金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第二次中間整理の公表について
金融庁は、金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」第二次中間整理を、2022年12月21日に公表しました。
「市場インフラの機能向上とスタートアップ企業等への円滑な資金供給を中心に検討を行い、取引所と PTS の機能強化や公正価値評価の促進等、利用者の利便向上と保護を図っていくための制度化を含めた施策について、掘り下げた審議を行ってきた」検討結果をとりまとめたものとのことです。
市場インフラの機能強化、スタートアップ企業等への円滑な資金供給、その他の環境整備に分かれています。
以下、気になる箇所を抜き書きしました。会計基準や会計監査に関係してきそうな項目もあります。
投資単位の大きい上場株式に係る投資単位の引下げ
「個人投資家が投資しやすい環境を整備するための取組みの一環として、東京証券取引所等は、投資単位の大きい上場株式を発行している企業に対して、投資単位引下げに向けた更なる取組みを促すべきである。」
機関投資家等による非上場株式の取引活性化
「...非上場株式のセカンダリー市場が機能するためには、より多くの機関投資家・特定投資家の市場への参加とともに、スタートアップ企業の株主の取引ニーズを踏まえた仲介が重要であり、広く経済界・金融界も参加しての特定投資家制度の普及、非上場株式取引促進への取組みとともに、新規参入も含めたより多くの証券会社の仲介事業への参入が期待される。また、このような観点から、例えば「特定投資家向け有価証券」の売買の媒介のみを行う証券会社や PTS の参入要件の緩和等について、引き続き検討を行っていくことが考えられる。」
「プライマリー市場についても、特定投資家私募制度を活用したスタートアップ企業の資金調達の円滑化について検討していくことが考えられる。」
公正価値評価の促進
「日本においては、非上場株式を公正価値で評価している VC ファンドは一部に留まるが、国際的には、公正価値による評価が、企業の現状及び将来性について合理的な分析を行うための手段であるとして、広く利用されている。スタートアップ企業等への出資判断やセカンダリーでの非上場株式等の取引を行う場合を含め、適切な企業価値評価を通じて非上場株式等のパフォーマンスが評価され、投資先管理や投資先の企業価値向上に向けた取組みに活用されれば、経済全体の成長につながっていくものと考えられる。また、公正価値評価が普及すれば、国内外の機関投資家からより多くの成長資金が VC ファンド等に供給されることも期待される。」
「日本においては、VC ファンドの評価や監査の実務の蓄積が少なく、出資する上場企業等も会計基準に沿って取得原価に減損等を勘案した評価を求めるという実態があることから、まずは公正価値評価を推進するための環境整備を進めるべきであると考えられる。こうした中、より多くの監査法人・公認会計士が公正価値評価を行う VC ファンドの監査を円滑に行えるよう、監査手続のポイント等を共有する観点から、日本公認会計士協会において、VC ファンドの監査に関する実務指針を改正すべきである。また、上場企業等が保有する VC ファンドの出資持分に関して、関係者が連携した上で公正価値評価を含む会計処理の実務上の取扱いのあり方を検討することが期待される。」
新規公開(IPO)プロセスのあり方
「新規上場企業は、その株式を証券保管振替機構の取扱対象とする必要があり、振替法上の手続として、「一定の日」の1か月前までに、既存株主に振替株式の交付先の口座情報を求める通知を行うこととされている。このような期間の設定方法が上場日程短縮の制約の1つになっているため、証券会社や信託銀行等の関係者の実務の改善により、上場日程の短縮が可能となるような環境整備を進めることが重要である。」
「取引所には、宇宙、素材、ヘルスケアなど先端的な領域において新技術を活用して成長を目指す研究開発型企業(いわゆるディープテック企業)など、企業特性による企業価値評価が難しく、ビジネスモデルの評価に対する見解が分かれうる企業についても、円滑に上場できるようにしていくための取組みが求められている。」
ダイレクトリスティング
「ダイレクトリスティングを利用しやすい環境を整備するため、東京証券取引所は、グロース市場において公募の実施を一律の上場要件としていることを見直すべきである。」
「ダイレクトリスティングを利用する発行者は上場の際に資金調達を行わないため有価証券届出書の提出義務が課せられない。そのため、市場における取引開始までに有価証券報告書を提出することにより投資家に対する適切な情報開示を確保するなど、東京証券取引所において、投資家保護にも留意しつつ、発行者が円滑な上場を行えるよう制度整備を行うべきである。」
投資法人における利益の取扱い
「投資法人制度においては、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益といった「評価・換算差額等」を当期未処分利益と同様に「利益」として扱ってきた。投資法人は、減損損失がある場合等に「評価・換算差額等」に相当する金額を配当することとなり、当該金額は繰越損失として扱われる。この繰越損失分、翌期において当期未処分利益が少なく計上されることが投資家にとってわかりづらいとの指摘がある。
投資家が投資判断をする上で必要な投資法人の状況に関する情報をわかりやすく提供するため、会社法上の剰余金における取扱いと同様、投資信託及び投資法人に関する法律(以下、「投信法」という。)上、「評価・換算差額等」については「利益」として取り扱わないようにすべきである。」
「 見直しにより、例えば、投資法人が評価・換算差額等に相当する額を配当する場合、見直し後は利益項目の繰越損失を計上するのではなくなり(出資総額等が減少する処理を行うこととなる)、業績の悪化との混同を避けることができると考えられる。また、投資法人は、利益(損失)を出資総額へ組入れ(控除)ができるが、投資法人の利益から評価・換算差額等を除くこととすると、この評価・換算差額等を含まないベースで組入れや控除が行われ、実現利益ベースでの処理となり、より実態が把握しやすくなると考えられる。」
「東証によると、10月26日時点で最低投資金額が50万円以上の銘柄は上場企業全体の5%にあたる197社あり、うち100万円以上の銘柄は39社ある。日本取引所グループの清田瞭最高経営責任者(CEO)は11月29日の記者会見で「ファストリ株が分割されれば(他の企業にも分割が広がる)1つのきっかけになるだろう」と述べていた。」