![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/79/3a/4e0b9cd8d8942c6dca09052ab2ea6fec.jpg)
2024年9月14日から公開開始。
どこがトロンプ・ルイユ(だまし絵)?
ルイ=レオポルド・ボワイー(1761-1845)
《トロンプ・ルイユ:クリストフ=フィリップ・オベルカンフの肖像》
1815年、43.5×32cm
国立西洋美術館、2024年度購入
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3a/dc/3547a73d9f76e4ef23e5cfac7964238e.jpg)
版画を模倣して描いた油彩画。一見すると版画のように見えることを狙っているという。
近くにいた若い男性二人組から「最初から版画にすれば」との言葉。「だまし絵」には「意外性」を期待する私も、そう言いたくなる。たいへんな技術と苦労に割に、評価されることが少なそうな作品。角に折れ目があるとか、シワがあるとか「だまし絵」だという手がかりがあれば、印象は違ってくるかもしれない。
まあ、絵画作品は、三次元のものを二次元に写したもの、すべてが「だまし絵」のようなものなのだろうけれども。
ルイ=レオポルド・ボワイーは、初めてその名を認識する画家。
国立西洋美術館のニュースリリース(2024年9月11日付)の画家説明。
革命期から七月王政期のフランスにおいて、おもに中産階級に属するパリ市民の多彩な風俗や肖像を描き、サロンで人気を博した画家、版画家。
確かな写実的描写力を備えながら、イメージの遊戯性に富んだ作品を数多く制作した。彼が1800年のサロン出品作につけたタイトルは、フランス語で「トロンプ・ルイユ(trompe-l’œil)」という呼称の起源としても知られる。
「目を騙す、錯覚を起こさせる」という意味のフランス語「トロンプ・ ルイユ」を、美術分野に定着させる契機となったことで、西洋美術史上、特記すべき画家なのだろうか。
以下、ルイ=レオポルド・ボワイーの「トロンプ・ ルイユ」作品。
ルイ=レオポルド・ボワイー
《窓辺の少女》A Girl at a Window
1799年頃、ロンドン・ナショナル・ギャラリー
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本作も版画を模した作品のようだ。
ルイ=レオポルド・ボワイー
《ガラスの割れた肖像画》
1805-10年頃、サンドラン美術館、サン=トメール
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版画を模した油彩画だが、加えて、表面のガラスが割れているという仕掛けも。
ルイ=レオポルド・ボワイー
《トロンプ・ルイユ》
18世紀末-19世紀初頭、ルーヴル美術館
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/23/37/f05c771478362828054aec649115d4ad.jpg)
ルイ=レオポルド・ボワイー
《トロンプ・ ルイユ:コイン》
1810年頃、リール市立美術館
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/18/ba/c9321db1185f2f700e3603bb91578e92.jpg)
ルイ=レオポルド・ボワイー
《various objects》
1785年頃、クラーク美術館(ウィリアムズタウン)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/44/d6/e0f57aa5b1028aa40640cfd5cc22fcd2.jpg)
ルイ=レオポルド・ボワイー
《trompe-l'oeil avec un chat et une bûche de bois à travers une toile》
個人蔵
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2022年には、パリのコニャック・ジェイ美術館(18世紀の美術品で知られるらしい)において、ボワイーの回顧展が開催されている。
また、来月(2024年10月)から、パリのマルモッタン・モネ美術館において、「トランプ・ルイユ」展が開催予定であり、ボワイーの「トランプ・ルイユ」作品も何点か出品されるようである。
さて、国立西洋美術館の2024年度購入作品。
国立西洋美術館は、前記事のラヴィニア・フォンターナ《アントニエッタ・ゴンザレスの肖像》、本記事のボワイー《トロンプ・ルイユ:クリストフ=フィリップ・オベルカンフの肖像》のほかに、次の2点を購入していることを公表している。
ビアージョ・ダントニオ・トゥッチ(1446-1516)
《聖母子と幼児洗礼者聖ヨハネ》
フェーデ・ガリツィア(1578-1630)
《ホロフェルネスの首を持つユディト》
前者はルネサンス時代のフィレンツェの画家、後者は17世紀初頭のミラノで活躍した女性画家。
展示時期は決まり次第お知らせするとのことだが、今から楽しみ。
