東京でカラヴァッジョ 日記

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「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」のレンブラント

2010年05月09日 | 展覧会(西洋美術)

「ボストン美術館展 西洋絵画の巨匠たち」展を再訪しました。

今回は、気に入ったあるいは気になった作品に絞っての鑑賞としましたが、最も長くいたのが、最初の部屋。
レンブラントの全身肖像画1対。ベラスケスとマネの肖像画の競演。
私としては、入場即、本展のクライマックスです。

全身肖像画は、胸像や半身肖像画と比べて値が張るため注文が少なかったとのこと。
また、肖像画の注文主に全身像はそれほど必要がなく、重要なのは常に顔であり、ステータスや階級を暗示すれば事足りたということらしい。
そのため、レンブラントでも2点1対の全身肖像画は3対しか残さなかったとされています。今回はその貴重な1対が展示されているというわけです。

以下では、レンブラントの全身肖像画について手元の画集に基づき確認したいと思います。

<今回展示:ボストン美術館(1634年)>
・夫:Johannes Elison (53歳) 173.0cm×124.0cm
・妻:Maria Bockenolle(?) 176.5cm×124.0cm

他の2対は、以下と思われます。
<パリ個人蔵(1634年)>
・夫:Maerten Soolomans(21歳) 209.8cm×134.8cm
・妻:Oopjen Coppit(23歳)  209.4cm×134.3cm

<ロンドン、ウォレス・コレクション(1634年)>
・夫:Jan Pellicorne(37歳)とその息子  155.0cm×122.5cm
・妻:Susanna van Collen(28歳)とその娘 155.0cm×122.5cm

全て1634年制作となっています。

そのほか、全身肖像画ですが、対の作品でないものが1点ありました。
<カッセル美術館(1639年)>
・男:Andries de Graeff(28歳) 200.0cm×124.2cm
  ※本作は、2002年京都国立博物館の「大レンブラント展」(すばらしかった!)に出品。

また、1枚に夫婦が描かれているものも1点ありました。
<ボストン、イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館(1633年)>
・夫:Jan Pietersz.Bruyningh (34歳) 131.5cm×106.5cm
・妻:Hillegont Pieters Moutmaker(34歳)

手元の画集は、その謳い文句からレンブラント作品の全てではなくとも相当程度カバーしていると思われるので、私の見落としはあるかもしれませんが、概ねこんな状況と思われます。確かに、胸像や半身肖像画に比べると、極端に少ないです。

全身肖像画が高価な理由はそのサイズにもあるのではないか。そこでいくつかの半身肖像画のサイズを確認します。半身肖像画は晩年まで描かれていますが、ここでは1634年前後制作のものを見ます。
<ニューヨーク、フリック・コレクション(1631年)>
・男:Ncolaes Ruts(58歳) 116.8cm×87.3cm
<アムステルダム国立美術館(1635年)>
・男:Johannes Wtenhogaert(78歳) 132.0cm×102.0cm
<カッセル美術館(1633年)>
・男:Jan Hermansz.Krul (32歳)128.5cm×100.5cm
<ニューヨーク、メトロポリタン美術館(1632年)>
・夫:不明 111.8cm×88.9cm
・妻:不明 111.8cm×88.9cm
<ロンドン、クイーンズ・ギャラリー(1633年)>
・夫婦:Jan Rijksen(73歳)Griet Jans(73歳) 114.3cm×168.9cm

1枚に夫婦を描いたロンドン作品は別ですが、概ねサイズは小さくなります。

この時代になぜかしらオランダで大流行した集団肖像画。ちなみにそのサイズを見ると。
<ハーグ、マウリッツハイス美術館>
・テュルプ博士の解剖学講義(1632年) 169.5cm×216.5cm
<アムステルダム国立美術館>
・夜警(フランス・バニング・コック隊長の市警団)(1642年)363cm×437cm
・ヨアン・デイマン博士の解剖学講義(1656年) 100cm×134cm(ただし、1723年の火災により全体の5分の4を焼失後のサイズ)
  ※本作は、2002年京都国立博物館の「大レンブラント展」に出品。
・アムステルダムの織物商組合の見本調査官たち(1661年)191.5cm×279.0cm

サイズは、さすがに全身肖像画よりは大きいですが、注文主の都合(スペース、懐具合等)によるのでしょうか、まちまちです。

全身肖像画の制作は若い一時期に集中しているのに対して、相対的にコストを抑えられただろう半身肖像画や割り勘であろう集団肖像画の製作ならば晩年まで行われています。
オランダの政治・経済情勢が影響し、需要者の財布のひもが固くなったことが想像されます。それでも全身肖像画の欲しい人は、値が張る巨匠レンブラントではなく、他の画家に注文したということなのでしょう。



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