東京でカラヴァッジョ 日記

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ベラスケス、レンブラント、ラファエロ - 「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」展(東京都美術館)

2022年04月28日 | 展覧会(西洋美術)
スコットランド国立美術館
THE GREATS 美の巨匠たち
2022年4月22日〜7月3日
東京都美術館
 
 本展のお目当ては、ベラスケスの初期作品、レンブラントの女性像およびラファエロの素描であるが、それ以外にも興味深い作品が多数出品されていて、大いに楽しむ。
 
【本展の構成】
プロローグ ー スコットランド国立美術館
1.ルネサンス
2.バロック
3.グランド・ツアーの時代
4.19世紀の開拓者たち
エピローグ
 
 
 以下、ルネサンスおよびバロックの章(B1フロア)で、特に楽しんだ作品を挙げる。
 
 
1章 ルネサンス(素描7点、油彩5点)
 
ラファエロ(1483-1520)
《「魚の聖母」のための習作》素描
1512-14年頃、25.8×21.3cm
 
 聖母子の左側に、大天使ラファエルと「魚」を持つトビア。
 右側に、聖ヒエロニムスとライオン。
 プラド美術館所蔵の同名の油彩画の習作であるらしい。
 
〈参考〉プラド美術館所蔵の同名の油彩画
 
 
コレッジョ帰属(1489-1534)
《美徳の寓意(未完)》
1550-60年頃、100×83cm
 
 画面中央の主役の知恵の女神アテナのみが着色なしで残る。
 コレッジョは、マントヴァのゴンザーガ家の注文により、対作品《美徳の寓意》&《悪徳の寓意》を制作(1531年頃、ともにルーヴル美術館蔵)。
 本作は画家とは別人による後年の複製であるようだ。
 
〈参考〉ルーヴル美術館所蔵《美徳の寓意》
 
 
ヴェロッキオ帰属(1435頃-88)
《幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)》
1470年頃、106.7×76.3cm
 
 背景の廃墟と化した古代建築が印象的な作品。
 ローマの寺院がキリストが生まれたとき崩壊したという伝説に基づくもので、古い宗教に対する新しい宗教の勝利を象徴しているという。
 本作は、19世紀英国の美術評論家ジョン・ラスキン旧蔵とのこと。
 
〈参考〉ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵のヴェロッキオ《トビアと天使》
*このLNG作品の最後に付け加えられた魚と犬は、当時ヴェロッキオの弟子であったレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた可能性があるという。
 
 
 
エル・グレコ(1541-1614)
《祝福するキリスト(「世界の救い主」)》
1600年頃、73.0×56.5cm
 
 右手を挙げて祝福のポーズをとり、世界を表す水晶の球体の上に左手を置くキリストの半身像「サルバトール・ムンディ(救世主としてのキリスト)」。
 白のハイライトの効果が印象的な作品。
 キリストと十二使徒の連作の一部である可能性があるという。
 
 
 
2章 バロック(油彩9点、素描・水彩7点)
 
アダム・エルスハイマー(1578-1610)
《聖ステパノの石打ち》
1603-04年頃、34.7×28.6cm
 
 ドイツ・フランクフルト生、1600年頃にローマに来て、1610年にローマで没、つまり、カラヴァッジョと同時代にローマに滞在し活動した画家。
 若くして亡くなったこと、遅筆であったことで、現存作品は40点ほどとされる。
 本作は、銅板に描かれた油彩画。
 頭部より細い滝のごとく血を流す聖ステパノ。
 石を頭上にあげて振り下ろそうとする若者の、踵をあげ、垂直に身体を伸ばし切った姿が印象的。
 
 
ベラスケス(1599-1660)
《卵を料理する老婆》
1618年、100.5×119.5cm
 
 ベラスケスがマドリードに出る前、故郷セビーリャで活動していた画業初期、18〜19歳のときのボデゴン(厨房画)。
 本作を画像で見ていたときは、卵(白身に火が通って固まりつつある)や果物、陶・金属・ガラスなどの器の描写に惹かれていた。
 実物では、それらより、老婆の容貌、彼女が手に持つ木のスプーン、彼女のその手、火鉢の描写が目に入ってくるのは意外。
 見応えのある作品。
 まさか日本にいながらにしてこの作品を観ることができるなんて、再訪してもう一度じっくりと眺めたい。
 
〈参考〉ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵のベラスケスのボデゴン《マルタとマリアの家のキリスト》
*2020年の国立西洋美術館「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」に出品されたこの作品も実に素晴らしかった。
 
 
レンブラント(1606-69)
《ベッドの中の女性》
1647年、81.1×67.8cm
 
 旧約聖書の「トビト記」の登場人物、トビトの息子トビアの妻となるサラを描いたものだという。
 結婚初夜に新郎を7度悪魔アスモデウスに殺されたサラが、新たな夫トビアと悪魔の戦いを見守る場面と考えられているとのことだが、そうだと特定できる要素は全く見当たらない。
 トビアは、旅の同行者(大天使)に言われたとおり、旅の途中で取った魚の内臓を香炉に入れて焚いたところ、悪魔は部屋から逃げ出し、最後は大天使が悪魔を幽閉したという話。
 
〈参考〉アムステルダム国立美術館所蔵のレンブラント《トビトとアンナ》
*「トビト記」を主題とするレンブラント作品としては、私的には画家20歳頃制作のこの作品を思い起こす。
 
 
グイド・レーニ(1575-1642)
《モーセとファラオの冠》
1640年頃、132.2×172.7cm
 
 ファラオの王女に引き取られ、王宮で育てられる幼児モーセ。
 ファラオが戯れにモーセの頭に王冠を載せたところ、モーセはこれを床に投げ捨て、踏みつける。
 本作は、その直前の場面。
 この王冠は、モーセの頭・体より大きく、頭に載せようとしても体を通り抜けて床に落ちてきたであろう。
 
 
 
 3章・4章は後日に別記事にする(たぶん)として、ここではエピローグも記載する。
 
 
エピローグ(油彩1点)
 
フレデリック・エドウィン・チャーチ(1826-1900)
《アメリカ側から見たナイアガラの滝》
1867年、257.5×227.3cm
 
 ハドソン・リバー派のアメリカ人画家の作品が本展を締める意外性。
 本作は、スコットランドの貧しい家庭で生まれ、アメリカで成功し財を成した実業家が購入し、故郷のスコットランド国立美術館に寄贈したもの。
 つまり、本作のエピローグ展示により、スコットランド国立美術館のコレクション形成は、地元の名士や市民からの寄贈、遺産の寄付金などによって支えられてきたことを示そうとしたもの。
 John Stewart Kennedy(1830-1909)が1887年に寄贈。
 このパネルは「原寸大」とのこと。
 
 
 
 本展は、神戸市立博物館と北九州市立美術館を巡回する。


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