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日の丸火力 浮かぶ亀裂 三菱重工、日立に3800億円の負担要求(日経より)

日の丸火力 浮かぶ亀裂 三菱重工、日立に3800億円の負担要求(記事冒頭のみ)

三菱重工業と日立製作所が南アフリカの発電所建設の損失負担をめぐり大もめだという記事。

「三菱重工業が南アフリカの火力発電所建設で発生した損失負担を巡り、日立製作所と争っている。両社は火力発電事業で2年前に事業統合して新会社を設立、世界に打って出る態勢を整えたばかり。三菱重工が3800億円もの損失をいきなり日立に負担するよう求めて表面化したが、そこには三菱重工の厳しい懐事情が透けて見える。」

「問題の案件は2007年に日立が受注した総額5700億円のプロジェクト。受注当初、11年だった1基目の運転開始は15年にずれ込むなど工期は大幅に遅れた。同案件は三菱重工と日立が14年に火力発電事業を統合してできた三菱日立パワーシステムズ(MHPS)が引き継いだ。

三菱重工は受注条件などに問題があったとして、MHPS発足後に発生した損失も日立が負担すべきだと主張、3790億円を日立に請求している。一方、日立は統合後の損失はMHPSのものとして出資比率(三菱重工が65%、日立が35%)に応じて決算に反映させるべきだとしている。

三菱重工は「当社に非はない。当然返ってくるはずの金だ」(幹部)として、15〜16年度決算に反映させ、流動資産を2500億円積み増した。だが、2年の交渉でも日立は動かない。株主への説明責任にも迫られ、しびれを切らした三菱重工が公表に踏み切った。

日立が自社の負担分として引き当てているのは1000億円程度。仲裁など第三者による解決に委ねられる見通しだが、日立から満額回収できなければ、三菱重工は不足分について、損失計上を迫られる。」

まず、3800億円請求されている日立の有報(2016年3月期)をみてみると、偶発債務として以下のような注記があります。

「...南ア事業譲渡に係る当社と三菱重工との間の契約においては、分割効力発生日より前の事象に起因する偶発債務及び同日時点において既に発生済みの請求権につき当社及びHPAが責任を持ち、分割効力発生日以降の事業遂行につきMHPS及びMHPSアフリカが責任を持つことを前提に、分割効力発生日時点の将来工程及び当該工程に基づいて予想したプロジェクト収支に係る両社の合意と確認に基づき最終譲渡価格を決定し、暫定価格との差額を調整する旨が合意されている。

南ア事業に係る譲渡価格調整については、当社と三菱重工との間で引続き協議中であり、合意に達していない。2016年3月31日、当社は三菱重工より、当該譲渡価格調整金等の一部として48,200百万南アフリカランド(1ランド=7.87円換算で約3,790億円)をMHPSアフリカに支払うように請求を受けた。これに対して当社は、同4月6日、当該請求書簡の記載内容は契約に基づく法的根拠に欠けるため請求に応じられない旨の回答を、三菱重工に提示した。

なお、当社は、上記の南ア事業に係る契約に関連して、合理的な見積に基づく引当金を計上している。また、この内容に基づく支払額は引当計上した金額と異なる可能性がある。」

ところが、2015年3月期の有報(連結財務諸表)で「注29.コミットメント及び偶発事象」をみてみると、この件に関してはふれていない模様です。もしかすると別の箇所に書いてあるのかもしれませんが、そうでなければ、偶発債務の注記漏れではないでしょうか。というのは、2016年3月になって三菱重工業から請求があったとしても、それ以前から契約に基づき交渉をしており、偶発債務としては存在していたわけですから、注記も当然必要です。

他方、三菱重工業の方は、日経記事によれば、日立から受け取る見込みのカネを利益に計上しているようです。しかし、まだ交渉中なのですから、偶発利益にすぎず、利益計上できないものではないのでしょうか。

三菱重が日立に巨額請求の泥沼、更なる損失拡大も?(2016年5月)(ダイヤモンドオンライン)

「問題のプロジェクトは、2007年に日立が南アの電力会社から合計5700億円で受注した。その際に政権与党の関連企業に不適切な支払いがあった疑いで米証券取引委員会(SEC)の調査を受け、日立が1900万ドル(約21億円)の民事制裁金を支払った、といういわく付きの案件だ。

14年のMHPS発足時点で、既に損失が見込まれており、その負担をめぐって三菱重工と日立の協議が難航。MHPS設立の契約締結が遅れるほどの「一番の問題案件」(MHPS幹部)だった。

結局、三菱重工と日立はプロジェクトが進捗した後、収支などを見極めた上で、日立側が調整金を支払うことで合意した。だが、その金額算定法に対する両社の考え方の溝は埋まっていなかった。」

日経記事では、すでに決まった損失の両社における負担の問題のように書いていますが、損失がさらに膨らむ恐れもあるようです。

「問題はこれだけにとどまらない。実は、この懸案の南アプロジェクトが遅延し、さらに損失が膨らむリスクすら浮上している。

80万キロワットの発電システム12基を建造する巨大プロジェクト──。これまでも、このプロジェクト(MHPSはボイラ部分を担当)は遅延続きだった。当初、初号機の稼働は11年の予定だったが、実現したのは4年遅れの昨年8月だった。」

「ここにきて、新たな遅延リスクも高まっている。昨年、同プロジェクトでタービンを担当する仏重電アルストムが制御装置の不具合解消に苦戦したため、彼らの仕事の一部をスイスのABBが請け負うことになったのだ。巨大プロジェクトだけに、一つのパートが滞るだけで、事業全体のボトルネックとなってしまうのだ。

プロジェクトが生む損失の全容が見えない中、三菱重工と日立の幹部は問題の着地点を見いだせないでいる。混乱は深まるばかりだ。」

追加損失に関して、きちんと見積もりを行い、必要な引き当てを行っているのでしょうか。

日立に関してはこんな記事も。

日立子会社に罰金56億円 米司法省が価格カルテルで再び(産経)

少し前の記事ですが...

三菱重工、豪華客船で払った高すぎる授業料
注文こなせず混乱、造船事業は縮小か
(東洋経済)

「...実績作りを急ぐあまり、1番船を手掛けるリスクを精査せず、ひいては契約面でも甘さを残す。専業の造船会社であれば、経営が傾くほどの巨額損失を出した背景には、起死回生を狙った造船部門の焦りが窺える。

こうした状況は経営管理のほころびも露呈。造船所ごとの独立性の高さがあだとなり、着手から2年程度は工程遅延など正確な状況を経営陣が把握できずにいた。2013年度にやっと、幹部以下担当者の入れ替えやエンジニアリング部門の投入でテコ入れを図ったが、挽回に至らなかった。」

この損失も小出しに出しているような印象を受けます。
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