じゅうのblog

こちらでボチボチ更新していく予定です。

『六つの手掛り』 乾くるみ

2017年12月19日 21時06分00秒 | ■読書
「乾くるみ」の連作ミステリ短篇作品『六つの手掛り』を読みました。


カラット探偵事務所の事件簿2塔の断章スリープセカンド・ラブに続き「乾くるみ」作品です。


-----story-------------
見た目は「太ったチャップリン」の謎めく男、「林茶父」は神出鬼没。
変死事件にたびたび遭遇して、犯人と、犯人が隠匿しようとした事実をカラリと鮮やかに暴いてみせる。
普段はおかしみのある雰囲気でも、洞察鋭く、奥に潜む真実にたどりつく。
さあご覧あれ、類い稀なる見事なロジック!
全六話のうち三作が日本推理作家協会や本格ミステリ作家クラブ編のアンソロジーに入った傑作ミステリー短編集。
遊び心もたっぷりで、凝った趣向にニヤリだ。
-----------------------

「林」四兄弟シリーズの第2弾あたり、三男の「林茶父(はやしさぶ)」が探偵役となって活躍する作品です… 「林茶父」は、小柄で小太り体型、鼻の下にちょび髭をたくわえ、頭にはソフト帽、手にはステッキという一見、怪しい姿で、「さぶりん」という芸名で舞台に立ち、手品やパントマイム等のパフォーマンスを演じるという、なかなか個性的な役柄です、、、

「茶父」「チャプ」とも読め、「林」「リン」とも読めるので、「チャップリン」を意識した名前に間違いないんでようね… 本作品には、雑誌『小説推理』に2006年(平成18年)4月から2008年(平成20年)10月の間に連載された5作品に書下ろしの1作品を加えた6作品が収録されています。

 ■六つの玉
 ■五つのプレゼント
 ■四枚のカード
 ■三通の手紙
 ■二枚舌の掛軸
 ■一巻の終わり
 ■解説 山前譲



『六つの玉』は、偶然から雪深い山荘に居合わせた4人の宿泊客のうちのひとりが殺害された事件を、宿泊客のひとりである「林茶父」が解決する物語、、、

殺害されたのはヒッチハイカーの青年「黒岩」、彼は自室で密室状態で死んでいるところを発見される… 「茶父」「黒岩」の上着のポケットに残されたジャグリング用の六つの玉や、各部屋の窓外のつららの状態等から、「黒岩」の行動や、密室殺人の仕掛け、犯人の動機を推理する。

つららにひっかかってしまった七つ目の玉を取り戻そうとした「黒岩」の軽率な行動が、強盗と誤解されてしまったとは… 「黒岩」の自業自得ともいえるので、偶然から犯人となってしまった人物の方に同情しちゃいましたね。 



『五つのプレゼント』は、15年前に発生した2件の爆死事件… 大学生の「江川ユミコ」が5人の学生から贈られたプレゼントの箱に仕掛けられた爆弾により自室で爆死し、同じ日に「ユミコ」と交際していた「松本」が同じように自室で爆死した事件の真相を「林茶父」が姪の「仁美」に語る物語、、、

真相は、「茶父」の友人だった「松本」による無理心中なのか?それとも共同研究仲間で、「江川」に好意を寄せており、当日、「松本」と同じように誕生日プレゼントを送っていた「青田」「別所」「千葉」「土井」のいずれかの嫉妬による犯行なのか… やはり、爆弾にはなり得ないプレゼントを贈っていた人物が怪しかったですね。

「茶父」は、恋愛絡みの爆死事件の背景や確認できた事実を「仁美」に伝えて、真相を推理させますが… 「仁美」「茶父」の語り方や心理的な手掛かりから、あっさりと真犯人を指摘してみせるところが面白かったですね。

容疑者の4名… 頭文字がA、B、C、Dになっているのがポイントでしたね。



『四枚のカード』は、大学教授「小山田」が大学での補習講義中に、マジック好きのフランス人「トルソー教授」が殺害された事件を「林茶父」が解決する物語、、、

「茶父」の友人でマジック仲間である「トルソー教授」は殺害される前に、補習講義を受講していた学生たちにESPカード(『☆』、『○』、『□』、『+』、『波の線』の5種類のカード)を使ったマジックを披露しており、学生たちに超能力者であると信じ込ませていた… 超能力者である「トルソー教授」に、自分の過去や心が読み取られたと思った学生の犯行と思われた。

