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企業会計審議会 第38回監査部会議事録(金融庁)

企業会計審議会 第38回監査部会議事録

10月17日に開催された企業会計審議会監査部会の議事録が金融庁ウェブサイトで公開されました。

部会長が「監査報告書の透明化」について議論することを宣言し、金融庁の事務局が、これまでの経緯や海外動向などを説明しています。また、日本公認会計士協会の委員が、KAMの作成に係る試行の実施状況について述べています(KAMの趣旨等の説明含む)。試行の結果はまだ出ておらず、次回報告するようです。これらについては、公表されている会議資料を見ればだいたいわかります。

その後は、フリーディスカッションとなっています。

予想されたとおり、経済界の委員は消極的な意見を言っています。

「今回、新しい手続でございますので、懸念もございまして、新たなリスクとしてどのようなものが発生する可能性があるのか、例えば監査法人の新たな法的な責任が増えるのか、仮にKAMの記載内容に重大な齟齬や過失があった場合にはどういうことが起きるのか、監査委員会などとの関係もございます。また、監査の手続というのは非常に膨大な手続でございますので、その一部を記載することによってかえってそうした情報が市場に無用な混乱を誘発するようなリスクはないのか、また、記載内容に関する訴訟リスクは発生するのか、そういったことも懸念されるわけでございます。」(今給黎委員)

経団連の委員は、話をあまり拡げるなという趣旨のことをいっています。

「KAMは、あくまでも監査プロセスにおいて監査人が、何が重要な事項で、それに対してどう対処したのかという監査のプロセスを説明するお話でありまして、監査意見を書くという話であるとか、あるいは問題事象を発掘するというプロセスではなく、通常の監査プロセスをどのように行ったかを対外的に説明するものであるということを前提としてご議論いただければと思っております。」(小畑委員)

監査プロセスを説明するものという認識自体は正しいと思います。

利用者側は積極的な意見です。

「説明力を高める「監査報告書の透明化」というのは、私は一人の投資家としても大賛成ですし、私が活動しているICGNというグローバルの機関投資家団体も賛成ということで、ぜひ前向きに進めていただければと思っています。

あと、時期に関しても大変なこともあるかもしれませんが、既に先ほど事務局からご説明ありましたように、グローバルで導入されている中で日本だけが、ということもありますので、これは日本の投資家だけではなくてグローバルな投資家もそうだと思いますが、ある程度早期に導入していただければと思っております。」(井口委員)

「この「監査報告書の透明化」というのは、会計基準の変遷と密接に関連しているのではないかと考えております。かつて単体決算で税務と結びついた、ある意味で固い財務数値というのが公表されていたわけですけれども、連結となって税効果、減損と将来キャッシュフローの見積りというような見積り要素が入ってきました。その中で、監査実務等も当然に変わってきたと思われるのですが、監査報告書は従来から同じスタイルでやってきました。そういう将来見積りのようなものが業績に与えるインパクトが大きくなってきましたので、やはり我々としましても、適正意見が形成される過程何に注目して、特に力を入れて監査した項目を開示していただくというのは非常に有意義ではないかと思っております。

 長くなりましたけれども、最後にもう一度お伝えしたいのは、財務諸表利用者はKAMに大きな期待を寄せておりますので、ぜひ前向きな議論でお願いできればと思います。」(大瀧委員)

井口委員は、監査人のクオリティを見るのにも使えるといっています。

「最後3点目は、外部監査人のクオリティーチェックになると思っています。私は議決権行使の責任者でもありますが、外部監査人の交代のときの議案をどういうふうに判断していいのか難しいというのが事実です。本当でしたら、これはここでは関係ないですが、外部監査人の解任とか新任の時だけじゃなくて毎年議案に上げていただけると一番ありがたいと思います。外部監査人のクオリティーがこういう報告書を読めばわかるようになってくるのではないかと思います。」(井口委員)

会社法監査は別扱いすべきという意見。

「現在の開示スケジュールや会社のリソースを考えますと、現在の段階で、会社法でも要求するということにいたしますと、KAMの記載がボイラープレート化する、あるいは、表面的なものになるというリスクがありえ、KAM導入の意義が失われてしまうおそれもあるように思われます。...当面の間は、金商法上、場合によっては大規模な会社から導入してグッドプラクティスを形成していただいて、会社法で要求するというのは中期的な目標だと最初から設定しておくことのほうが、ひょっとしたら現実的なのではないかと現時点では感じております。」(弥永委員)

