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椿椿山展
軽妙淡麗な色彩と筆あと
2023年3月18日~4月16日
板橋区立美術館
後期を訪問し、楽しく見る。
前期の未見を惜しく思うほど。
椿椿山(つばきちんざん)。
その名を記憶していたのは、「椿」が重なるところが引っかかったのだろう。
画家については全くイメージがなかった。
江戸後期の文人画家。
1801年江戸生まれ、1854年没。
渡辺崋山(1793-1841)の弟子。
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「椿山と言えば、ずばり花鳥画です。」
椿山の花鳥画は人気が高かったらしい。
椿山は花鳥画の制作に注力し、現存する作品のなかでも花鳥画の数は圧倒的であるという。
椿山の作品は「くせがない」と言われます。
椿山の色彩のグラデーションのつけ方、淡い色調の繊細さは見れば見るほど美しいので、そのあたりもじっくり楽しんでいただきたいと思います。
ただ、私の関心は、花鳥画ではなく、もっぱら肖像画に向かう。
「肖像画も得意、とことんこだわります!」
師の渡辺崋山は、陰影法など西洋の画法を用いて迫真的な肖像画を生み出したが、椿山は、その技法を受け継いだうえて、穏やかな雰囲気をまとった作品を展開していった、とのこと。
崋山筆の肖像画と言えば、東博所蔵の国宝《鷹見泉石像》が浮かぶ。
椿山筆の肖像画は、イメージなかったが、これが見応え大。
椿椿山
《伝平山子龍像》
1833年、田原市博物館
兵学者・武術家の平山子龍(1741-1828)。
口元の複雑に入り込んだ皺や、瞼のイボ、伸び切った眉毛などに、ありのままの像主を描こうととする意思が伺える。
なお、本作の像主については、子龍の自画像などと顔の特徴が異なることから、再考が必要とのこと。
椿椿山
《大橋淡雅像》
江戸時代19世紀、栃木県立博物館
栃木の富商で、文化人のパトロンであった大橋淡雅(1789-1853)。
顔の所々に朱が施され、血色の良い裕福そうな風貌。
椿椿山
《佐藤一斎像画稿》
江戸時代19世紀、東京藝術大学
幕府の儒官で儒者の佐藤一斎(1772-1859)。
隣展示の完成作(七十歳の像)の下絵。
眼光の鋭さが印象的。
なお、華山も、一斎の五十歳の像を描いている。
椿椿山
《佐藤一斎(七十歳)夫妻像》
1841年、東京国立博物館
7歳年下の妻の像との双幅。
顔のところどころにあるテンは、画面の汚れかと思ったら、どうやら克明にシミを描いたものらしい。
視線を落とした姿の妻は、この時代の夫妻像なのだろう。
椿椿山
《佐藤一斎夫妻像(一斎八十歳)》
1851年、東京国立博物館
先の作品から10年後。
70歳から80歳へ、歳を重ねた夫妻。
眉間の皺は描かれず、口の閉じ方も緩く描かれ、10年前よりは穏やかに描かれる一斎。
シミの数は増やされる(薄くはされている)。
皺が多くなって年老いた風に描かれる妻。
視線を落とした姿は変わらない。
椿椿山
《渡辺崋山像稿》9点(重文7点)
1843年、1847年、1843〜53年頃
個人蔵、田原市博物館
華山の一周忌にあわせて制作するはずであった肖像画は、悲しみのあまり制作できず。
その後、敬愛する師の姿を写すべく、12年もの歳月をかけて試行錯誤を重ねるが、その様子が伺える画稿群。
椿椿山
重文《渡辺崋山像》
1853年、田原市博物館
十三回忌にあわせてついに完成。
その容貌は、画稿群と比べると、クセが減じた感。
その手は、だまし絵風に、画面の外に突き出しているように見せようとしているのか。
と思ったら、手は、愛用していた黒漆螺鈿の机に置いているとのことで、あくまでも画面の中の出来事。
(チラシより)
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ちなみに、前期には次の肖像画が出ている。
重文《高野長英像》奥州市立高野長英記念館
《吉村貞斎像》田原市博物館
《伝二宮尊徳像》個人蔵
《高久靄厓像画稿》文化庁保管
《高久靄厓像稿》栃木県立博物館
重文《高久靄厓像》個人蔵
《浅野梅堂母像》板橋区立美術館
《宇津木泰交肖像》個人蔵
山水画の小さなコーナーもある。
展示は5点。
重文《久能山真景図》1837年、山種美術館が、良い。
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まさに、色彩のグラデーションのつけ方、淡い色調の繊細さ、の魅力。
同じ場所・場面を描く《山海奇賞図稿》および《山海奇賞図巻》との違いを見比べるのも面白い。
椿山は、花鳥画に注力したため、山水画の制作は画業の初期に限られること。
本展は、田原市博物館の特別協力。
田原市博物館は、愛知県の渥美半島に位置し、豊橋市に隣接する田原市に所在する。
渡辺崋山や田原藩に関連する作品や資料を収蔵しているとのこと。