2024年9月14日から公開開始。
国立西洋美術館は魅力的な絵画を手に入れた。
ラヴィニア・フォンターナ(1552-1614)
《アントニエッタ・ゴンザレスの肖像》
1595年(?)、54.5×47cm
国立西洋美術館、2024年度購入
この少女をモデルとする作品の存在を知ったのは、2017年の国立西洋美術館「アルチンボルド展」による。
同展には、ゴンザレス一家をモデルとする作品が3点出品された。
一つがウリッセ・アルドロヴァンディの書籍『怪物誌』1642年刊。
ペドロ・ゴンザレスとその息子エンリコ、2人の娘マッダレーナ(?)とアントニエッタの版画挿絵が掲載されている。
二つめは、南ドイツの画家《エンリコ・ゴンザレス、多毛のペドロ・ゴンザレスの息子》1580年よりやや後年、ウィーン美術史美術館絵画館蔵。
同作品は、「ペドロ」「カトリーヌ(ペドロの妻)」「マッダレーナ(ペドロの娘)」と4点連作の等身大肖像画の一つで、いずれもウィーン美術史美術館の収蔵品であるが、インスブルック近郊のアムブラス城に置かれている。
三つめは、アゴスティーノ・カラッチ《多毛のアッリーゴ、狂ったピエロと小さなアモン》1598年頃、カポディモンテ美術館蔵。
ペトロの息子エンリコ(アッリーゴはエンリコの変名)、小人のアモン、道化のピエトロが、サル、犬、オウムとともに描かれる。
ほかに、同展の図録に参考図版として掲載されている作品が、ラヴィニア・フォンターナ《アントニエッタ・ゴンザレスの肖像》ブロワ城美術館蔵。
国立西洋美術館の購入作品は、ブロワ城美術館所蔵作品と一見同じだが、別バージョン。
国立西洋美術館のHPには、来歴が掲載されている。フランスの個人(1859-1948)コレクションにあり、一族に引き継がれる。2023年6月に競売にかけられ(新出であったようだ)、2024年7月に同館が購入。
同館のプレスリリース(2024.9.11付)には、「以前からこの絵のヴァージョン作品の存在が知られていたが、昨年この絵の存在が知られ、こちらがオリジナルであると考えられている。表情や衣服の装飾を精緻かつ色鮮やかに描き出す手法は、ラヴィニア・フォンターナならではのものだ。」とある。
国立西洋美術館は、2017年の「アルチンボルド展」以降、この方面の作品情報にアンテナを張っていたらしい。
1547年、一人の少年がフランス王アンリ2世のもとへ連れてこられる。
その少年ペドロは、1540年あるいはそれより少し早い時期に、スペイン領カナリア諸島のテネリフェ島に生まれる。フランスにやってきた経緯の詳細は不明。
パリの宮廷で教育を授けられ、長じては王の世話係の一人となる。
カトリーヌという名のフランス人女性(廷臣の娘)と結婚する。6(7?)人の子供にも恵まれる。
(アムブラス城収蔵の作品は、ミュンヘンのバイエルン公ヴィルヘルム5世の注文で描かれるが、当時はパリに滞在していた一家の姿を表した素描肖像を手本にしたと考えられている。)
1589年頃、ヴァロワ朝が断絶し、ブルボン朝が始まるとともに、ゴンザレス一家は、ネーデルランド総督のパルマ公アレッサンドロ・ファルネーゼに贈られる。
1591年、総督の本拠であるパルマの宮廷に送られる。
1595年、息子の一人エンリコが、パルマ公の弟で、ローマに住むオドアルド・ファルネーゼ枢機卿に譲られる。(そして、アゴスティーノ・カラッチ作品のモデルとなる。)
エンリコは、パルマ公家から経済的な支援を受け、1602年にイタリア人女性と結婚し、市民的な生活を築こうと努める。後に、ローマの北方にあるボルセーナ湖畔の小村に移り、家族を呼び寄せ、4度の結婚をし、商売(主に高利貸し)により地元の有力者になったという。
エンリコの弟・オラツィオもオドアルドに仕えたことが知られているが、早世したらしい。
また、パルマでは、娘の一人アントニエッタが当地の貴族ソラーニャ侯爵夫人に贈られる。
アントニエッタは、侯爵夫人に連れられてボローニャを訪問した折、アルドロヴァンディの診察を受けている。1594年のことで、当時8歳であったらしい。診察結果は、アルドロヴァンディの没後、弟子たちにより刊行された『怪物誌』に記される。「鼻と口以外の顔全体に長い毛が生えていること、背中にもほぼ全面に黄色い毛が生えていること」が記されているらしい。
さて、ラヴィニア・フォンターナの作品。
フォンターナは、1552年ボローニャ生まれで、当地で活動していた女性画家。高名な画家である父プロスペロ・フォンターナから絵画の手ほどきを受け、1580年代には画家として成功を収めている。
西洋美術史で初めて職業画家として成功した女性とされ、18世紀以前に活動した女性画家のなかでは最多の現存作品が知られているという。
1603/04年にローマへ移り、美術アカデミーであるアカデミア・ディ・サン・ルカの会員となっている。
1594年のボローニャ訪問時、アントニエッタとフォンターナは対面したのだろうか、そして中野京子氏の著書『画家とモデル』で記されたようなドラマはあったのだろうか(ニューリリースには、「この絵も同じボローニャ訪問時になされた素描をもとにして描かれたのであろう」とある)。
本作品が愛らしく、好ましい肖像画であることは確か。
ブロワ城美術館所蔵作品の図版と比べて、本作品のほうが愛らしいように感じる。
(ブロワ城美術館所蔵作品の少女は、本作品よりも年上で、落ち着いている感。)
上:ブロワ城美術館所蔵作品
下:国立西洋美術館所蔵作品
国立西洋美術館は、新たな少女像の名品を手に入れたようである。
【参照】
・『アルチンボルド展』図録、2017年、国立西洋美術館
・国立西洋美術館ニュースリリース(2024年9月11日付)