「先ほど来、会社法の関係のお話もございましたけれども、あくまでもこの場は企業会計審議会の監査部会でございますので、会社法のご議論、会社法に対する影響については、この部会における議論の対象外であるということを確認させていただきたいと思っております。」(小畑委員)

「先ほど会社法ではなくて金商法のみで対応するのがとりあえずはよいのではないかというご意見がございましたが、私もこれに賛成であります。ただその場合、当該期のKAMは有価証券報告書に記載されるということになります。今ほとんどの会社は総会の後に有価証券報告書を提出している現状ですが、総会におけるKAMに関する議論はどうなるのかと懸念します。望ましいのは総会前に有価証券報告書を提出することですが、現行の規定ではそうでなくてもよいわけで、そういうところの考え方も議論していただきたいと思います。」(岡田委員)

監査人側の意見。基本的には賛成だが懸念事項があるというスタンスのようです。

「KAMの制度化に当たって懸念される事項も多々あります。先ほど他の委員の方からもご発言がありましたが、まず頭に浮かぶのは、諸外国の事例を踏襲するかたちで、形式的な導入になってしまうのではないかという懸念です。そういう意味でも、まず、誰にどのようなニーズ・便益があるのかということをしっかり議論すべきだということを先ほど申し上げたわけです。個別領域に関しても、例えば何をKAMとして選定するのか、どのような記載内容にするのか。これらについては、諸外国の例にもありますように、一定のガイドラインを策定した上で、基本的には監査人の判断で進めていくことになると思います。従って、このKAMの記載内容は、基本的には監査に関する追加情報の提供ということで考えていくことになるのかと思いますが、先ほども少し話が出ていましたように、このKAMの記載内容そのものに関する責任の在り方については、一定の議論をしておく必要があると思います。中西委員からもご発言がありましたように、KAMとして記載した内容についての責任ということもありますが、逆に、監査上の重要事項があるにもかかわらずKAMとして記載しなかった場合はどのような責任が生じるのかといった点についても議論をしておく必要があろうかと思います。

 それから、監査人がKAMを記載する一連のプロセスにおいて、経営者・監査役はどのように関与していくべきなのか、または関与すべきでないのか。こういったことも議論する必要があろうかと思います。

 それからもう1点、KAMで記載される事項というのは監査上の重要事項ですから、財務諸表の注記においても、財務・会計上の重要事項として記載されているというケースが多いという状況を想定するわけですが、場合によってはKAMの中で説明される事項がオリジナル・インフォメーションといいますか、未公開の情報を開示することになるケースも想定されます。そういうケースがあるとするならば、監査人の守秘義務との関係がどうなるのかということも整理しておく必要があると思います。」(初川委員)

会計士協会会長も基本的に賛成といっていますが、あまりやりたくないなあという雰囲気も感じられます。

「導入する場合に懸念することもあります。守秘義務との関係はもちろんですけれども、諸外国で導入されたものをそのまま入れるというスタンスですと、気持ちが込められていないというところが出てくる可能性があると思います。先ほどから話に出ていますが、日本では、開示や監査制度が会社法と金商法に分かれている等の特徴がありますので、単に海外の制度を形式的に導入することではなく、日本の事情も踏まえて日本で実効性のあるものにする必要があります。またそれと同時に、紋切り型となってしまうと、今の報告書が長くなっただけであまり変わらないということになってしまい、導入する意義が半減しかねません。そのためには、本質にいかに迫っていくか、監査報告をどういう意義のあるものにしていくのかということが重要と考えております。そういう意味で、試行についても今取り組んでおります。限られた時間の中でどこまで本質に迫れるかというところはあるかと思いますが、この監査部会の場で議論をすることによって、よりよい基準の設定に向けて、皆さんの懸念も含めて議論をし、殻を破っていかなければいけないのではないかと思っています。また、諸外国でも簡単に導入されたわけではなく、おそらく、本日のような議論が当然にあったと思います。今はもう導入されているので結果だけを参考にしてしまいがちですけれども、そういった議論も参考にしながら、日本においての議論を進めていければと思います。」(関根委員)

青山学院大学の八田教授、町田教授、関西大学の松本教授ら、学者のコメントは、監査報告書のそもそも論からはじまって、興味深いものがありますが、長くなるので引用は省略します。八田教授は日本独自路線派のようです。また、KAM導入というワン・イシューの議論に矮小化するなという町田教授の意見は正論でしょう。

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