企業M&A、買収側が違約金の事例増える…日鉄とUSスチールの契約でも設定
(米国の状況のようですが)合併・買収(M&A)取引が破談になった場合に買収側が違約金を支払うことを契約に盛り込む事例が増えているという記事。
「他の買い手に都合良く乗り換えることなどを防ぐため、売り手側へ違約金を課すことは一般的だ。加えて、最近は買い手側にも違約金の支払いを求める例が増えている。資金的な問題や独占禁止当局の認可が下りずに不成立となる案件が増加したことが背景にある。買い手側が支払う違約金は取引額の1~5%で設定されることが多い。
米投資銀行フーリハン・ローキーの調査では、主な米企業のM&Aで買い手側に対する違約金が設定された契約は、2017年の44%から、23年には62%にまで増加した。違約金の設定額も増えている。」
日本製鉄とUSスチールの場合は...
「売り手のUSスチールは、別の買収提案に乗り換える場合などに、日鉄に5億6500万ドル(約890億円)を支払う。当局の許認可を取得できず買収が不成立となった場合などは、買い手の日鉄が同額をUSスチールに支払う。今年6月18日が契約上の期限だが、自動的に支払い義務が発生するわけではない。」
実際に買い手側が多額の違約金を支払った事例もあるそうです。
「買い手側が違約金を支払う事例は出ている。米インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムは22年8月、ロボット掃除機「ルンバ」を生産する米アイロボットを17億ドルで買収すると公表したが、規制当局から承認を得られる見通しが立たず、9400万ドルの違約金を支払った。米ソフトウェア大手アドビも同業フィグマの買収を23年12月に断念し、10億ドルの違約金を支払った。」
会計的には、違約金の損失を日本製鉄がどのタイミングで計上するかが気になります。報道を見る限りでは、支払うことになる可能性は相当高いように思われます。
また、偶発債務の注記や、財務諸表外ですが、重要契約の開示なども注目されます。
あまりに理不尽…!日本製鉄のUSスチール買収を妨害した「ライバルの正体」と、ふたたび露わになる日本とアメリカの「本当の関係」(現代ビジネス)
「安全保障を理由にした行政の介入に関しては、司法があえて覆さない傾向がある。さらに、民主党のバイデン大統領の後任となる共和党のトランプ次期大統領も、買収阻止に関しては一致している。
禁止命令は、2月2日までに日本製鉄とUSスチールが取引を完全に放棄するための措置を講じなければならないと定めている。米弁護士ニック・クライン氏はロイター通信に対し、「勝訴は絶望的かもしれないが、提訴でトランプ次期政権との交渉の時間稼ぎはできる」との見方を示した。
確かにトランプ氏には、中国共産党との深い関係が疑われる人気ソーシャルメディアTikTokの米企業への身売り強制に関して、賛成から反対へと立場を180度翻した「前科」がある。
しかし、それは大統領選を資金面から支えてくれた富豪ジェフリー・ヤス氏がTikTokの親会社バイトダンスの株式の7%、さらにヤス氏が経営する米サスケハナ・インターナショナル・グループがバイトダンスの15%を保有しているためだと言われる。
一方で、日本製鉄はヤス氏やイーロン・マスク氏のように、大統領選でトランプ氏に大金を献金したわけではない。しかも、USスチール買収阻止はトランプ候補の選挙における公約であった。
米国第一主義を掲げるトランプ氏の心変わりは望み薄だろう。」
「日本製鉄によるUSスチール買収の“失敗の本質”は、冷厳な国際政治の力学を無視した「日米は対等な関係であるはず(べき)だ、自由経済の原則は両国に平等に適用される」という、お花畑的でナイーブな考えにも起因している。
なぜなら、1945年8月の日本によるポツダム宣言受諾に際して、トルーマン大統領からマッカーサー元帥に対し行われた通達は、「日本との関係は契約的基礎に立つのでなく、無条件降伏に基づくものである」と規定しており、これは1952年の日本「独立」後も基本的に変わっていないからだ。
1980年代後半から1990年代初頭の日米貿易摩擦の最中に元駐米大使を務めた故村田良平氏が、自身の執筆した『村田良平回想録』の中でいみじくも指摘したように、日米同盟は本来敗戦によって押し付けられた屈辱的な条約であり、現在の日米関係は「良識を超えた特殊関係」なのである。
日本製鉄のUSスチール買収失敗は、この「勝者の圧政」の文脈で捉えなければ理解できない。」
「日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは1月7日の会見で、「現在の契約に基づいて買収計画を進める。現段階で代替案はない」と述べたが、現実に即したプランBを持たない経営者は株主から信頼されないだろう。」