東京でカラヴァッジョ 日記

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マネ《ハムレット役のフォールの肖像》 -「パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂 」展(アーティゾン美術館)

2022年12月16日 | 展覧会(西洋美術)
パリ・オペラ座 - 響き合う芸術の殿堂
2022年11月5日〜2023年2月5日
アーティゾン美術館
 
 
 最初の6階展示室は、序曲の1875年竣工の「ガルニエ宮の誕生」、第1幕の「17世紀と18世紀」、第2幕の「19世紀(1)」。
 
 エスカレーターで5階に移る。
 
 5階展示室は、第3幕の「19世紀(2)」から始まる。
 入場すると、いきなり正面に現れる大型画面の2作品。
 
 
エドゥアール・マネ(1832-83)
《ハムレット役のフォールの肖像》
1877年、196×129cm
ハンブルク美術館
 
エドゥアール・マネ
《ハムレット役のフォールの肖像》
1877年、194×131.5cm
フォルクヴァング美術館
 
 
 マネの大型の肖像画2点。
 
 ドイツの2つの美術館からやってきた、同じモデルを描いた別バージョンの作品が並んでいる。
 
 前者が油彩スケッチ風に描いた作品。
 後者が1877年のサロン出品作。
 
 事前に情報を得ていなかったので、この対面に驚く。
 
 
 
 アンブロワーズ・トマ(1811-96)作曲のフランス語による5幕のグランド・オペラ「ハムレット」。
 1868年5月にパリ・オペラ座にて初演。
 主役のハムレットを演じたのは、パリ・オペラ座で活躍する著名なバリトン歌手、ジャン・バティスト・フォール(1830-1914)。
 
 
 フォールは、熱心な現代美術のコレクターであった。
 
 モネ、ドガ、シスレー、ピサロといった印象派の画家たちや、アングル、プルードンなどの作品を所有していたらしい。
 
 マネについては、1873年から蒐集を始め、なんと67点!!の作品を所有していたという。
 
 凄いのは、所有作品の量だけでない。
 レベルが凄い。
 確認できた範囲だけでも、
 
《草上の昼食》 オルセー美術館
《笛を吹く少年》オルセー美術館
《スペインの歌い手》メトロポリタン美術館
《ローラ・ド・ヴァランス》オルセー美術館
《死せる闘牛士》ワシントンNG
《街の歌い手》 ボストン美術館
《鉄道》    ワシントンNG
《オペラ座の仮面舞踏会》ワシントンNG
 
と、尋常じゃない代表作揃いで、一挙に並ぶことがあったら、驚愕の世界。
 
 
 そんなマネの熱心なコレクターであるフォールは、1876年のパリ・オペラ座の引退時に、マネに自身の肖像画の制作を依頼する。
 マネは喜んで仕事に取りかかる。
 そのときに制作されたのがこの2点。
 
 
 大当たりしていたハムレット役。
 剣を抜き、父の亡霊の前で復讐を誓う1幕3場の場面。
 
 
 しかし、この肖像画がきっかけで、二人の関係は気まずくなっていく。
 
 40回もフォールにポーズをとらせ、9回も描き直しをしたあげく、異なるポーズの絵を3枚破ってしまい、完成が大幅に遅れてしまったからである。
 
 単色の空間に人物をシルエット風に描く、そんな作風が気に入らないフォール。
 その作風に、何一つ手直しを加えるつもりがないマネ。
 
 現フォルクヴァング美術館所蔵作品を1877年のサロンに出品し、入選こそしたものの、批評家や風刺画家たちに批判される。
(なお、同年のサロンには、《ナナ》ハンブルク美術館蔵も出品しているが、そちらは落選。)
 
 結局、フォールは作品の購入を拒否する。
 
 
 それでも、マネとフォールの縁が切れたわけではないらしい。
 
 1882-83年の冬に、再度、マネはフォールの肖像画の制作に取り掛かる。
 しかし、マネの死により完成に至らず。
 
 次の作品は、3点残された習作の一つで、マネの遺族からフォールに贈られたものである。
 
【参考画像】
《ジャン・バティスト・フォールの肖像》
1882-83年、46×37.8cm
メトロポリタン美術館


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