「IFRS採用のメリットと課題の検討及びそれに基づく我が国の対応について検討することを目的」とした論文ですが、メリットはともかくとして、26項目挙がっている課題(デメリット・懸念事項を含む)がなかなか興味深いので紹介したいと思います。
論文でゴシックになっている部分を見出しにしています。カッコ内は当サイトによる要約です。
1.基本思考(世界的な実務に定着している基本思考と大きく異なっており、実務的な混乱が懸念される。)
2.業績の変動性(景気循環増幅効果問題)
3.原則主義(企業間で異なった処理方法が取られ比較可能性を確保できない。)
4.経路依存性(歴史的背景を無視)
5.会計基準の選択(複数の会計基準を市場で競争させた方が投資家の利益がよりよく確保される。)
6.会計基準の質(会計基準間の適正な競争がない。)
7.設定権限(日本の機関に設定権限がない。)
8.発言力(日本はフォロアーの立場に追いやられる。)
9.政治化(特定の国のポリティカルな力関係に左右される(たとえば欧州の金融機関が不利益を受けないように金融商品会計基準を改正))。
10.設定プロセス(デュープロセスを経ない基準設定)
11.自国の会計基準設定(独自基準の設定が不活発になり、IFRSのラバースタンプ化現象が生じる。)
12.ローカルエンドースメント・メカニズムとカーブアウト(適切でない基準を適用除外(カーブアウト)すると完全版IFRSではなくなり、IFRS準拠の表示ができなくなる。)
13.会計制度の完全性(EUの同等性評価において完全に整備された会計制度が我が国に存在することが実証されている。)
14.周辺制度との関連(法律等の周辺制度との調整がより難しくなる。)
15.個別・連結の関係(制度間の不調和を増幅)
16.利害調整会計(配当規制や課税所得計算について全く配慮していない。)
17.国際展開しない国内上場企業(メリットがほとんどない。)
18.中小企業・非上場企業(投資意思決定への有用性を重視するIFRS適用は不適切)
19.課税強化(税法が歳入確保の考え方からIFRSを一部採用し、課税強化が起こる可能性)
20.実施(各国の経済・慣習等に影響され、財務報告の質に違いが残る。)
21.言語(基準設定過程で日本語が使用できず不利、また、解釈にあたって常に英語版を参照しなければならない。)
22.開示(XBRL用の開示項目が少ない。)
23.教育訓練(コストと手間)
24.監査法人の系列化(英語を母語とする米英系の大手監査法人の力がますます強くなる。)
25.内部統制(IFRS導入に伴う適切な内部統制の整備運用)
26.コスト(例えば移行時において多くのコストと手間がかかる。)
個々の項目はほとんどがどこかでみたことのあるようなものですが、26項目もあるとそれなりに迫力があります。
基本思考の違いについてはこちらのコラム記事が参考になるかもしれません。
「利益は過去しか表さない」が示唆すること
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