ポーラ美術館コレクション選
2023年7月15日〜12月3日
ポーラ美術館
「ポーラ美術館コレクション選」鑑賞のその2。
展示室4の新収蔵作品メアリー・カサット《劇場にて》のお披露目展示の次は、展示室5へ。
今回のお目当て作品が登場する。
ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)
《陽光の中で読書する女性、ストランゲーゼ30番地》
1899年、46.2×51.0cm
近年の収蔵。
本作品は、2008年の国立西洋美術館での大回顧展「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」に出品されているが、そのときは「個人蔵」と表記されていた。
ハマスホイは、1898年から、家主の建物売却により退去せざるを得なかった1909年まで、コペンハーゲンのストランゲーゼ30番地のアパートに住む。
そして、ストランゲーゼ30番地を舞台とする室内画を繰り返し繰り返し描く。
本作品は、ストランゲーゼ30番地に引っ越した翌年に制作されており、「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展覧会図録掲載の佐藤直樹氏の論文によると、「この作品こそが、彼のその後の画業を方向付ける転換点となった」という。
ハマスホイは、17世紀オランダ絵画に着想を得て、本作品を制作する。
具体的には、当時はピーテル・デ・ホーホの作とされていた、ミュンヘンのアルテ・ピナコテーク所蔵のピーテル・ヤンセンス・エリンガ《読書する女性》を参照している。画家はその複製写真を所有していたという。
【参考(展示作品ではない)】
ピーテル・ヤンセンス・エリンガ(1623-82)
《読書する女性》
1665-70年頃、75.5×63.5cm
アルテ・ピナコテーク、ミュンヘン
読書する女性の姿勢は、エリンガ作品の女性の姿勢とほぼ一致している。
(なお、女性のモデルは、作品に多く描かれる妻イーダではなく、母フレゼレゲであるようだ。画家の母親は息子の画家としての活動に多大な関心を抱いていて、定期的に画家の住居を訪れていたという。)
女性の身に着けている頭巾や開かれた本、窓の構造と壁に掛かった額絵までもエリンガ作品と一致している。
しかし、エリンガ作品に見られる、脱ぎ捨てられた靴や果物の入った鉢といった逸話的要素は排除されている。
(上述展覧会図録の作品解説より)
窓から差し込む陽光が床に落ちる。
反射で部屋全体にやわらかな光が行き届く。
えらく広い住居だなあ、とも思いつつ、ハマスホイ独自の世界を楽しむ。
ハマスホイ作品を所蔵する日本の美術館は、現時点では他に、1点を所蔵する国立西洋美術館のみ。
国立西洋美術館の《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》は1910年に制作した、ストランゲーゼ30番地を転居した後2番目の住居ブレスゲーゼ25番地を舞台とする室内画。
ポーラ美術館の作品は、ハマスホイの世界が確立したストランゲーゼ30番地を舞台とする室内画ということで、貴重な存在と言えるだろう。
展示室5では、ハマスホイのほか、ベルト・モリゾ、ルノワール、スーラ、セザンヌ、ピカソ、モディリアーニ、マティスなどが展示。
以下、特に見た作品。
クロード・モネ(1840-1926)
《睡蓮の池》
1899年、88.6×91.9cm
クロード・モネ
《睡蓮》
1907年、93.3×89.2cm
ゲルハルト・リヒター(1932-)
《抽象絵画(649-2)》
1987年、200.7×200.8cm
リヒター作品は、2020年に香港のサザビーズのオークションにて、約27百万ドルで落札した作品。
駆け足で何が展示されているか確認する程度で済ませた「シン・ジャパニーズ・ペインティング 革新の日本画 - 横山大観、杉山寧から現代の作家まで」展だが、岸田劉生の次の2点は急ぎ撮影しておく。
岸田劉生
《麗子坐像》
1919年、72.7×60.7cm
岸田劉生
《狗をひく童女》
1924年、60.6×30.9cm
麗子像の、硬くこわばった面持ちと、ひまわり柄の赤い着物の濃厚さに見入る。
こうして予定どおり約45分にてポーラ美術館を退館する。
次は、森の遊歩道を含め、ポーラ美術館をじっくり鑑賞したい。