政府調達の落札情報一覧(下記アドレス)によると、7441万2000円とのことで、フィレンツェ派のルネサンス絵画としては、それほど高額な絵ではないようです。
https://procurement3.blog.jp/archives/88883311.html
西美の広報(下記アドレス)を見ても、簡単な紹介文だけで写真が出ていないので、どのような作品か分りません。
https://www.nmwa.go.jp/jp/information/pdf/20240911_press.pdf
グーグルの画像検索でビアージョ・ダントニオ・トゥッチを調べると、画像の6番目にモノクロ写真でそれらしい絵が出ています。「聖母子と洗礼者ヨハネ」はこの1枚しか出ていないのですが、そのサイト(Feel The Art)を開いても画像は表示されないので、これ以上は分りません。「ビアージョ・ダントニオ」で検索しても同様でした。
ウィキペディアでビアージョ・ダントニオを引くと、1446~1516年となっているので、ボッティチェリと同世代(1~2歳下)です。解説には「フィリッポ・リッピ、ヴェロッキオ、ドメニコ・ギルランダイオの影響」とあり、まさに彼らの亜流、周辺画家と感じます。(ウィキに写真が出ている「ダントーニオの聖母」は、2年前に都美スコットランド美術館展で来日したヴェロッキオ?作のラスキンの聖母とよく似ていると思います。)上記の「聖母子と洗礼者ヨハネ」の絵はFEDERICO ZERIのオンラインカタログではThe Walters Art Museumの所蔵となっています。
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/15381/
(投稿規制の関係でitをjpに変えていますので、itに戻してご確認ください。以下同様)
ZERIのカタログでビアージョ・ダントニオの絵を順に見ていくと、他に同じテーマでは下記6点が出ています。
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/110155/
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/15260/
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/15259/
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/15388/
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/15470/
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/15252/
Walters Art Museumの絵に近いものや作風がかなり違うものなどがいろいろあります。ウォルターズ美術館の絵から数えて3番目(15260)と4番目(15259)はフランスの美術館ですから、西美の購入品の可能性はそれ以外ということになると思いますが、既に美術館の所蔵となっているこれらの3点は出来がいい作品と感じます。さて、西美はどの絵を買ったのか、公開までのお楽しみということにしておきます。
中央公論美術出版の美術家列伝 第2巻(2020年)はヴェロッキオやボッティチェリを含む巻ですが、ヴァザーリはビアージョ・ダントニオを独立の項目としては取り上げていません。確認した範囲ではヴェロッキオの項目P614に出てくる「フィレンツェのサン・ドメニコ女子修道院のための祭壇画」の注釈29(P621)に、「(この絵は)ブダペスト国立美術館の『聖母子と二人の天使と五人の聖人』と考えられ、Coviはビアージョ・ダントニオの作と考えている」とあるのがビアージョ・ダントニオに言及した唯一の部分でした。なお、このDario A Coviの著書「ANDREA DEL VERROCCHIO LIFE AND WORK」(2005年)はコピーを持っているので、そのうちこの絵に言及した部分を読もうと思っています。掲載図を見るとブダペストの絵の聖母の横顔やウフィッツイにある婦人の素描の横顔はヴェロッキオの作品にかなり近いものであると感じます。
なお、ZERIのカタログでビアージョ・ダントニオの作品(帰属等を含む)は下記URL参照。140点ぐらいの絵が掲載されています。ブダペストの絵は1ページの9番目です。(itをjpに戻してください)
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/ricerca.v2.jsp?decorator=layout_resp&apply=true&percorso_ricerca=OA&sortby=LOCALIZZAZIONE&batch=10&view=list&locale=it&fulltextOA=Biagio+d%27Antonio
その他の手持ち資料でビアージョ・ダントニオに触れていたものとしては、「ヴェロッキオ、クレディ作『ピストイア祭壇画』の問題」(江藤匠 美術史155号2003年)がありました。この中ではビアージョ・ダントニオの作品3点を取り上げ、「ヴェロッキオ工房の一人、ビアージョ・ダントニオもファン・エイクの風景表現を引用している」、「(ビアージョ・ダントニオのブダペストの絵は)ピストイア祭壇画の直接的な前段階をなす作例」と書かれています。
