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岡上淑子のフォト・コラージュ - 2022年1月のMOMATコレクション(東京国立近代美術館)

2022年01月17日 | 東京国立近代美術館常設展
岡上(おかのうえ)淑子。
1928年1月生まれ。94歳、高知在住。
 
《無情な光景》
1952年頃、29.4×26.1cm
東京国立近代美術館
 
 
 岡上のフォト・コラージュ作品。2019年の東京都庭園美術館での個展を見て、虜になってしまった。
 
 
 そのフォト・コラージュ作品は、すべて、20歳代、1950〜56年の7年間に制作されたもの。
 写真の素材は、海外の雑誌。LIFEなどのグラフ雑誌や、VOGUEやHarper's BAZAARなどのファッション誌。
 1950年代。戦争の生々しい記憶を皆が個々に持つ時代。戦後復興期の時代を反映した報道写真と、当時最先端のモード写真のコラージュ。
 洋裁の道に進もうと考えていた、欧州モードに憧れを持つ、芸術家というものに強い思い入れを持たない、20代の女性の感性による奇蹟の作品群。
 
 
 1928年に高知県で生まれ、3歳で家族とともに東京へ移り住む。
 1946年、恵泉女学園家事部に入学。1949年に卒業し、小川服装学院に入学。1950年に同学院廃校を受けて、文化学院デザイン科に入学。そこで授業の課題としてコラージュに出会う。
 日本におけるシュルレアリスム運動を先導した瀧口修造に見出される。瀧口から見せられたマックス・エルンスト作品の影響を受けて、それまで黒や赤の単色の羅紗紙を使用していた背景に写真を使用するようになるなど、表現の奥行きを広げていく。
 1953年、瀧口の企画による岡上の個展が開催される。   
 
(瀧口による個展の案内文)
 岡上さんは画家ではありません。若いお嬢さんです。獨りでこつこつグラフ雑誌の切抜きをコラージュ(貼合せ)して夢そのものを描きました。不思議の国のアリスの現代版がこのアルバムになりました。
 
 瀧口の力添えもあり、上記を含む2度の個展の開催、1953年の東京国立近代美術館の展覧会「抽象と幻想」展への出品、各種美術雑誌での作品紹介や短文執筆など、日本美術界で注目される存在となる。
 1957年、画家である藤野一友との結婚を機に、コラージュの制作から離れる。1959年、息子が誕生。1967年、離婚、高知に帰郷する。
 帰郷後も、日本画制作や新聞への寄稿など、創作は断続的ながらも続けていたようである。瀧口との交流も手紙で続いていたようだ。
 
    長らく忘れられていた岡上。
 本人も、フォト・コラージュは過去のこと、若き時代、東京での思い出として、作品は自宅の茶箱にしまったままほとんど箱を開けることもなく、保管されていた。
 そんな40年間が経過した1996年、目黒区美術館「1953年ライトアップ-新しい戦後美術像が見えてきた」展の企画者から声をかけられ、保管していた作品を出品する。
 2000年、44年ぶりの個展「岡上淑子 フォト・コラージュ-夢のしずく-」が第一生命ギャラリーにて開催される。
 
 初日の日に行ったとき、誰も来てなかったのね。ギャラリーの中に入ったでしょ。作品に取り囲まれて立ちすくみましたね。「自分で、これ作ったのかしら」って(笑)。ほんとそんな感じでした。あんまり離れてたでしょ。だから「こういうの作ったんだ」とあらためて思って、見始めたときは別の自分が作ったのを見てるようでした。
 
 状況が一変し、美術界で注目される作家に。
 自宅の茶箱にあった作品は、高知県立美術館、東京国立近代美術館、東京都写真美術館、栃木県立美術館の国公立美術館に、さらに、アメリカのヒューストン美術館、ニューヨーク近代美術館に所蔵されることとなる。
 2018年には地元の高知県立美術館にて、2019年には東京都庭園美術館にて、大規模な個展が開催されている。
 
 
 
 東京国立近代美術館は、所蔵作品検索システムによると、岡上のフォト・コラージュ作品を20点所蔵する。2019年の個展には20点すべてが出品されている。
 今期(21.10〜22.2)のMOMATコレクション展では、前期に1点、後期に1点が展示される。
 