また、殺害された「トルソー教授」の手には破れたESPカードの一部が握られており、容疑者となる6名の学生の名前はESPカードと因果性のありそうな名前である(「川村≒波の線」「星野=☆」「丸山=○」「須田≒スター=☆」「来栖≒クロス=+」「池田直美≒波の線」)ところから、それが、ダイイングメッセージと思われた… 動機は弱いですし、驚くようなトリックは仕掛けられていないのですが、「茶父」が、着実にアリバイ崩しを行い、真犯人を追い詰めて行くという正統派のミステリでしたね。



『三通の手紙』は、エリート銀行員殺人事件の謎を、間違えられた手紙や留守番電話をヒントに「林茶父」が解決する物語、、、

スナックで遅くまで飲んでいて終電を逃して帰れなくなった「西村」「茶父」は、スナックの常連客「日野」の家に泊めてもらうことに… 「日野」の家についてみると留守番電話のメッセージが残されており、メッセージは「日野」の友人「沖田」の銀行の同僚の「徳永」からのものだった。

翌日、「日野」のもとに、「沖田」から「徳永」が殺害されたとの連絡が入る… 「徳永」からの留守番電話のメッセージが死亡推定時刻を狭めることになるが、「徳永」が携帯電話やメールでの連絡ではなく、自宅の固定電話の留守番メッセージを残していたことや、その時間帯に「日野」「沖田」に明らかなアリバイがあったことを不審に思った「茶父」は二人に疑いを抱く。

社内での出世争いの勝者が敗者を殺害するという意外な結末でしたね… オーソドックスなトリックでしたが、犯人の心理を巧みに再現する展開が愉しめます。



『二枚舌の掛軸』は、悪戯好きな資産家「松平道隆」の晩餐会に招待された「林茶父」が、その夜に発生した資産家の殺害事件を解決する物語、、、

「松平道隆」は、二枚の絵を一つの掛け軸にした特殊な構造の掛け軸”二枚舌の掛け軸”の前で日本刀で刺殺されていた… 「松平家」に居合わせた使用人や客人のうち、殺害時刻に単独行動を取っていた、「道隆」の弟「成幸」、籠岩市長の「暮林大吉」、大学教授の「西村女史」、若い画家の「武田」に容疑者は絞られる。

「茶父」は、”二枚舌の掛け軸”に残された血しぶきが手前の美人画ではなく、後側の虎の絵に飛び散っていたことから、犯行の動機やトリックを推理する… 本物の「北斎」作品を、敢えて偽者に見せかけるという悪戯心が生んだ悲劇でしたね、、、

でも、こんな理由で人を殺すのかな… 動機は弱い感じがしましたね。



『一巻の終わり』は、観光地化されていない山間の避暑地桑津町に自宅兼仕事場を構えるベテランミステリ作家「加藤清治」の邸で発生した殺人事件を「林茶父」が解決する物語、、、

殺害された評論家の「景山洋次」は、「加藤」の蔵書から文庫本を三冊ほど選んで読書をしており、テーブルには一冊目の文庫本が終わりに近いページを開いたまま伏せてあった… 「景山」は生前に一冊の文庫本を約1時間で読むと証言していたことから、読み始めてから約1時間前後(午後4時前後)に殺害されたと思われた。

しかし、「茶父」はあることに気付き、開かれたページは犯人により変更されたと推理し、午後4時前後に明確なアリバイがある人物を疑う… 『三通の手紙』と同様に犯人のアリバイ偽装が裏目に出るパターンでしたね、、、

まさに"一巻の終わり"という展開… 最終ページ、しかも本作品だけでなく、本書の最終ページが"る。"だけで構成される幕引きがイイですねぇ、タイトルに合致した遊び心満載の作品で、本書の中でイチバン印象に残りましたね。



派手さはないけど、理詰めでの謎解きが愉しめる一冊でした… でも、ちょっと物足りない感じかな。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『セカンド・ラブ』 乾くるみ | トップ | 『ポー・ポー・パッチ』 Gun... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

■読書」カテゴリの最新記事