いつも話だけの人

去年の夏

母の様子がおかしくて

急にというわけではなかった

去年の始め頃から

少しずつ様子がおかしかった

仕事の電話を受けても頓珍漢

言ったはずのことも抜けっぱなし

本人自覚なし

物忘れの症状が急速に進んでいたのだ

きのうまで毎日やってきたことが
わからない

郵便物の中身はむちゃくちゃに送る

いくら年のせいとは言え
これは仕事だ

わたしは毎日のように
ブチ切れていた

隣の病院の駐車場の車の中に
住んでいる男の人がいて
いろんな女の人がその車に訪ねてくるとか

自分の普通の生活音にその人が
いやがらせでわざとドアをバタンバタンされるとか

この暑いときに駐車場の車の中に
人が住むわけがない

そんな話を聞いて
看護師である夫の姉が

「交替でお母さんの所に泊まってあげた方がいいんじゃないの」

っていってたよって

なのになぜ？

おかあさんの所に行ってやれって
言わないの？

脳外科でMRIとった方がいいんじゃないか

そういうくせになぜ？
じゃあいつ行く？っていったら黙ってるの？

連れて行ってやれって言わないの？

とうとう母は
ある日曜日胸が苦しいと訴え
親切な隣の奥さんが当直医に連れて行ってくれた

心電図を取っても特に異常なし

よく月曜日の夕方
わたしは普通にいつものとおり

それじゃまたあしたねって
自宅に帰った

その夜突然母の携帯から

胸が苦しい　救急車呼んでちょうだい

自宅から救急車を頼んで
すぐに息子が祖母が一人住む家に向かい
救急車に同行した

結果は同じ　特に異常なし
心因性のものでしょうと


長男の指示でその日から
わたしは母と暮らし始めた

ただそばにいるだけでよかった

なぜそれをさせてくれなかったのか

いつも話だけ　期待させるだけ

意味がわからない