【前期展示】
岡上淑子
《室内》
1953年頃、34.5×25.8cm
東京国立近代美術館
*東京国立近代美術館HPより借用
 
 
【後期展示】
岡上淑子
《無情な光景》
1952年頃、29.4×26.1cm
東京国立近代美術館
 
 
 東京国立近代美術館では、今期のように、所蔵する20点を順次、常設展示するのであろうが、フォローできていない。
 
 
 本年2022年に、福岡にて、元夫・藤野一友(1928〜80)との2人展が開催予定とのことで興味はあるが、福岡まではちょっと行けそうもない。
 
藤野一友と岡上淑子
2022年11月1日〜2023年1月9日
福岡市美術館
 
 
 首都圏で再度その作品をまとまった形で観る機会があることを期待している。
 
 
 
【作品画像を見ることができる美術館サイト】
東京国立近代美術館:20点
東京都写真美術館:10点
ヒューストン美術館:20点
ニューヨーク近代美術館:1点
 
〈以下、追記〉


4 コメント

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作品画像の件 (岡上容士)
2022-01-25 13:01:05
はじめまして。私は岡上淑子の長男で、岡上容士(ひろし)と申します。母の作品をご愛好下さいまして、さらには母とその作品に関しまして詳しくお書き下さいまして、誠に有難うございます。
作品画像の件ですが、その後新たに美術館に収蔵された作品もありまして、次の各館のHPでも母の作品画像を見ることができますので、よろしければご覧下さい。
母の作品画像が出るアドレスをコピーしたのですが、ここのポリシーに抵触するためか、送信することができませんので、お手数ですが、各館のHPのコレクションの検索画面でOkanoueと入力していただきますと、出てきます。
○M+(香港の美術館):「乙女」「裏口」「獲物」「墓標」
○National Gallery of Art:「躍動」
○National Museum of Asian Art:「ダンス」「誕生」「雨の日」
○The J. Paul Getty Museum:「暗い休日」
このような時節柄、ご自愛下さいますように。
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Unknown ()
2022-01-26 22:06:48
岡上容士様
コメントありがとうございます。びっくりしています。
2019年の東京都庭園美術館の回顧展で知ってからのファンです。
お教えいただいた4つの海外美術館のサイトを見ました。特にThe J. Paul Getty Museumの所蔵作品には、Rectoとversoの画像が掲載されていて、興奮いたしました。
上記の回顧展には、M+から2点が出品、また他の3美術館所蔵作品のうち4点が作家蔵または個人蔵として出品されていますね。
お教えいただき、誠にありがとうございます。
御母堂様、容士様のご健勝をお祈りいたしております。
返信する
続き (岡上容士)
2022-01-27 12:48:22
ご丁寧に有難うございます。
せっかくですので、もう少し情報を。
これへのご返信はなくとも結構ですので、お気づかいなく。
○これら以外にも、「風媒花」「近世史」「王女」「重い半球」「夜の広場」は、Peabody Essex Museum に所蔵されています。以前には JGS(Joy of Giving Something) という財団に所蔵されており、庭園美術館の展覧会の図録(青幻舎刊)ではそうなっていますが、その後移管されました。ただ、ここのHPでは、残念ながら今のところ検索できません。もっとも、M+ と National Museum of Asian Art でも以前は検索できませんでしたが、今はできるようになりましたので、将来はわかりませんが。
○おっしゃって下さいました東京国立近代美術館(20点所蔵)と、高知県立美術館
(34点所蔵)では、検索はできますが、画像は出ませんね。栃木県立美術館(10点所蔵)では、検索できません。
○国内外各館のデータのうちの、題名の英訳や作品の制作年は、上記の図録や最近の作品集(河出書房新社の『はるかな旅 新装版』など)と違っている場合があります。制作年につきましては、比較的近年に、関係者の調査で修正されたものがいくつかありますが、美術館のデータは収蔵された時点のものですので、こうした違いが出ています。
以上、長くなりましたが、ご参考になりましたら幸いです。
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Unknown ()
2022-01-29 07:31:09
岡上容士様
コメントありがとうございます。
また、2019年の東京都庭園美術館の展覧会図録では分からない最新所蔵状況をお教えいただきありがとうございます。
JGS所蔵として2019年の展覧会に出品された3点を含む5点がPeabody Essex Museumに移ったのですね(Peabody Essex Museumの2020年2月のプレスリリースを確認しました)。
ヒューストン美術館20点、ニューヨーク近代美術館1点、M+4点、ワシントン・ナショナル・ギャラリー1点、スミソニアン国立アジア美術館3点、ポール・ゲッティ美術館1点、ピーボディ・エセックス博物館5点。
その多くが2019年の展覧会に出品されていたことを認識できました。また拝見できる機会を望んでいます。
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