ベルギー 奇想の系譜展
2017年7月15日~9月24日
Bunkamuraザ・ミュージアム
ボス風の16世紀ネーデルランド美術作品をたくさん観る。
以下、ボス没後に制作されたボス風作品について記載する。
ボスは1516年に死去する。ボスが運営していた工房は、その後もしばらくの間は存続し、ボス風作品を制作していたと思われる。
ボスは人気の画家。ボスが亡くなった当時、あちらこちらの教会・修道院などにボスの作品/祭壇画が設置されていただろう。その人気にあやかろうとする模倣者たちも多数出現し、ボス風作品を制作し続ける。
しかし、ボス作品に悲劇が。
1566年のネーデルランドにおけるカルヴァン派のカトリック聖像破壊運動(イコノクラスム)により、教会や修道院などに設置されていたボス作品は、その多くが消失したものと思われる。
一方、ボス没後40年を経過した頃、版画における「ボス・リバイバル」が本格化する。
ボス風版画の制作の中心となったのは、印刷出版業者のヒエロニムス・コック(1518-1570)。後の大巨匠ブリューゲルもコックに委嘱され、ボス風版画の下絵を多数提供している。16世紀末に近くなる頃まで、こうしてボス風作品が制作し続けられたようだ。
さて、本展出品作のうち、制作者名の記載がある作品について。
ヤン・マンデイン
1500年頃生-1559年没
・ハールレム生まれ。1530年頃にはアントワープで活動。
《聖クリストフォルス》
制作年不詳、油彩
ド・ヨンケール画廊
なんとも凄まじい河、これはクリストフォルスの助けがないと渡れない。
《パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑》
制作年不詳、油彩
ド・ヨンケール画廊
ピーテル・ハイス
1519年頃生-1584年没
・アントワープ生まれ。1545年に親方登録。
帰属作品
《聖アントニウスの誘惑》
制作年不詳、油彩
ド・ヨンケール画廊
ヘリ・メット・ド・ブレス
1510年頃生-1566年頃までアントワープで活動
・ディナンまたはブヴィーニュ(現ベルギー)生まれ。1535年にアントワープで親方登録。
・ボス風というより、風景画家のイメージ。なんでも、パノラマ風景画家パティニール(1480年頃-1524)の甥と考えられているそうだ。
《ソドムの火災、ロトとその娘たち》
制作年不詳、油彩
ナミュール考古学美術館
炎上する町が印象的だが、どこにロトの一家がいるのか。人物は幾つか描かれていることは確認できるものの、余りに小さ過ぎてさっぱり分からない。
ちなみに、現在大阪で開催中の「ボイマンス美術館展」でも、ヘリ・メット・ド・ブレス作品が出品されている。
《聖クリストフォルスのいる風景》
1540年頃、油彩
ボイマンス美術館
アラールト・デュハメール
1449年頃生-1505-06年没
・ボスと同時代人+同郷人。スヘルトーヘンボス生まれ。
・建築家+彫刻家として教会建築に関わるほか、ボスの構図に基づく版画作品も制作している。なお、ボス自身は一度も版画を手がけなかったとされており、その分この人がボスを普及させたのかもしれない。
アラールト・デュハメール(版画に基づく)
ヒエロニムス・コック発行
《包囲された象》
1563年頃、エングレーヴィング
プランタン=モレトゥス博物館、アントワープ
ボス・リバイバル時代に制作された、オリジナル版画のコピー作品。
ピーテル・ブリューゲル
1525-30年頃生-1569年没
・ブレダ(現オランダ)生まれ?1545年アントワープへ行き修業、1551年に親方登録。1563年ブリュッセルへ移る。
ピーテル・ブリューゲル原画
ヒエロニムス・コック発行
《聖アントニウスの誘惑》
1556年、エングレーヴィング
プランタン=モレトゥス博物館、アントワープ
現存する最初期の油彩画の制作年が1557年とされているので、それ以前の作品となる。
ボスの模倣者「第二のボス」の地位にとどまらず、その先の世界、独自の世界を確立した大巨匠のブリューゲルはやはり違う、と思わせる作品。先入観多々だけど。
上述以外の作品を含め、ボス風の油彩画・版画、ブリューゲル版画に囲まれる第1章「15-17世紀のフランドル美術」は、想像以上に楽しい一画である。 ブリューゲルの次男ヤンの油彩画やルーベンスの版画も楽しめる。