投錨備忘録 - 暇つぶしに借りた本のメモを残すブログ

なぜ朝鮮人は匙で飯を食べるのか


なぜ朝鮮人は匙で飯を食べるのか。

周から漢にかけての作法をまとめた礼記には「飯は器に盛ってあるものを各自が手でつまんで食べ、汁ものは匙ですくうか椀に口をつけて吸い、野菜のような具が入っている場合は箸を用いても良い。」とあるらしい。朝鮮半島に帯方郡、楽浪郡があったころの作法だ。これには飯に匙を使えとも箸を使えとも書かれていない。

ここでいう飯は何をさすのか。飯とは、イネ科の米、麦、あるいはキビ亜科の穀物に、水を加えて汁気が残らないように炊いた、あるいは蒸した食品である。雑穀一般だと考えれば良い。

中国東北部で水稲が普及するのは日本が満州を建国するまで待たなければならないことを考えると水稲は含まれない。水稲は中国東北部からは朝鮮半島には入って来なかった。

中国の黄河以北は粉食地域である。穀物を粉にして調理する。ただこの粉食も一般的になるにはロータリーカーン(回転する臼)が普及するまで待たなければならない。中国でのロータリーカーンの普及はいつか?これは遥か西の中央アジアから小麦の大規模栽培のシステムの一つとして水車と一緒に伝わってからのことになる。時代は唐の頃か。それまでの中国の黄河以北は粉食ではなく粒食、米ではなく先にあげた粟や黍などの雑穀を粒のまま食べていた。

雑穀は甑で蒸して食べていた。仮に米であったとしても同様の調理法だったと思う。であるから礼記に書かれているように手でつまむことが出来た。日本の話だがアイヌの食事の道具としてヘラがある。ヘラですくってものを食べる。世界いたるところで多発的に使われたであろうヘラ。これが匙の原形であろう。はらはらとした蒸しあげた雑穀は、最初は手づかみだったかも知れないが、次第に匙を使いすくうようになるのではないか。

臼の話になるが、朝鮮半島ではサドルカーンという跨って使う板状の臼が一般的、遺物としてはロータリーカーンが楽浪郡あたりから出てくるが遺物は遺物であって普及はしていない。つまり小麦のシステムは伝播していない。水車もない。今の朝鮮半島の文化をなした半島北部は水稲も小麦も無かった地域になる。雑穀中心の食生活が長らく続く。

長らくその食事作法に親しみ、最初に何故そういう作法になったのかという意味も忘れる程に代を重ねた時、新たに新しい作法が入ってきたとしても慣れ親しんだ作法は捨てることが出来ない。

ただ食事の作法を決定づける要因として、より文化としての優位性が必要だ。これまでやってきたから続けるというだけでの理由は弱い。ジャポニカ種の稲作のシステムの一つとしての食事の作法、箸が伝わってもそれを排除し自分たちのやってきたことを続けさせる力は何なのか。

それは文化としての確立と優位性の感じ方だろう。遠い昔、朝鮮半島にあった古代中国の文化(彼らは自らの文化だと思っているのだろうが)に対する憧れと自分たちは優れているという思いではないだろうか。同じ時期、日本にもその作法は伝わったのかもしれない。時代は下るが奈良の正倉院にも貴族の食卓道具としての匙が箸や座卓、器とともに残されている。しかし日本人は匙は食卓の道具から排除し、箸を使っての作法や器を作ってしまった。先の礼記の飯の食い方を箸を使った作法に変えた。きっと日本人には帯方郡、楽浪郡などの時代の文化優位性の記憶が薄かったのかもしれないし、憧れが足らなかったのかもしれない。それよりより優位性のある"今時点"の中国からの文化影響力の方が強かったに違いない。

中国でも匙は湯匙としてしか残らなかった。正倉院の道具にある匙も飯匙ではなく湯匙だろう。朝鮮のように飯匙の作法は早い段階で廃れた。また日本人はというより朝鮮半島に残った人々は他の国の人々とは違って崇儒的なところが多い。今と同じで凝り固まるところがあったのかもしれない。

朝鮮半島には稲作のシステムは南部の海岸地方に日本と同時期に伝わる。小国が乱立しただろうが、次第に兵站が強いの北の国々に駆逐される。三国志魏志東夷伝倭人条、その前の韓の条には倭人と称される人々が朝鮮半島に多くいたことが書かれている。当時は北九州あたりの人々と言葉さへ通じた国があったはずだが百済あたりを境にその文化は消滅。入れ替わった人々は食糧としての水稲は残したが食事の作法としての箸は物を刺す道具として残し、飯はあいかわらず匙で食べることを続けてきたのだ。

犬食いになるのも椅子と机を使っての食事作法を床に座る生活作法に取り入れた結果だろう。床に座る生活はユーラシア大陸に広がっている一般的なものだ。座卓の生活で中国から伝わった椅子の食事作法をやれば犬食いになるのは当然だ。
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