生誕150年記念
水野年方~芳年の後継者
2016年11月4日~12月11日
太田記念美術館
美術館HPより
水野年方(1866~1908)は、明治時代に活躍した、浮世絵師であり日本画家であった人物です。月岡芳年の門人として美人画や歴史画などの浮世絵を描く一方、岡倉天心や横山大観、菱田春草らとともに新しい日本画の創作を試みました。さらに、大正・昭和に活躍した日本画家・鏑木清方の師匠でもありますが、数え43歳という若さで亡くなったためか、年方の存在が顧みられることは現在ほとんどありません。
今年2016年は水野年方が慶応2年(1866)に生まれて 150年という節目の年にあたります。本展はそれを記念し、版画を中心とした年方の画業を紹介いたします。浮世絵師としての年方の全貌を探る、はじめての展覧会となります。
芳年の門下生時代の武者絵と、一人前となってからの美人画、それも癖の全くない「気品溢れる」美人画が展示の中心。
そのなかで異彩を放つのが、5点の戦争画。
芳年の門下生時代に明治17年の清仏戦争を描いた1点(本展の一番最初に展示)と、明治27〜28年の日清戦争を描いた4点である。
浮世絵の戦争画といえば、昨年やはり太田記念美で開催された「浮世絵の戦争画」展を思い起こす。幕末動乱、西南戦争、日清戦争、日露戦争が取り上げられた。
同展によると、江戸時代から長く続いた浮世絵版画が明治になって衰退していくなかで、最後の輝きを放ったのが「日清戦争の戦争画」であり、小林清親を筆頭に300点以上制作されたという。
また、同展が終了して約1年後の今年、同展をベースとした書籍『戦争と浮世絵』が洋泉社から出版されている。
インターネットでも、「西南戦争錦絵美術館」や「日清戦争錦絵美術館」、「描かれた日清戦争〜錦絵・年画と公文書〜」といった専門サイトがあるなど、相応に注目されている分野であるようだ。
戦争画の浮世絵版画界における水野年方は、それほど目立つ存在ではなかったかもしれない。
「浮世絵の戦争画」展では出品作品なし、書籍『戦争と浮世絵』の掲載は1点のみ、であることから勝手に想像しているだけであるが。
「日清戦争錦絵美術館」サイトでは9点掲示されており、少ない方ではない。
まあ、気品溢れる美人画専門の水野年方を駆り出すほど、出版業者は需要があると見込んでいたというところだろうか。
《金州城攻撃工兵小野口徳治城門破壊図》
銃弾が降り注ぐなか、しかけた弾薬を爆破させる。名もなき一兵卒の勇敢さは美談として広くもてはやされる。
《海洋島附近 帝国軍艦発砲之図》
大砲が主役。存在感を持った鉄の塊を描こうとしている。両軍ともに近代的な装甲艦を投入した黄海海戦を描くが、静的な場面である。
《安城渡大激戦松崎大尉勇猛》
日清戦争における最初の陸戦。川から現れ清軍を攻撃する日本兵。松崎大尉は日本軍初の戦死者となる。
戦争画の浮世絵版画業界は、まずはスピード勝負、現地取材はなく、資料や伝聞に基づき、過剰な演出込みで迫力ある場面を追求することで、売り上げ増を目指している。
「浮世絵の戦争画」展によると、10年後の日露戦争時は、写真の時代。浮世絵版画も刊行されるが、数は激減、この頃には浮世絵版画の歴史的役割は終焉を迎えていた。
さて、水野年方の美人画。
文芸雑誌や小説の単行本の口絵の美人画。「気品溢れる」明治の美人を描く《茶の湯日々草》《今様美人》《三井好 都のにしき》シリーズなど。私的にはそれほど興味を持てなかったため、戦争画を取り上げた次第。