地獄絵ワンダーランド
2017年7月15日~9月3日
三井記念美術館
今年の夏は、地獄絵の夏。
妖怪・幽霊絵とは違った魅力の地獄絵を楽しもう。
後期入りした「地獄絵ワンダーランド」展、前期に引き続き訪問する。
この展覧会の魅力の一つは、冒頭で、21世紀制作の水木しげる氏の絵本原画により、地獄の姿を学ぶことができること。
最初から古美術が登場して、しかめ面しながらその古い作品とその解説に向き合う構成よりも、地獄の表現世界の鑑賞ポイントがすっと掴める。
展示室1の2013年刊行の『水木少年とのんのんばあの地獄めぐり』の原画13点(通期展示)で、地獄の世界を復習してから、さあ、古美術による地獄の世界へ。
【復習内容】
奪衣婆
閻魔大王
地獄その1 等活地獄
地獄その2 黒縄地獄
地獄その3 衆合地獄
地獄その4 叫喚地獄
地獄その5 大叫喚地獄
地獄その6 焦熱地獄
地獄その7 大焦熱地獄
地獄その8 阿鼻叫喚地獄
展示室2には、源信(942年-1017年)著『往生要集』3冊が鎮座する。日本における地獄を含む六道の姿を決定づけ、千年にもわたって日本人の生活・精神構造の根底にありつづけ、脅しの道具を提供してきた、恐るべし書籍である(全6冊で、前後期3冊ずつ展示)。
展示品は、現存最古の完本とされ、中国に送られ賞賛されたという内容の手紙が掲載された、鎌倉時代・1253年の龍谷大学図書館所蔵の「遣宋本」「建長五年版」。
岩波日本思想大系『源信』や岩波文庫本の『往生要集』の底本となっているものだという。
以下、六道絵、地獄絵など、印象に残る作品を記載。
六道・地獄の光景
重文《六道絵》6幅
中国・南宋〜元時代
滋賀・新知恩院
後期展示
中国で描かれた六道絵としては遺例がないとのこと。
六道(地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人・天)のなかでは、2幅目の《餓鬼》の餓鬼たちの冷静な描写が印象的。ガリガリの餓鬼たち。腹が異様に膨れた(というか、腹に大きな塊がくっついた)3餓鬼、身体中が白い毛に覆われた1餓鬼、何を押さえているのかよく分からないが鼻の辺りを両手で押さえる1餓鬼、顎か首の辺りにくっついているらしい異様に大きな塊を両手で支える1餓鬼。
本作は、京都の知恩院にあったが、応仁の乱時に知恩院が炎上し、現在地に疎開されたという。
《六道絵》6幅
江戸時代
兵庫・中山寺
江戸時代
兵庫・中山寺
前後期3幅ずつ出品の中山寺所蔵《六道絵》。
大きな画面に、六道(地獄・餓鬼・畜生・阿修羅・人・天)が展開される。
山のなかの地獄
《立山曼荼羅》1幅
江戸時代
三重・大江寺
後期展示
地獄のイメージが定着すると、その様相は他の様々なジャンルの説話画に飛び火して行きました。日本では修験道に代表される山岳宗教が発達するとともに、山中に極楽や地獄が説かれるようになりました。立山曼荼羅はその代表的なものです。(本展サイトより)
この大画面の「立山曼荼羅」は、地獄や施餓鬼法要の図様が大きく、立山開山縁起や阿弥陀聖衆の来迎がかなり省略されているため、立山信仰への理解が乏しい在地の絵師により制作されたと考えられているとのこと。
地獄絵ワンダーランド
葛飾区指定文化財《地蔵・十王図》
江戸時代
東京・東覚寺
通期展示で、13幅中10幅の出品。前期に引き続き後期も「へたうま」絵を楽しめるのは嬉しいこと。4幅に登場する「白装束でベールを被った女性」、キリシタンのように見えるが、キリシタンのわけはなく、一体なんなのでしょう?という解説がやっぱり気になる。
《十王図》8曲1隻
江戸時代
日本民藝館
後期展示
素朴絵の王者、とも言うべき、とんでもない「十王図」。この稚拙さ・・・。2013年の日本民藝館「つきしま かるかや」展以来の再見。地獄絵というのは、絵の巧拙にかかわらず、逆に素朴/稚拙であるがゆえに、一層効果が出る、というものなのかもしれない、と当時思ったことを思い出す。
《地獄極楽変相図》1幅
白隠筆
江戸時代
静岡・清梵寺
後期展示
中央に地獄の主である閻魔大王が座し、罪人を取り調べて裁きを下す。そのまわりには様々な地獄の責め苦の場面が描かれる。この絵は地蔵会の参詣者に対して絵解きをして説法をするために用いられたと思われるが、それぞれの場面名が入るはずの短冊形の枠内は、未完で終わっている。所蔵の清梵寺では、毎年7月の地蔵尊縁日の際、本図が掛けられるが、寺外で公開されるのは今回が初めてである。(2012-13年、Bunkamura「白隠展」サイトより)
それで、後期からの出品なのか。
最後の章は「あこがれの極楽」で、後期は5点。ただ、これだけ地獄の濃厚な表現世界を味わった後だと、極楽の表現世界には興味薄になってしまっている、のは前期と同じ状態。
以上、地獄絵の世界を堪能する。
本展は、京都の龍谷ミュージアムに巡回する。