「よくある質問:継続企業の前提に関する事項の監査報告書における報告」の翻訳の公表について
日本公認会計士協会は、国際監査・保証基準審議会(International Auditing and Assurance Standards Board:IAASB)から公表された「よくある質問:継続企業の前提に関する事項の監査報告書における報告」(原題:Frequently Asked Questions : Reporting Going Concern Matters in the Auditor’s Report)(2022年8月公表)の翻訳を公表しました。
「国際監査・保証基準審議会(International Auditing and Assurance Standards Board:IAASB)の「継続企業」タスクフォースが、国際監査基準(ISAs)に従って作成された監査報告書における「継続企業の前提に関する重要な不確実性」区分、「監査上の主要な検討事項(KAM)」区分及び「強調事項」区分の使用とそれらの相互関係に関する「よくある質問」の幾つかを取りまとめたもの」とのことです。
全9ページの資料です。
この資料によると、「Close Call」という言葉があるそうです。
「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が識別されたものの、これらの事象又は状況に対処するための経営者の計画を検討した結果、経営者及び監査人が重要な不確実性は存在しないと結論付けるような状況は、しばしば「Close Call」の状況と呼ばれる。」
「Close Call」の状況における開示について、IFRSでも議論されているそうです。
「2014年、国際会計基準審議会解釈指針委員会は、IAS第1号「財務諸表の表示」における「Close Call」の状況に関連する要求事項を明確にするアジェンダ決定を公表した。さらに、2021年 1月、 IFRS財団は、経営者の継続企業の開示に対応した教育 文 書 を 公 表 し 、 こ の 中 で も 「 Close Call」の状況に関連するガイダンスを提供している。」
今回の「よくある質問」では、IFRS適用で「Close Call」の状況にある場合の、監査報告書における継続企業やKAM、強調事項の記載について、フローチャートで説明しています。
(前から感じていたのですが、会計士協会による翻訳は、国際監査基準ベースの文書であっても、Going Concernを「継続企業の前提」と訳しているようです。しかし、Going Concernは単に「継続企業」であって「前提」という意味は含まれていないはずです。「継続企業」という訳語でいいのではないかと思われます。たとえば、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような重要な不確実性が認められる」と訳されている箇所は、原文では a material uncertainty exists that may cast significant doubt on the entity’s ability to continue as a going concern です。「その企業の継続企業として存続する能力に重要な疑義を投げかけるような重要な不確実性が存在する」というような直訳の方が、国際監査基準の規定をより正確に反映することになると思われます(もちろんもっとよい訳もあるでしょう)。言葉の意味として、そもそも「前提」は「前提」を立てる側が自由に設定できるものであり、実態を表しているものであるかどうかは関係ないので、「疑義」の有無の対象ではないでしょう。その「前提」を採用することが適切かどうかに関する「疑義」はありえますが。)