東京でカラヴァッジョ 日記

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【後期】リアル 最大の奇抜(府中市美術館)

2018年04月15日 | 展覧会(日本美術)
リアル   最大の奇抜
未知の領域に挑む江戸絵画のリアル
2018年3月10日〜5月6日
前期:〜4月8日、後期:4月10日〜
府中市美術館
 
 
   府中市美術館毎年恒例の春の江戸絵画まつり。2018年のテーマは「リアル」。
 
 
   後期も魅力的な作品を見せてくれる。
 
 
   お気に入りはこの作品。
 
亜欧堂田善
《少女愛犬図》
 
   119.5×81.5cmと大画面の「水墨画の掛軸」に描かれるのは、相当不思議な容貌をした少女と犬。
   英国の銅版画を写したものであるとのこと。原画フランシス・コーツ、版刻ジェイムス・ワトソンによる「ミス・ラッセルズ」(1760年代後半制作、50.5×35.4cm)である。参考図版を見ると、ごく普通の自然な少女と犬で、どこにも不思議なところはない。
   田善はそれを3倍ほどに拡大して写していて、相当大きな作品なのだが、どうしてこんなに不思議な作品になってしまうのか。少女の顔の大きさ、目、口、鼻、眉、被り物。犬の胴体部分。不思議である。銅版画が痛んでいたのか。
   なお、本銅版画は、田善以外の画家によっても模写されているらしい。
 
 
 
本展の章だて
 
1章   「リアル」の力
2章   「リアル」から生まれる思わぬ表現
3章   ところで、「これもリアル?」
4章   従来の「描き方」や「美意識」との対立や調和
5章   二人の創作者   司馬江漢と円山応挙
 
 
出品点数
 
   前後期あわせて120点の出品。
   前期が73点、後期が68点。
(通期21、前期のみ52、後期のみ47)。
 
 
 
1章   「リアル」の力
 
   「きっと当時はリアルで斬新だったのだろうといった想像や、頭での理解を必要としない作品」「現代人の口からも「リアルで凄い」という言葉が自然と出てくる、迫真描写」を並べた章。後期20点(うち通期2点)
 
   本展の最初に登場するのは、森狙仙《群獣図巻》。実在・想像上の動物多種が描かれた巻物。通期展示だが、前期で見たものと違う。巻替えではなく、別の巻が展示されている。絶滅したとされるニホンオオカミが鳥を喰らおうとする瞬間も描かれている。
 
   片山楊谷《蜃気楼図》。大きな蛤(蜃)が気を吐くと楼閣のかたちが現れると言われていたらしい(蜃気楼の謂れ)。
 
 
 
2章   「リアル」から生まれる思わぬ表現
 
   「リアル」から出発して、奇抜、突拍子もない、奔放、仰天するような斬新さに至った作品。後期13点(うち通期なし)
 
   お気に入りの亜欧堂田善《少女愛犬図》。その隣展示の祇園井特の濃い美人画も、《少女愛犬図》の威力にすっかり霞んでしまう。

   葛飾北斎《雪中鷲図》は、1843年作だから、数え84歳の作。他の作品とは違う貫禄を感じる。
 
 
 
3章   ところで、「これもリアル?」
 
   ひと味違う描き方、まったく異なる着眼点によって描かれた「リアル」。後期も2点(うち通期なし)。ちょっと一休み章かな。
 
 
 
4章   従来の「描き方」や「美意識」との対立や調和
 
   「リアル」と従来の「描き方」の美しさ、「リアル」と文人画の「美意識」との折り合いを探る。後期7点(うち通期3点)。
 
   京都国立博物館所蔵の重要文化財の渡辺崋山《市河米庵像》は、「顔だけが、まるで写真のよう」。
 
 
 
5章   二人の創作者   司馬江漢と円山応挙
 
   本展のメイン章だろう。
   司馬江漢は前期と同数の13点(うち後期のみ3点)。
   円山応挙は前期から1点減の13点(うち後期のみ7点)。

   前期のお気に入り作品《大石良雄図》が展示されていた特製ガラスケース、後期は何が展示されているか期待していたが、意外にも、通期展示のメインビジュアル《鯉魚図》が展示場所を変えての登場。
   ちょっとがっかり、と思ったが、後期の応挙の私的メインは特製ガラスケースの外にあった。
   《鯉魚図》自体も間近での鑑賞が可能となったことに加え、次の作品に橘保国《三鯉図》を置いて「これも十分にリアルな描写」だが「応挙のリアリティーがまるで別次元」と比較し、そのメインビジュアルたる理由を語っている。《三鯉図》には気の毒だが、真横に展示されなかったのがせめてもの救いか。
 
   本間美術館所蔵の《鼬図》。鼬を写生した小型作品。全身側面図のほか、その余白に頭部を様々な角度から写した5図が描かれる。
 
   同じく本間美術館所蔵の《虎皮写生図》。観るのは、2013年のやはり府中市美の「かわいい江戸絵画」以来2回目である。左側に虎の毛皮の記録図。虎の毛皮をおそらく実物大で写生したものらしく、屏風化にあたり、収まりきれなかった後ろ足と尾の部分は裏側に貼ってあるという(裏側は見れない)。右上の図は、それとは別に、毛皮を台にのせて、虎の形態を想像してみた図らしい。胴体や足の長さを計っている。

   通期展示の《猛虎図》。その模様は《虎皮写生図》の毛皮の模様に「とても忠実」。「胴と足の比率なども実物を相当意識」。写生の成果がここにある。
 
   白鶴美術館所蔵の襖絵《芭蕉鶏図襖》と京都国立博物館所蔵の三幅の鯉の掛軸《竜門図》で締める。
 
 
 
   後期は、私的には円山応挙展(+《少女愛犬図》)見た感じ。
   若冲、蕭白、芦雪作品のない江戸絵画展も良いものだ。
 
 
   1回目訪問時の観覧券の提示により、2回目訪問となる今回は観覧料が半額(700円→350円)。
 
 
 
 
 
   次回の府中市美術館の企画展は、
 
長谷川利行展
五色の東京
2018年5月19日〜7月8日
 
昭和初期に山谷や新宿のドヤ街に住み、絵を日銭にかえて暮らした無頼の画家、長谷川利行(1891-1940)。関東大震災から復興を遂げつつあった東京を歩き回り、汽車や駅、モダンなビルディング、カフェや酒場の喧騒といった街の息遣いを、自由奔放な筆致と鮮烈な色彩で描き出します。新発見作品を含む約140点で、その壮絶な人生からは想像出来ないほど、凄まじいまでの美しさと宝石のような輝きに満ちた彼の絵画世界を紹介します。」
 
   見に行くつもり。
 


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