東京国立博物館では、ひさびさに例年どおりのスケジュールとなる大型連休時に、特別企画「新指定 国宝・重要文化財」が開催されている。
令和6年新指定 国宝・重要文化財
2024年4月23日〜5月12日
東京国立博物館 本館特別1室・特別2室・11室
分野も所蔵者も時代も流派も全く異なる美術工芸品が、単に同じ年に国宝あるいは重要文化財に指定されたということ1点だけで、一つに集められる展覧会。
今回は、令和6年新指定(美術工芸品)の国宝6件、重要文化財36件のうち、国宝4件、重要文化財29件が展示される。
お目当て作品は、日本近代洋画としては22件目の重要文化財指定となる、次の作品。
本多錦吉郎(1850~1921)
《羽衣天女》
1890年、127.3×89.8cm
兵庫県立美術館

描かれた歴史。
西洋美術界において「歴史画」が最上位のカテゴリーとされることを踏まえ、日本の伝説・神話を題材に、西洋の技術である油彩で描く。
日本美術の名作として楽しむというより、日本美術史の史料として楽しむ作品という印象。
明治23年(1890)の第3回内国勧業博覧会の出品作。作者の本多錦吉郎(1850~1921)は、広島藩士として洋学を学び、明治時代初のヨーロッパ留学生であった国沢新九郎(1848~77)から油絵を学んだ早期の洋画家である。技法書の翻訳をはじめとして、日本における油絵の普及に大きく貢献した。
本作は油絵が逆境におかれるなかで発表された意欲作で、西洋美術をふまえて日本の伝説を描いた作品として話題を集めた。
日本の油絵の先駆的指導者である本多の代表作であり、技法や表現、題材など、明治時代の絵画の歴史を考えるうえで欠かせない作品である。
当時の日本の伝説・神話を題材とした油彩画と言えば、まず思い出すのは、2007年の重要文化財指定作品。
原田直次郎(1863-99)
《龍騎観音》
1890年、272×181cm
護国寺蔵(東京国立近代美術館寄託)

✳︎本展出品作ではない。東京国立近代美術館常設展で展示中。
そして、重要文化財には指定されていない(その画家では別の作品が指定されている)が、
山本芳翠(1850-1906)
《浦島》
1893-95年頃、122×168cm
岐阜県美術館

✳︎本展出品作ではない。
小学館の『日本美術全集 第16巻 激動期の美術(幕末から明治時代前期)》は、以上3点を並べて掲載している。
日本近代洋画における3大「奇怪」歴史画と言えようか。
他に特に見た展示品2選。
重文
《五百羅漢図》
朝鮮・高麗時代・14世紀、188.0×121.4cm
京都・知恩院蔵(九州国立博物館寄託)
すぐには判別できないが、長く眺めていると、多数の人物像が画面全体に描かれているのが見えてくる。
山岳景観の中央に釈迦三尊、その周囲に二天王、十大弟子、十六羅漢、五百羅漢等をあらわした1幅。
絵画様式から朝鮮半島の作と判断されるが、遅くとも江戸時代末には日本で中国画として尊ばれた。14世紀末までに制作された東アジアの五百羅漢図は5例しか現存が確認されておらず、本作はそのなかで唯一、1幅構成になる。
五百羅漢図制作の時間的・空間的・思想的ひろがりを具体的に考えるうえで欠くことのできない重要作である。
重文
《飛脚問屋井野口屋記録》
江戸時代・18~19世紀
大阪経済大学日本経済史研究所
歴史資料の部となるが、展示品そのものではなく、解説を楽しく読む。
飛脚問屋井野口屋は、享保8年(1723)に尾張藩から御用飛脚の認可を受けた後、明治2年(1869)まで、藩主や家臣の書状・金銭・荷物等の輸送を無償で請け負う代わりに、同藩領内の町村と主に京・大坂との間の通信運輸業務の独占を長期間認められた。
本記録は、井野口屋内部で作成されたものとみられ、袋綴装四ツ目綴の冊子装33冊からなり、記事の時期は享保8年(1723)から天保14年(1843)にわたり、井野口屋山田家の由緒、飛脚業の濫觴と尾張藩御用飛脚を務めるに至った経緯、その後の尾張藩との交渉や営業、家政等の記事を収録する。
飛脚問屋の家に伝来した資料が限られる中で、本記録は名古屋や京・大坂で活躍した町飛脚について、成立期から衰退期までの経営を俯することができる貴重な史料で、社会経済史上に学術的な価値が高い。
本館特別1室・2室は、壁面ケースに展示品を詰め込みすぎ、という印象。
本館11室の彫刻は、時間の関係でチラッと見ただけなので、再訪したい。会期が短いのが悩ましい。
この牛頭天王に関する詳しい論考は「美術史」64号1967年3月発行、西川新次元慶応大学教授による図版解説のみ。
コメントありがとうございます。
必ず見に行きたいと思います。楽しみです。
お教えいただきありがとうございます。