パリ・オペラ座 - 響き合う芸術の殿堂
2022年11月5日〜2023年2月5日
アーティゾン美術館
最初の6階展示室は、序曲の1875年竣工の「ガルニエ宮の誕生」、第1幕の「17世紀と18世紀」、第2幕の「19世紀(1)」。
エスカレーターで5階に移る。
5階展示室は、第3幕の「19世紀(2)」から始まる。
入場すると、いきなり正面に現れる大型画面の2作品。
エドゥアール・マネ(1832-83)
《ハムレット役のフォールの肖像》
1877年、196×129cm
ハンブルク美術館
エドゥアール・マネ
《ハムレット役のフォールの肖像》
1877年、194×131.5cm
フォルクヴァング美術館
マネの大型の肖像画2点。
ドイツの2つの美術館からやってきた、同じモデルを描いた別バージョンの作品が並んでいる。
前者が油彩スケッチ風に描いた作品。
後者が1877年のサロン出品作。
事前に情報を得ていなかったので、この対面に驚く。
アンブロワーズ・トマ(1811-96)作曲のフランス語による5幕のグランド・オペラ「ハムレット」。
1868年5月にパリ・オペラ座にて初演。
主役のハムレットを演じたのは、パリ・オペラ座で活躍する著名なバリトン歌手、ジャン・バティスト・フォール(1830-1914)。
フォールは、熱心な現代美術のコレクターであった。
モネ、ドガ、シスレー、ピサロといった印象派の画家たちや、アングル、プルードンなどの作品を所有していたらしい。
マネについては、1873年から蒐集を始め、なんと67点!!の作品を所有していたという。
凄いのは、所有作品の量だけでない。
レベルが凄い。
確認できた範囲だけでも、
《草上の昼食》 オルセー美術館
《笛を吹く少年》オルセー美術館
《スペインの歌い手》メトロポリタン美術館
《ローラ・ド・ヴァランス》オルセー美術館
《死せる闘牛士》ワシントンNG
《街の歌い手》 ボストン美術館
《鉄道》 ワシントンNG
《オペラ座の仮面舞踏会》ワシントンNG
と、尋常じゃない代表作揃いで、一挙に並ぶことがあったら、驚愕の世界。
そんなマネの熱心なコレクターであるフォールは、1876年のパリ・オペラ座の引退時に、マネに自身の肖像画の制作を依頼する。
マネは喜んで仕事に取りかかる。
そのときに制作されたのがこの2点。
大当たりしていたハムレット役。
剣を抜き、父の亡霊の前で復讐を誓う1幕3場の場面。
しかし、この肖像画がきっかけで、二人の関係は気まずくなっていく。
40回もフォールにポーズをとらせ、9回も描き直しをしたあげく、異なるポーズの絵を3枚破ってしまい、完成が大幅に遅れてしまったからである。
単色の空間に人物をシルエット風に描く、そんな作風が気に入らないフォール。
その作風に、何一つ手直しを加えるつもりがないマネ。
現フォルクヴァング美術館所蔵作品を1877年のサロンに出品し、入選こそしたものの、批評家や風刺画家たちに批判される。
(なお、同年のサロンには、《ナナ》ハンブルク美術館蔵も出品しているが、そちらは落選。)
結局、フォールは作品の購入を拒否する。
それでも、マネとフォールの縁が切れたわけではないらしい。
1882-83年の冬に、再度、マネはフォールの肖像画の制作に取り掛かる。
しかし、マネの死により完成に至らず。
次の作品は、3点残された習作の一つで、マネの遺族からフォールに贈られたものである。
【参考画像】
《ジャン・バティスト・フォールの肖像》
1882-83年、46×37.8cm
メトロポリタン美術館