インキンタムシに感染したのは、高校時代
半世紀以上も前のことで冷房装置など無い時代
涼をとるのは自然に任せる以外に
方法がなかったころである
夕食後
じっとしているだけでも汗がしたたり落ちる
勉強どころでは無い、そんな時
下宿生の一人が「泳ぎに行こう」と切り出した
泳ぐといっても夜の川は危険である
中学校にプールができはじめていた頃で
そこにいくことになった
個人所有の海水パンツなど無い時代で
言い出しっぺが水泳部員だったこともあり
水泳部の部室に行き
部室に干してある海水パンツを
各々借用し、プールへと乗り込んだ
今もそうだと思うのだが
プールにはフェンスが回ってあり
それを海水パンツ一つの男が
よじ登るのであるから
今想像してみても笑える
部室に戻り
借用したパンツを水洗いし
横に渡した針金に干し始めた時
「ここの海パン誰がはいた」と聞くので
すかさず「俺」とこたえると
「こいつ、インキンタムシなんだよ」と
こともなげに答えた
インキンタムシのなんたるかも知らない私は
笑いながら下宿に戻ったものの
翌日から猛烈な痒みに襲われ
友人のアドバイスでタムチンキなるものを購入し
治療するも、いっこうによくなる気配もなく
恥ずかしさをこらえ病院へと向かう
先生の診察が終わり
若い看護婦さんがパンツをさげ
軟膏を塗ってくれるのだが
断頭台の上の死刑囚の心地に襲われた
痒みが襲ったときにボリボリと掻く時の
快感が忘れられず
完治しないまま現在に至っている
症状は軽いものの
暑い季節を迎えると
ついついボリボリと掻いてしまう
欲望に負けた姿で
半世紀
ああ、なんとることだ
<蚤の市>
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