多摩川サイクリングロードの車窓から

ヒルクライム最速タイヤを探せ②~タイヤは回る、されど進まず

その①の続きです。

 今回は数式が増えますが、苦手な方は結論だけ読んでいただいても支障はありません。

 前回は、位置エネルギーと転がり抵抗の2つから巡航に必要な出力を計算しましたが、重要な要素を意図的に無視していました。それが何かというと、ホイール(とタイヤ)の回転運動エネルギーです。

 ホイールの軽量化は他の部分の2倍の効果がある、などとよく言われています。なぜかといえば、フレーム・人体など回転しない部分は直進する運動エネルギーだけを持ちますが、ホイールは回転するので直進運動エネルギーに加えて回転運動エネルギーを持ちます。そのため、ホイールを軽量化すれば2つの運動エネルギーを減らすことが出来るので一石二鳥なのです。

 回転運動エネルギーを計算するためには慣性モーメントの計算が必要で、ホイールのようなリング状の物体は以下の数式で求めることが出来ます。


 この式で気づいた方もいると思いますが、回転半径が小さいと慣性モーメントも小さくなります。ホイールの重量において重要なのはリムであり、ハブの軽量化はあまり意味がない、と言われるのはこのためです。


 具体的な数字をちょっと計算して見ます。上の図のようにホイールとタイヤの2つを分けて考えると数式は以下になります。


 ホイールはWH-9000-C24-CL、タイヤはGP4000SⅡ、チューブは70gの軽量ブチルとし、20km/hにおける運動エネルギーはこうなりました。



 他のホイールやタイヤであっても、両者の比率はほぼ同じになるはずです。ホイールの軽量化は2倍の効果があるというのは、感覚論ではなく数字の裏付けがあるのです。



 ホイールの回転運動を論じて来ましたが、実はまだまだ問題があります。上の数式にある運動エネルギーはホイールを加速させる時に必要なものであり、速度を維持するだけの巡航時には関係ない、ということです。
 物体には慣性というものがあり、抵抗を受けなければ半永久的に速度を維持し続けます。これは直線でも回転でも変わりません。極端な例ですが、地球が何十億年にもわたって自転や公転を続けているのはなぜか?宇宙には抵抗となる空気も何も無いため慣性で回り続けるから、です。
 地球と異なり自転車には様々な抵抗があるので減速していきますが、その抵抗の分だけエネルギーを入力し続ければ速度を維持できます。
 ではその抵抗には何があるのか?

a.空気抵抗
b.タイヤの転がり抵抗
c.ハブ、チェーンなどの機械的損失
d.上昇による位置エネルギー(登り坂の場合のみ)

 考えられるのはこんなところです。
 このうち、転がり抵抗と位置エネルギーについてはその①で計算してあります。富士ヒルのコースを90分ペースの時速16km/hで走り、タイヤがGP4000SⅡ・ホイールがWH-9000-C24-CLの場合、



となっていました。

 仮にホイールをリム高50mmのWH-9000-C50-CLに交換した場合、リムの重さは767gから1060gになります。この場合どうなるかというと、



 となります。その差、わずか0.68W。まあ誤差みたいなもんですね、こりゃ。

 機械的損失については、ホイールがたかだか300g重くなったからってハブやチェーンの抵抗が有意に変わるとは思えないので無視してよいでしょう。

 空気抵抗はというと、リム高が24mmから50mmになっていますので、むしろ減少します。

 というわけで、C24よりもC50の方が空気抵抗が減少する分だけ有利になりそうですね。


・・
・・・

 んな訳ねーだろ。

 俺自身、実感として登りでは軽いホイール有利だと感じますし、昨年の富士ヒル上位入賞者の自転車を見ても軒並みリムの低い軽量ホイールを使っています。これほどの強豪選手が平地用のディープリムホイールを持っていないとは思えませんので、空力より軽量化を重視して選んだのでしょう。

 それに加えて、サイスポ2017年2月号で興味深い記事がありました。

 屋内トラックコースにて40km/h巡航をする時の出力を測定し、それがホイールのリム高さによってどう変わるか?という実験です。ホイール以外は全く同じ自転車、乗り手も同じ人です。その結果はというと、

アイオロスXXX(リム高21mm):350W
アイオロス3(リム高35mm):344W
アイオロス5(リム高50mm):338W
アイオロス7(リム高70mm):338W
アイオロス9(リム高90mm):350W

 リムが高くなれば空気抵抗が減るにも関わらず、アイオロス9は出力が増えているのです。これはどういうことか。転がり抵抗で12Wも増えるわけないし、屋内競技場ですから横風の影響もない。ホイールが重くなったことが何らかの理由で抵抗になった、としか考えられません。
 巡航においてもホイールの重さは抵抗になるのです。とはいうものの、今まで使ってきた物理の公式が間違っているはずもありません。

 ならば、間違っているのは前提です。自転車の抵抗は

a.空気抵抗
b.タイヤの転がり抵抗
c.ハブ、チェーンなどの機械的損失
d.上昇による位置エネルギー(登り坂の場合のみ)

 の4つだと書きましたが、もう一つ、ホイールの重量に起因する何かがある、ということになります。

 次回はこの謎の抵抗(笑):X[W]を何とかして数字にしてみたいと思います。

その③に続く

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