門レストラン数やスーパーでもベジタリアン専用コーナーを見かける欧米とは異なり、内容や認知度については今後に期待される面も多い。
4.ベジタリアンの健康に関する研究
ベジタリアンの健康に関する最近の研究は、そのほとんどが、欧米人を対象としたものである。日本人を対象とした最近の研究は極めて少ない。概観すると、虚血性心疾患や2型糖尿病、ガン等の発症リスク等はベジタリアンにおいて、ベジタリアンでない人より低く、その効果はヴィーガンにおいて顕著である。その他、長生きや腸内環境におけるベジタリアンの効果も報告されている。一方、2019年に発表されたイギリスの約6万人の男女を対象として実施された前向きコホート研究(EPIC Oxford)では、脳卒中や大腿骨骨折については、逆の結果を報告する研究もみられる。
日本人は欧米人とは遺伝や生活環境が異なることを考慮すると、日本におけるベジタリアンの増加や発展には、日本人を対象としたベジタリアン研究によるエビデンスが必要であり、研究を一層進展させる仕組み作りが望まれる。
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ハイブリッド開催のおかげで、全国各地から参加者がありました。熱心な方々からのご質問もたくさんあり、また、スムーズな進行にご協力頂き、無事プログラムを終えることができたこと、感謝致します。
(報告:橋本晃一)
認定NPO法人日本ベジタリアン協会 http://www.jpvs.org/