会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

東芝、監査法人変更へ 本決算巡りあらたと溝(日経より)

東芝、監査法人変更へ 本決算巡りあらたと溝(記事冒頭のみ)

東芝が会計基準を日本基準に変更し、監査人を準大手に交代させるという共同通信配信の報道を少し前に取り上げましたが、日経も後追い記事を出したようです。ただし、会計基準変更にはふれていません。

「東芝が決算の会計監査を担当しているPwCあらた監査法人を変更する方針を固めた。米原子力子会社の過去の会計処理などを巡り意見が対立し、2016年4〜12月期決算は監査法人による「適正」との意見を得られなかった。17年3月期の本決算の監査でもあらたとの溝は埋まらないと判断し、株式の上場維持へ向け準大手の監査法人を軸に後任選びを急ぐ。」

17年3月期の本決算から変更するということになると、任期満了ではなく、期中の交代になるので、それ自体異例なことです。

「東芝は米ウエスチングハウス(WH)の内部統制の不備や昨年12月に発覚した巨額損失の認識時期で、あらたと見解が対立している。東芝はあらたの要求に応じ監査委員会が第三者に依頼して約3カ月に及ぶ調査をした。過年度決算の訂正を必要とする事象はないと結論づけたが、あらたは急に発生した巨額損失に疑義を唱え、なお調査が必要だと主張している。」

会社の言い分に基づいて記事にしているようです。急に大きな損失が出てきたことについて、会社がきちんと原因を調べていないことがそもそも問題なのであって、監査人が疑問を抱くのは当然でしょう。

東芝、適切な監査に疑問 上場維持へ苦渋の選択(日経)(記事冒頭のみ)

「適切な監査に疑問」とか「苦渋の選択」とか、見出しからして、会社寄りです。

「東芝は米子会社の過去の会計処理は問題ないと結論づけている。米国の弁護士などに依頼して約60万件のメールをチェックし数十人の関係者にインタビューをしたが、決算を訂正すべき事象は見つからなかった。前任の新日本も「問題ない」とみているようだ。

それでも調査が必要だと主張するPwCあらたとの対立は解消のメドが立たない。東芝は「調査結果には自信がある。これ以上、調査をしても何も出てこない」(綱川智社長)と判断し、水面下で監査法人の交代を検討し始めた。」

準大手を選ぶ理由は...

トーマツやあずさといった大手は過去の取引などで利害関係があり選任が難しい。規模の小さい準大手に依頼する見通しだが、東芝のような大企業の監査は人手が必要で他の監査法人から人を借りる必要がある。新日本が業務引き継ぎなどの支援をするとみられるが「あらたが『不表明』とした企業に適正意見を出せるのか」(監査法人幹部)との声は多い。」

実際の手続きの大部分を別の監査法人にやらせて、報告書の名前だけ準大手の監査法人にするというのは、名義貸しに近いので、当然認められません。人数が足りないというだけでなく、東芝が採用している米国会計基準に精通した人材の確保などの問題もあります。

また、「過去の取引などで利害関係があり」というのは、監査人の独立性ルールで制限されているような非監査業務をやっているということなのでしょう。大手としては、東芝向けの非監査業務でそこそこ儲けている(あるいは儲けられる可能性がある)のに、それを捨ててまで、リスクの高い監査を契約したくないというのが本音でしょう。予定外の期中交代なので、そうした非監査業務を終わらせたり、パートナーなどの東芝株などへの投資を解消するなどの措置が間に合わないという事情もありそうです。

しかし、独立性ルールということでいえば、報酬依存度の問題もあります。たしか、1監査クライアント(グループ会社含む)で15%以内というのが目安なので、東芝の監査報酬が10億円とすると、監査を引き受けられるのは70億円程度以上の売上がある監査法人に限られます(それ以下では東芝への依存度が高くなりすぎて独立性が疑われる)。大手や準大手ならこの条件はクリアしていますが、それ以下の規模の法人では難しいでしょう。本来は、大手しかできないような規模の会社です。

大手監査法人が(特に期中で)投げ出した監査クライアントを中小監査法人がひろうと、駆け込み寺監査法人だということで、金融庁検査で徹底的に調べられ、処分を受けるというケースがたまにありますが、このケースではどうなのでしょう。金融庁の方で忖度して、厳しいことはいわないのかもしれませんが...。

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東芝 監査法人変更へ 意見対立、解消めど立たず(毎日)

「東芝とPwCあらたは、経営破綻した米原発子会社ウェスチングハウス(WH)の元幹部が、損失を少なく見積もるよう部下に圧力をかけたとされる問題などを巡って意見が対立。過去にさかのぼってさらに詳細な調査を求めるPwCあらたに対し、東芝は「不適切な圧力は調査で判明したが、決算への影響はない」と結論付け、監査法人の意見なしで16年4~12月期決算を発表した。

その後も東芝はPwCあらたと協議を続けてきたが、溝は埋まらないと判断した模様だ。東芝は5月に17年3月期決算を発表する予定で、「意見不表明」のまま決算を提出すれば上場廃止になる可能性もあるため、監査法人を変更して適正意見を得ることを目指す方針だ。」

まさにオピニオン・ショッピングです。

「また、東芝の会計基準は米国基準なのに対し、準大手の監査法人は日本基準を採用しており、会計基準変更につながる可能性がある。」

監査法人がどのような会計基準を採用しているかは、関係ありません。

準大手では、米国会計基準を採用している会社の監査をやるための能力が乏しい(日本基準採用会社(とごく一部のIFRS採用会社)の監査経験しかないなど)ということでしょう。

東芝が監査法人変更へ“巨額損失”めぐり溝埋まらず(テレビ朝日)

「ただ、引き受ける別の監査法人があるのかどうか情勢は不透明です。」

こういうのは、後任が決まってからリークしないと...。
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