ビアージョ・ダントニオ・トゥッチは、ヴェロッキオ工房ではロレンツォ・ディ・クレディの少し前の頃に、師匠のヴェロッキオに近い絵を描いていた画家ということになりますが、ヴァザーリが取り上げていないぐらいなので、あまり人気があった画家とは言えないようです。フィリッポ・リッピの周辺には、リッピとよく似た絵を(リッピ公認で)描いていた現在では名前が分からない画家(仮名:偽ピエルフランチェスコ)がいたことが知られていて、10年ぐらい前のルネサンス関係の美術展(上野か渋谷)でもその内の1点が出品されていました。我々が知らないだけで、このぐらいのレベルの画家はフィレンツェ周辺にもかなり大勢いたのだと思います。
コメントありがとうございます。
ビアージョ・ダントニオ・トゥッチについていろいろと教えてくださり、ありがとうございます。今まで名を聞いた記憶のない画家ですが、作品を実見してから調べようと思っていたので、貴重な予習情報となります。
ボッティチェリと同世代で、ヴェロッキオ工房にいた、ヴァザーリが取り上げていない、フィレンツェ美術の裾野をなした多数の画家の一人、というところでしょうか。
購入価格は、ルイ=レオポルド・ボワイー作品より高いですが、ラヴィニア・フォンターナ作品と比べると6分の1程度。
国立西洋美術館の購入作品の予想、参考になります。15388でしょうか。
公開が楽しみですが、私的には、フェーデ・ガリツィア作品をより楽しみにしています。ネットでおそらくこれというのを見つけましたが、ボルゲーゼ美術館やリングリング美術館所蔵作品とは異なる図像のようです。
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/ricerca.v2.jsp?view=list&batch=10&sortby=LOCALIZZAZIONE&page=1&decorator=layout_resp&apply=true&percorso_ricerca=OA&locale=it&fulltextOA=Fede+Galizia
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/47485/
https://catalogo.fondazionezeri.unibo.jp/scheda/opera/47504/
47485はミラノのプライベートコレクション、47504はローマのボルゲーゼ美術館所蔵なので、47485の方でしょうか。ウィキペディアにカラーで出ている絵(リングリング美術館)はZERIのカタログに出ていません。また、このウィキの解説に出ている「その他のバージョン」の絵もZERIカタログに出ていません(ここまでで計4点)。この絵か47485のどちらかでしょうか?
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Judith_with_the_head_of_Holofernes.jpg
コメントありがとうございます。
リングリング美術館所蔵作品は、ZERIのカタログには掲載されていませんね。美術館のサイトには掲載されています。
https://emuseum.ringling.org/objects/24553/judith-with-the-head-of-holofernes#
私の予想する国立西洋美術館の購入作品は、以下リンク先のものです。
ZERIのカタログには掲載されていないようです。
https://www.robilantvoena.com/art-work/judith-with-the-head-of-holofernes-lCY?exhibition=ahead-her-time
リングリング美術館所蔵作品と並べると、対抗試合をしているような感じですが、リングリング美術館が優勢でしょうか、実物からどんな印象を受けるのか今から楽しみです。
コメントありがとうございます。
楽しみです。次期の常設展、2025年3月頃には公開してくれるといいですが、額新調とか修復作業とかあるのかも。
国立西洋美術館の所蔵する女性作家の作品を確認すると、ずいぶん少ないことを知りました。
漏れもあるでしょうが、油彩・彫刻作品で気づいた範囲だと、8作家8点。
ヴィクトリア・デュブール(松方コレクション)
マリー=ガブリエル・カペ(2001年購入)
アンゲリカ・カウフマン(2015年購入)
ベルト・モリゾ(2017年購入)
ローラ・ナイト(旧松方コレクション、2017年購入)
カミーユ・クローデル(2021年購入)
ラヴィニア・フォンターナ(2024年購入)
フェーデ・ガリツィア(2024年購入)
新収蔵のフェーデ・ガリツィアを除き、7点とも現在展示中とフル稼働の雰囲気。
素描や版画だと、マリー=ジュヌヴィエーヴ・ブリアール、メアリー・カサット、ローランサン、ケーテ・コルヴィッツ、パウラ・モダーゾーン=ベッカー、ヴァラドンがあります。
ちょっと冒険してでも、女性画家の作品を収集したいというのがあるのかなと思いました。